【ひねもすのたりワゴン生活】コットンテントの誘惑 その8

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六本木の思い出、「アウトドアリゾートパーク」

空前のブームで、各地のキャンプ場はカラフルなテントで埋め尽くされています。そのほとんどは軽くて強靭な最新素材ですが、コットンの魅力に惹かれる人々も…。私もそのひとりで、十代の半ばに出会って50年近く…今も、この少し手間のかかるパートナーをクルマに積み込んで、至福のひとときを過ごしています。

 オアシスに関してはとても思い出深い出来事がある。今回は、コットンテントの真価を、あるイベントで、アウトドアとは無縁だったり、興味もなかったりするような若い女性たちに言い当てられた驚くやら嬉しいやらの顛末を少々…。
 2013年、六本木のミッドタウンの中庭で開かれたイベントに招かれた私は、東京を代表する繁華街の真ん中で、オアシスをメインにしたセッティングを披露することになった。
 それはコールマンジャパンが開催した「アウトドアリゾートをつくろう。in Tokyo Midtown」という都市型体験イベント。従来のアウトドアイベントが、キャンプ場などの山や川、海といったフィールドで開催されることが多かったのに対し、大都会で行なうことによって、それまで接点の少なかった人々にこの遊びの魅力や雰囲気を味わってもらいたい…という意図が込められていた。それは、「アウトドアリゾートパーク」となって翌年も引き継がれ、2015年には青山に会場を移し、さらにスケールアップした。同年には大阪でも開催され、西日本のファンを喜ばせた。

高層ビルが並ぶ六本木の街、ミッドタウンの脇に広がる緑のスペース…そこに現れた夢の空間

 私たちの世代にとって、六本木は夜のイメージが強い。1970年代の終わりから80年代の頭にかけてカフェバーやディスコは時代を牽引した観があったし、その後、バブル経済の到来によってまさに狂乱と呼べる時代を迎える。イタ飯なんて言葉に代表される飲食の流行もこのエリアが発信地となることが多かった。
 しかし、六本木ヒルズや東京ミッドタウンの誕生が徐々にこの街の匂いも変えていった。バブルの終焉によって夜の街としての勢いが衰えたという側面もあるだろうが、映画やショッピング、グルメなど、昼の時間帯を楽しむ施設が増え、そこに足を運ぶ人々の顔ぶれも変わっていった。ある意味、ギャンブルの街から、家族や友人とエンターテーメントやショッピングを楽しむ街へと変わっていったラスベガスの姿にも重なる。
 このイベントは、そんな目的で週末、六本木にやってきた人々がふらりと立ち寄るというシチュエーションを前提に企画されたのだった。まさに前代未聞……私にとっても未経験な世界だった。ゲストの多くがキャンプの未経験者だったり、極端なことを言えばまったく興味がない人だったりする可能性が高いわけで、テントやシュラフ、クーラーボックスくらいは知っていても、他のツールは「これ、なに?」と腕組みする光景が頭に浮かぶ。

話題のテント、アウトドア関連のブースが並んだ

 そんなゲストをどんなふうに迎えればいいのか…どうアプローチすればいいのか…どうやって喜ばせようか…そんなことが去来したけれど、一方で経験したことのないような出会いに心が躍った。事前に会場となるミッドタウンへ出かけてみると、巨大なビルに囲まれたスペースが待っていた。それは、これまで関わってきたどんなイベントとも異なる光景だった。
 しかし、開催前日……次々と機材が持ち込まれ、準備が進んでいくと、徐々にカラフルな公園のように姿を変えていった。まさに、大都会の中のリゾートパーク。とっぷりと日が暮れた六本木の片隅に生まれたそんな空間で、ひとり飲んだ缶ビールの美味さは忘れられない。

 初日。見事な青空のもとで「アウトドアリゾートをつくろう。in Tokyo Midtown」は幕を開けた。開場前には、事前にこのイベントを知ったキャンプファンが長蛇の列を作ったが、ミッドタウンから会場へエントリーする階段からその光景が目に入った時は息を呑んだ。
 開場と共にそんな人々が次々と入ってくる。居並ぶテントやタープを興味津々で眺める人もいれば、アウトレットに直行しお目当ての商品を手際よくピックアップする人もいた。いずれにしても、こういった世界を楽しんできた顔である。

2013年、私の展示はコットンテントのみ。素材を合わせてウッドとキャンバスのディレクターチェアを持ち込んだ
翌年、タープでダイニングスペースとキッチンを併設

※画像は2013年、2014年のもの

【筆者の紹介】
三浦 修
BXやXMのワゴンを乗り継いで、現在はEクラスのワゴンをパートナーに、晴耕雨読なぐうたら生活。月刊誌編集長を経て、編集執筆や企画で糊口をしのぐ典型的活字中毒者。

【ひねもすのたりワゴン生活】
旅、キャンプ、釣り、果樹園…相棒のステーションワゴンとのんびり暮らすあれやこれやを綴ったエッセイ。