初テスト 新型マセラティ ギブリ トロフェオに初試乗 そのロードインプレッションと評価

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マセラティ ギブリ トロフェオ。
イタリアの誘惑: マセラティ ギブリ トロフェオがレーストラックに登場。
パワーセダンの新たなライバル: 580馬力のマセラティ ギブリ トロフェオは、単独のテストでも、レーストラックでもその実力を証明できたであろうか?
以下にそのドライビングレポートをお届けする。

服が人を作るなら、エンジンが車を作るといえよう。
それは「マセラティ ギブリ」も、もちろん例外ではない。
このセダンは、マセラティの中でも最もノーマルなモデルといえるが、残念ながら、「ギブリ」はドイツでの登録台数が3桁を超えることはなかった。
つまり、「ギブリ」に乗るということは、他の車よりも目立つということなのだ。

フェラーリの遺伝子を受け継いだ508馬力のV8エンジンを搭載した「ギブリ トロフェオ」。
そして2020年末からは、さらにエクスクルーシブになった。
4ドアモデルに初めてV8を搭載した「トロフェオ」が登場したのだ。
フェラーリの遺伝子を受け継ぐ3.8リッターツインターボは580馬力と730ニュートンメートルを発生し、自由に動き回る。
時速326kmに達すると、空気抵抗と転がり抵抗だけが自然なリミッターとなり、息を呑むようなパフォーマンスを発揮する。
一方で、ディテールにこだわる人は、インテリアを見るだけでワクワクするだろう。
「トロフェオ」では、厚手の香り高いレザーに赤い装飾的なステッチが施され、アルミニウムとカーボンがふんだんに使用されている。
そして、ドアパネルの上にはアルカンターラが使用されている。
ドライバーの前にはアナログ時計、センターにはワイヤレスのApple CarPlayに対応した鮮やかなディスプレイが備わっている。
そのビルドクオリティ(製造品質)は満点ではないものの、ギャップ(隙間)がやや大きいマイナーな問題を除けば、大きな批判はこれといってない。
ボイスコントロールはナビゲーションコマンドを即座に実行することもできる。

エキゾチックなパワーハウス。580馬力V8を搭載したギブリは、今回トロフェオとなり、さらに高級感を増している。

オートマチックとエンジンは必ずしもスムーズなデュオ(ペア)ではない
特にフルロード時には、高回転になってもサウンドイメージがやや控えめであることが気になる。
その部分ではBMW M5」のような競合モデルの方が、乗員に威圧感を与えているように思える。
一方、シャシーについては、アスファルト路面の凹凸に敏感に反応するため、もう少し落ち着きが欲しいところだ。しかし、スプリングの硬さは問題なくスムーズだ。
シフトワークは定評のあるZF社製8速オートマチックが担当しているが、マセラティでは感度が足りない。
例えば発進時、ギブリが後輪を空転させないようにアクセルを敏感に操作しなければならない。
むろん、トラクションコントロールを作動させておけば問題ないが…。
また、自動シフトダウンの際には、時折ギクシャクすることもある。
このクラスの大型セダンに、なぜ競合他社が全輪駆動システムを採用するのか、その理由がハンドリングの面で明らかになる。
特にタイトなコーナーでは、リアアクスルにパワーが集中するため、良いことづくめ、なのだ。

発進時には、アクセルペダルを優しくコントロールしないと、ギブリは後輪を滑らせてしまう。

レーストラックでは、敏感な「ESP(横滑り防止装置)」が不足している。
ここでは非常に早く作動してしまうからだ。
そして横向きになった途端、「ギブリ トロフェオ」は、コントロールが難しくなり、ドリフトの角度はアクセルではほとんどコントロールできない。
公道でもサーキットでも役立つより綿密な「ESP」の設定が望まれる。
現状では、コントロールが厳密に働き、高速ラップの芽を摘み取ってしまうので、ドライバーは自力で走ることができない。
ストレートでは、V8が2.1トンの車を200km/h以上に加速させるが、コーナー立ち上がりのトラクションが不足していることは、サーキットで計測された211km/hという最高速度にも表れている。
「AMG GLC 63 S」は、スプリントタイムは劣るものの、同地点で4km/h上回っている。
「ギブリ」は長いコーナーをニュートラルからややアンダーステアで抜けていくので、コントロールしやすい。

捕まえるのが難しい。トロフェオでは、リアエンドが流れ出すと、かなりのドライビングスキルが要求される。

最終的に、ストップウォッチは1分34秒86というラップタイムを示した。
勢いはあるものの、決した傑出した数値ではない。
それにもかかわらず、エレガントな「V8ギブリ」は、たとえもう少しパワーが少なくても、十分なドライビングパフォーマンスを発揮した。
「ギブリ トロフェオ」は131,007ユーロ(約1,755万円)から販売されており、我々がテストしたバージョンは、132,078ユーロ(約1,770万円)と、それよりわずかに高かった。

結論:
「ギブリ トロフェオ」は、パワーとエレガンスを独自の方法で融合させたモデルだ。
しかし、惜しいのは、より洗練された駆動方式を採用すれば、この魅力的なセダンをさらにエレガントに、そして何よりもアスファルトの上をより速く走らせることができるはずだという点だ。
AUTO BILDテストスコア: 400満点中259点

「マセラティ ギブリ」がドイツでの売れ行きがあまり良くないと聞き、日本での販売台数をしらべてみたのだが、やはり日本でも大ヒットとなっているわけではなかった。もちろんマセラティが大ヒットとなって街にあふれたら、それはそれで問題でもある。ほかの人と違うという希少さこそ、マセラティに求められる部分かもしれないからだ。
それでももう少し「ギブリ」は売れてもいいとも思うのは、その内容が魅力的であり、積極的に選択したいようなハイパフォーマンスセダンであるからだ。残念ながらディーゼルエンジンモデルこそ、その販売を終えてしまったが、ガソリンエンジンのマセラティのほうがよりマセラティらしいと感じる人が多かったということも事実であるし、それは誰にとっても正直な気持ちなのだろう。
では、そんなギブリが売れない理由とはなにか。個人的には「クアトロポルテ」との違いが少ないから、なのではないだろうかと推測している。もちろん兄貴分の「クアトロポルテ」とはその内容も、大きさも違うクルマではあるのだが、「ギブリ」のデザインも大きさも、実はそれほど「クアトロポルテ」と変わらないような印象を与えてしまっている。実際にギブリも決して小さくはないクルマだし、エンジンももうほとんど「クアトロポルテ」と変わらないほどのハイパフォーマンスぶりだ。
せっかくだったら「クアトロポルテ」と「ギブリ」の差をもっと大きくし、お互いが得になるような関係になっていたら良かったのに、と思ってならない。

Text: Mirko Menke, Stefan Novitski
加筆: 大林晃平
Photo: Christian Bittmann