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初テスト マイクロリーノ2.0 キュートでラブリーなあのイセッタがマイクロEVとして帰ってきた 

2021年7月27日

スイスの電気自動車「イセッタEV」の運転はこんなに楽しい。電動で、コンパクトで、本当にキュート。マイクロリーノは、日常生活で本当に必要な車がいかに少ないかを示すためにデザインされた。我々はそのスイスのミニモビールを走らせてみた。以下にレポート。

人が一人でAからBまで移動するのに、実際にはどのくらいのスペースが必要なのだろうか?
SUVやステーションワゴン、あるいはコンパクトカーのようなスペースでさえ必要なのだろうか?
極論すれば、日常的な移動にはそんなものは必要ないだろう。
基本的には、2つのシートと多少の収納スペースがあれば十分なのだ。
そこで登場したのが、マイクロリーノだ。
スイスのマイクロ社は、この小さな電気自動車で、車がどんどん大きくなっていく傾向に逆らい、モビリティの可能性を示したいと考えている。
果たしてその実力は?
我々は試してみた。

https://youtu.be/8lYoEatEllw

1950年代のキャビンスクーターがモデル

生まれ故郷であるチューリッヒでの現地視察と初試乗。
マイクロ社は、大きな一戸建ての最上階に在り、1階はボディショップとなっている。
そしてその前には、マイクロリーノと呼ばれるカラフルなボールがたくさん並んでいて、見ているだけでニヤニヤしてくる。
「1950年代のキャブスクーターをベースにした、時代を超えたデザインにしたかったんです」、とマイクロ社のCMOであるメルリン アウボーター氏は説明する。
フロントヒンジ式のドアは、もちろんBMWイセッタを思い起こさせる。
しかし、マイクロリーノは、イセッタのコピー商品ではない。
フロントとリアの連続したライトストリップと、エクステリアミラーに組み込まれたLEDヘッドライトが、モダンな印象を与えている。

最初のプロトタイプとは対照的に、市販のマイクロリーノは、チューブラーフレームの代わりに自立したボディを採用している。

マットグレーのテスト車両は、まだプロトタイプだ。
ドアを開けて乗り込む。
昔のイセッタと異なり、ステアリングホイールとステアリングコラムは固定されていて、左右に連なるベンチシートに座る。
コックピットの写真はまだ撮ることを許可されにものの、試作車らしく、開発作業中の部分も見受けられる。
もちろん、すべては生産化までには完成されていくという。
ステアリングホイールの後ろにはデジタルコックピットがあり、ドアの中のホルダーにも小さなディスプレイが備わっている。
暖房システム、Bluetoothミュージックボックス、スマートフォンホルダー、シートヒーターまで兼ね備わっている。
車検証上では、二輪車に分類されるマイクロリーノだが、アメニティはすでに充実している。

わずか20馬力でも運転が楽しいマイクロリーノ

マットなグレーがマイクロリーノをより一層際立たせている。通りすがりの人のコメントは、「まるで小さな戦車のようだ」と表現した。

さて、ハンドブレーキを解除し、ギアセレクトを「D」にセットして、いざ出発だ。
15kWの電気モーター(20馬力)が、約450kgの車両重量に対して、容易に仕事をしていることがすぐに感じ取れる。
2人乗っていても、上り坂での50km/hは問題ない。
最高速度は90km/hだが、この領域ではかなり速く感じる。
カーブでははたして大丈夫なのだろうか、と思ってしまうが実は楽しい。
比較的広いリアトラックと独立したサスペンションのおかげで、マイクロリーノは、コーナーを上手に曲がることができる。
ステアリングはノンパワーで、ダイレクト感がある。
プロトタイプでは、ダンピング材が不足していたためか、かなり大きな音が出ていた。
しかし、これは量産時には改善されるだろうし、高すぎるシートポジションも改善されるだろう。

最大航続距離は200km

その一方で、街中での好感度の高さはすでに抜群だ。
人々は首をかしげたり、スマートフォンを取り出したり、後ろを見たりしている。
このクルマの全長は2.4メートルもしかないのに、道路上でこれほど目立ったことはない。
しかも、マイクロリーノには、2人の人間に加えて、荷物を積むスペースもある。
飲み物の入った木箱が2つあっても、トランクには問題ないだろう。
我々はあまり遠くまでいかないうちに、マイクロ社に戻らなければならなかったが、バッテリーはまだ十分に残っていた。
マイクロリーノは、8kWhバッテリー仕様で最大125km、14.4kWh仕様で最大200kmの航続距離があるとしている。
さらにバッテリーは家庭用コンセントで、約4時間で充電可能となっている。

価格は約12,500ユーロ(約165万円)から

スライドウィンドウと手動式フォールディングルーフを備えたマイクロリーノは、シンプルさに回帰している。それが必要なすべてだ。

マイクロリーノはまだホモロゲーション取得の段階にあるが、マイクロリーノ社は、2021年秋に市販モデルの生産を開始し、2021年末までに、最初のユニットを納入できるよう計画している。
価格は約12,500ユーロ(約165万円)からとなる予定である。
すでに約22,000人のユーザーが購入に関心を寄せているとのこと。
ファーストエディションの代わりとして、先着500名の購入者には、マイクロリーノのトランクに収まるペダルスクーターが無償で提供されるというのも、なかなか粋なはからいといえよう。

結論:
マイクロリーノは、本格的な自動車にはなり得ないし、なることも意図していない。
また、市販化製品となるまでには、まだやるべきことがある。
しかし、このプロトタイプはすでに有望で、運転するのが楽しい。
短時間の移動や、通勤時のセカンドカー代わりとして活躍できる、小型のEVとして多くの可能性のあるコンセプトなので、市販化にはますます期待が高まる。

現在ドイツで売れているEVは、「フォルクスワーゲンUP!(のEV)」なのだという。考えてみれば、アウトバーンをガンガン走ったり、長距離を一気に走ったりするような用途には、まだ今のEVでは不満足な部分も多いし、第一に価格の問題もあるだろう。
そういう意味では、街中を中心にしたコミューター的な使い方としての小さなEV、というのは「UP!」限らず、現時点では一番有用で、合目的的なカテゴリーなのではないだろうか。
今回の「マイクロリーノ(イセッタ)」も、もちろんそういうコミューターの一台であり、これで長距離を走ったりするような自動車ではないことは一目瞭然である。そういう目で見ると、このイセッタはなんとも魅了的に見える。何しろかわいいルックスだし、小さいことで駐車スペースの問題なども(かつてスマートがヨーロッパにおいて、路上に縦に置いてレストランなどに行ったような使い方をされていたように)、この「マイクロリーノ」も、ちょこまかと街中を走るための一台なのである。
ヨーロッパのように、路上駐車が合法的に許されている場所で、縦に置いた場合、フロントドアから降りられるのは便利だし、排気ガスを出さないことによって多くのヨーロッパの街では歓迎されるのではないだろうか。
フロントドアによる前面衝突の安全性や、やや頼りなく見えるシート構造、エアバックが付いているか、ABSだって装備されているかどうか不明である。だがヨーロッパで売られている小さなマイクロカーのように、濡れない程度のスクーター感覚で考えれば十分実用的だし、なにしろお洒落である。エアコンも短時間なら不要と割り切ればいいし、乗る場所を限定すればきっと弱者の足になりえると思う。
日本でも地方の都市や、過疎の村などで、こういう簡便なEVが気楽に購入できるようになったら、きっと魅力的なモビリティが成立すると思えるのだが……。

Text: Moritz Doka
加筆: 大林晃平
Photo: Micro