1. ホーム
  2. エッセイ
  3. 【ひねもすのたりワゴン生活】9日間、2000㎞のぐうたらワゴン旅 その7

【ひねもすのたりワゴン生活】9日間、2000㎞のぐうたらワゴン旅 その7

2021年12月11日

信長、秀吉、家康の真似をして大湖を見下ろしてみる

 翌朝、カーテンの隙間から差す光で目が覚めた。両手で開くと見事な眺望が……。 これまで見てきた光景とはずいぶん印象が違う。圧倒的な存在感で迫っていた空がちょっと控えめで、湖面が雄々しく見えた。
 雄大な空に抱かれた湖……岸や、ボートの上から見ていた琵琶湖はそんなイメージだったけれど、ホテルの窓から目に入ったのは、湖面と空ががっぷり四つに組み合っているような姿だった。目の前の大津港には何組ものブラックバスの釣り人が見えた。何組も…というのは、カップルが多かったからで、ちょっと新鮮だった。ロッドを置いてステンレスポットからコーヒを注いでいたりして、微笑ましい。
 かつて、ゲームフィッシングの先達が、バスフィッシングはコミュケ―ションスポーツだ…と語っていたことがあるが、まさにそんな光景だった。

朝、ホテルの前に広がる大津港に出てみると、釣りを楽しむ人々がいた。カップルも多く、ほのぼのとした光景…

 チェックアウト時刻が徐々に迫ってくる。ふと、琵琶湖をもっと高い所から眺めてみたいと思った。この日も予定は決まっていなかったから、それもいいんじゃないか…と、観光ガイドを眺めていると、連れ合いが三井寺を訪ねたいと言い出した。調べてみると、大津市街を見下ろす高台にある。好機到来…。
 仕事以外で大津の街を走るのは初めてだった。道が入り組んだ古都らしい町並みは、昼に散歩しても楽しそうだ。高速道路の長距離巡行は心地いいけれど、変化に富んで人の息遣いが感じられる通りを右に左にゆっくりと走るのも、心豊かで楽しい。こういうドライブは東京ではなかなか味わえない。人気のパン屋を捜して、小道を迷いながらしばらく巡ってしまったけれど、それはそれで味がある。

琵琶湖を抱くような街や山。新鮮な眺めだった

 やがて、三井寺に到着。人の姿はまばらで、展望台があるという。願ったり叶ったりだ。
 少し息切れしながら上っていくと、大津の街並みが眼下に広がった。ここからだと、あの琵琶湖が大津の街に抱かれているようで、愛らしく見えるのがおかしい。
 三井寺は、信長、秀吉、家康が、覇を手にしようと時代を走っていた頃、足を運んだことでも知られる。行き当たりばったりでぐうたらな旅をする私には想像もつかない激しい生き様の男たちは、ここから琵琶湖を眺め、天下取りに想いを馳せたはずである。その時、この大湖は彼らの目にどう映ったのだろうか。

三井寺は人影もばばら。のんびりと信長の時代に想いを馳せる
鐘みくじという水に浸すおみくじがあって…
こんなふうに文字が浮かび上がってくる。それを社務所に持っていって運勢の書かれたおみくじと交換というわけ

 さて、三井寺の後は、比叡山を走ることにした。その晩は神戸に泊まることにしていたので、京都に立ち寄ろうかと思ったけれど、あの街なかの渋滞が苦手なのと、行った先々で駐車場を捜す面倒が頭を過った。
 東名で高速巡行を味わい、大津の街並みをのんびりと巡り、今度はコーナーとアップダウンの山道…三種三様のドライブを楽しむことになったが、これも気の向くままぐうたら旅の魅力。
 比叡山ドライブウエイは、爽快だった。思ったより傾斜があって、お世辞にも軽快とは言えない我が相棒は唸りながら上がっていく。ライトウェイトのスポーツカーだったらひと味もふた味も違うドライブが楽しめるだろうなぁ…などと妄想しながらステアリングを切るが、これはこれで高揚する。当たり前だけれど、延暦寺のさまざまな施設の案内や看板が現れることで、比叡山を走っているという実感が湧いてくるということも後押ししてくれるのだろう。
 さて、しばしそんなドライブを味わい、終点にたどり着くと、雄琴あたりで湖西道路へ…。昨日と同じように大津方面に走るのだが、かつては有料道路だった路線なので、前日の西近江路に比べればスムースで走りやすい。
 そして名神に入り、新名神経由で神戸までの高速道路ドライブとなった。

【筆者の紹介】
三浦 修
BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。

【ひねもすのたりワゴン生活】
旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。