【名車シリーズ】伝説のストレートシックス 4台の50~80年代直列6気筒アイコンモデル そのうちの1台は日本車

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直6レジェンドたち。メルセデス・ベンツ300SL、ジャガーEタイプ3.8 OTS、BMW M1、そしてニッサン スカイラインGT-R R32。世代を超えた、それぞれに異なるキャラクターを持つ4台だが、彼らには共通点がある。それは4台とも直列6気筒をコンセプトとしたモデルであることで、いずれも今や伝説的存在になった。形も年代も違うが、直列6気筒エンジンを持つ、伝説的な車4台。あなたなら、一番先にどれに乗ってみたいだろうか??

50年代の直列6気筒アイコン: メルセデス・ベンツ300SL

66年前に生まれたクルマとはとても思えないほどカッコいいスポーツカーだ。直列6気筒エンジンの神話は、50年代半ば、「メルセデス・ベンツ300SL」から始まった。6気筒エンジンはこのスーパースポーツカーのアイコンを弾丸のように加速させた。300SLは82kgチューブラーフレームを採用したために、デザイナーは乗り降りしやすく、かつ緊急時にも対応できるよう、自動車史上最も伝説的なガルウィングドアを採用することを必然的に強いられた(簡単に折り曲げ可能なステアリングなども、そうである)。

今でも走る能力は天下一品。今の自動車の性能に劣ることはない。もちろん運転するにはテクニックは必要だが・・・。
ガルウィングドアに砲弾型ミラー。これぞ「300SL」だ!
間違いなく、メルセデス・ベンツの中ではもっとも特別な一台で、我が国では力道山や石原裕次郎が所有していたことでも有名だ。
乗り降りしやすいように、簡単に曲がるステアリングホイール。ダッシュボード上のいかしたメッキのミラーはもちろん標準装備。
スティック状のシフトノブと、ざっくりしたカーペット生地はこの時代のメルセデスらしい雰囲気。
決してスパルタンではないことが、この写真からもわかろう。全体の雰囲気はラグジュアリーでさえある。
軽量ボディに搭載された3リットルの直噴エンジンは時代を先取りしたものだった。
「300SL」のシルエットは時代を超越した美しいラインを備え、ガルウィングドアは70年近く経っても、まったくその魅力を失っていない。

メルセデス・ベンツ300SLとは: メルセデス・ベンツの歴代のクルマの中で最高の一台とはどれか?と聞かれた時に、セダンであれば、「6.3だとか、「いや6.9だ」「500Eに決まってる」などと、意見が分かれるだろうが、スポーツカーといえば「300SL」と圧倒的に票が一致することは明らかである。その「300SL」のエンジンは生産車として、世界で最初の(ガソリン)燃料噴射式エンジンであり、言うまでもなく6気筒であった。その名の通り3リッターの直6エンジンは215馬力を発生し、4MTと組み合わされ、当時の最高の高性能車であった。もちろん、ガルウィングドアやル マン24時間レース、石原裕次郎と力道山、といった「300SL」の名声を、ここまで高めたアイテムやエピソードは多数ある。それでも現在まで、そしてこれからも「300SL」を圧倒的スターとして、君臨させる圧倒的理由は、この世界最初の燃料噴射装置を備えた「ストレート6」なのである。そして21世紀も20年以上を経過した現在、メルセデス・ベンツは再び直列6気筒エンジンを復活させつつある…。それはメルセデス・ベンツファンにとっては、なんとも嬉しい話題なのである。(大林浩平)

60年代の直列6気筒アイコン: ジャガーEタイプ

「ジャガーEタイプ」はすべてのフロントエンジンスポーツカーの理想像だ。
60年代に生まれたこの英国車は50年以上もの間、多くのメーカーのお手本となり、多くのオープン2シータースポーツの開発に影響を与え続けている真の名車だ。
ジャガーと言えば、この車を思い出す人も多いはず。ミニ、ロールスロイスと並ぶ英国車を代表するアイコン、それが「Eタイプ」だ。
映画「シャレード」でオードリー ヘップバーンは歩道から、ドアを開けずにポーンと椅子の上に飛び乗っていたものである(それがまた、なんとも粋で素敵だった)。それほど車高も、ドアも低いのである。繊細なドアハンドルとレギュレーターハンドルが美しい。
繊細なメッキが施された美しいオーバーライダーとエグゾーストパイプ。
前方にガバッと開くボンネットを開けると現れる「ストレート6」。キャブレターとヘッドカバーがなんとも格好いい。ダンロップの懐かしいパターンにもご注目。
シフトノブやサイドブレーキレバーも繊細で美しい。繊細な板金ドレスとは対照的に、「直6ジャガーEタイプ3.8 OTS」はとても男性的なクルマだ。イグニッションにキーを差し込んで、チョークをひいてエンジンをかける・・・。それが本来のスポーツカーだったのだ。

ジャガーEタイプとは: ジャガーといえば、おそらく「XJ」か「Eタイプ」と答えるエンスージャストは多いだろう。もちろん他にもいくつもの名車もあるが、それでも人の心に残っているジャガーとは「XJ」、そしてこの「Eタイプ」である。今考えてみれば、エンジンのラインナップは6気筒と12気筒、という倍々ゲーム的な極端なもので、普通であれば4気筒と6気筒、あるいは6気筒と8気筒、のようなラインナップを思いつくのが普通なのではないか。それがいきなり6と12という極端さ、そこがなんとも当時は不思議だった。そんなエンジンラインナップの中から、今でも12気筒を「潮が満ちてくるような」圧倒的完全バランシングを備えたウルトラスムーズなエンジンとして絶賛する声も多い。では6気筒モデルとは、12気筒エンジンを買うことのできない廉価版だったのか、というとそんなことは絶対になく、6気筒の利点を生かしたスポーツカーとしては、こちらのほうが圧倒的にハンドリングも優れ、乗って楽しいクルマというのが昔から普遍の評価である。そんなジャガーなのに、現在のラインナップの中に直列6気筒エンジンは見当たらない。12気筒エンジンが見当たらないのはあきらめる?にしても、直列6気筒エンジンの存在しないジャガーは、なんとも寂しく思えてしまうのである。(大林浩平)

70年代の直列6気筒アイコン: BMW M1

「M1」の歴史は直列6気筒シリーズのエピソードの中でももっとも感動的なものの1つだが、そのモデルのエンディングは決して幸福なものとは言えなかった。 「M1」のルーツはレースにあった。「M1」は、本当はグループ4でチャンピオンとなると同時に、プロダクションモデルとして、BMWからの初のスーパースポーツカーになるはずだった。しかし残念なことに、「M1」はどちらにもなりえなかった。グループ4のマシンとしては重量が超過していたために失敗し、スーパースポーツカーとしては同じ価格帯に、もっと強力で高速で、何よりも名門の車が多すぎたというのが原因となって販売的には失敗した。内容は文句なく素晴らしく、現在でも十分に通用する性能であることを考えるならば、大変残念なことだ。ドライバーの後ろに備わった世にも美しい響きを奏でる名器、BMW製直列6気筒エンジンは、こうして悲劇のヒーローになったのだった。
両側についたBMWのエンブレムが「M1」のアクセント(もちろんこれが標準の姿である)。ジュウジアーロのデザインらしい、直線基調のボディがシンプルできれいだ。こけおどしのエアロパーツや、過剰な演出などはこのクルマには無用なのである。
過剰な演出はなく、いたってビジネスライクな室内。作りなども素晴らしく上質ではあるのだが、こういう質実剛健なところもライバルのスーパースポーツを好むような層には訴求しなかったのではないだろうか。
BMW M部門製の「ストレート6」。この写真からも作りが良いことがわかるだろう。同時代のイタリアンスーパースポーツカーたちとは大きな違いがある。

BMW M1とは: 「BMW M1」が日本に上陸した時のインプレッションを、今でも鮮明におぼえている。当時のCG誌の記事には、「右足の動きに1000分の1秒の遅れもなく反応する」と記されており、とにかくドキドキしながら読んだ(覚えた)ものだった。今思えば、「1000分の1秒も遅れないなんて、そんなこと乗って感じ取れるわけないじゃないか」とも思うが、インプレッションというものは人を愉しませる文章であるべきだから、今でも名フレーズだという気持ちに変わりはない。そして「BMW M1」の魅力は超絶なトランスミッションの精度とかハンドリング、複雑な生まれた背景、ジョルジェット ジウジアーロによるスタイリングなどなど、いくつも存在するが、それでも圧倒的に「M1」を「M1」として成立させているのは、BMWのM部門(当時は今とは比較にならないほど特別な存在だったのである)が、精魂込めて作りあげた「ストレート6(直列6気筒エンジン)」なのである。(大林浩平)

80年代の直列6気筒アイコン: 日産スカイラインGTR R32

日産はこれまでに6世代にわたってGT-Rシリーズを開発販売しているが、この3代目こそが、すべての世代で最も輝かしいモデルだ。「GT-R R32」は、スカイラインをビースト(獣)化させた。
未だに「GT-R」と言えば、この色、この形を思い浮かべる人も多いのではないだろうか? それほどの存在感と性能を世界に発信したのが、このクルマなのである。
サイズも今見るとコンパクトである(まあ、それだけ世の中の自動車が、ここ30年で肥大してしまったということでもあるのだが・・・)。
30年が経過してもあまり古臭く見えない内装、エアバックのないステアリングホイールは標準装備のモノだ。シートなどもかなり未来的な形状と生地を使用していた。当時の日産らしい圧迫感の少ないインスツルメンツパネルもよく考えられたデザインである。ちょっと皮が傷んではいるけれど、一切のスイッチ類の備わらないシンプルで美しいステアリングホイールにも注目。
280馬力2.6リッターツインターボが、電子制御により効率よく4輪を駆動する。
日本から来たこのゴジラは、グループA生まれのツインターボエンジンによってのみ真価を発揮するが、ハイテク爆撃機「GT-R」の優れたドライビングダイナミクスは、コーナリング時にも特に顕著に発揮される。それは電子的な4輪の制御が素晴らしく優れているからだ。

日産スカイラインGT-R(R32)とは: この「R32スカイラインGT-R」が生まれた1989年は、日本車のヴィンテージイヤーと呼ばれている。「レクサスLS400」、「ユーノスロードスター」、そしてこの「R32」。今でもそれらは世界的に高い評価を得ているし、不思議なことに30年を経過しても古臭く見えない(レクサスLS400は8気筒、ユーノスロードスターは4気筒なので、偶然か、一世を風靡したクルマが、4、6、8気筒エンジンの一台ずつというのも興味深い)
そんな中でも、この「スカイラインGT-R」は世界に「日本車が高性能舞台へデビューする」といった狼煙を高々と掲げた一台といえる。当時は今と違いスカイラインラインナップの1台であった「GT-R」だが、その内容は、他のスカイラインとまったくの別物で、とにかくひたすら走るために特化したモデル、それがこの「GT-R」だったのである。エンジンは言うまでもなく直列6気筒エンジンにツインターボを組み合わされたもので、日産ご自慢の4駆動「アテーサ」と組み合わされ、アウトバーンを舞台に行われた大試乗会(!)では、「ポルシェを追い回す初の日本車登場」のようなインプレッションを読まれた方も多いだろう。当時の「スカイライン」には4気筒のラインナップもあったが(TIとか、そういうグレードも以前には存在したことが懐かしい)、やはり「スカイライン」と言えば6気筒、それも直列6気筒だ。「うるさい、ねむい、回らない」と言われたL型のころから、スカイラインのエンジンルームには「ストレート6」が定番なのである。そんなスカイラインも消滅か、というニュースが先日流れた。インフィニティにスカイラインのバッチを付けて販売している昨今の流れを見れば、それも致し方ないことかもしれない(GT-Rはすでに、スカイラインという冠ネームを外され、ただのGT-Rという名前のクルマになってしまってから長い時かな経過している)。それでも、直列6気筒エンジンとスカイラインがなくなってしまうような時代、それにはなんともいえない寂しさを感じてしまうのである。(大林浩平)

形も年代も大きく異なる4台だが、いずれも現在乗ってもそれぞれが特徴的で素晴らしいことは言うまでもない。

さて一番未来につながってみえる一台はどれだろうか?
そしてあなたが一番欲しいのは、どの車だろうか?

直列6気筒エンジンと聞くと、特別なものを感じてしまうのは私だけだろうか。8気筒でも4気筒でもなく、6気筒。その数字や響きには、やはりなにか不思議な感慨を抱いてしまう。クサい言い方かもしれないが、6気筒エンジンにはロマンのようなものがあると思う。世の中はますますエコロジーとか、ESDSとか堅苦しく難しい世界に向かい、これからもマルチシリンダーのエンジンはますますその存在が難しい時代になるかもしれない。しかし、今回レポートしたような名車と名エンジンたちは、自動車の歴史上、いつまでも忘れ去られることなく回り続ける存在なのである。

Text: Stefan Helmreich
加筆: 大林晃平
Photo: Christian Bittmann