【新車ニュース】フォルクスワーゲンの新型「T7マルチバン」正式発表 革新的変化の数々
2021年6月18日
フォルクスワーゲンがいよいよ新型マルチバンを公開。この新型マルチバンは後部座席をなくし、ポロGTIエンジンを搭載。T7は、先代の成功を引き継ぐことを目的としているが、新型マルチバンはほとんどすべてのことが先代とは異なっている。そのすべての情報を詳細にお届けする。
➤ 外観
➤ サイズと牽引能力
➤ プラットフォーム
➤ コックピット
➤ リア
➤ アシスタント
➤ コネクティビティ
➤ エンジンとドライブシステム
新型「VW T7マルチバン」は史上最大の「ゴルフ」となる、といえよう。なぜなら第7世代では、「マルチバンとしてのVWバス(VW Bus as Multivan)」は、プラットフォームを変更し、「MQB-Evo」モジュールシステムを採用するからだ。フロアアッセンブリーの変更により、新型「ブリ(Bulli)」の電動化が可能になったが、汎用性の高いハノーバーのバックボーンには従来のドライブトレーンが残されている。VWの商用車部門は、1985年に、「T3」シリーズでマルチバンを発表した。それから35年以上が経過し、現代のニーズに合わせてインテリアコンセプトが見直されている。また、新しいプラットフォームにもかかわらず、商用車の愛好家や、文字通り商用として利用する人々には従来通りの価値がある。「T6.1」は、「トランスポーター」と「カリフォルニア キャンパー」としてラインナップに残り、「マルチバン」だけが例外的に「ゴルフ」のフロアグループに変更される。市場への投入は2021年の後半を予定しており、価格は上昇する可能性が高い。我々は、ベーシックな「T7」の価格は少なくとも45,000ユーロ(約605万円)になると予想している。
外観: マルチバンはVWキャディに似ている
ビジュアル的には、「マルチバン」はフロント部分が「キャディ」に似たかたちになっている。ヘッドライト、グリル、エプロンなどのレイアウトは、MPVを強く意識したもので、VWの実用的な乗用車モデルのラインナップの中に位置している。エンジンフードは先代よりもフラットになり、これまたフラットになったフロントガラスと大きな角度で融合している。サイドビューでは、サイドミラー前の三角窓が印象的で、標準装備のLEDヘッドライト(マトリクスLEDはオプション)と、同じく標準装備のLEDテールライトが視覚的なラインで結ばれている。
リアには、VWトランスポーターでは初めてとなる、水平方向に配置されたスプリットテールライトが採用されている。また、モデルのレタリングバッチは中央に移動しているが、ロゴの下ではなく、ナンバープレートのくぼみの下にある。「T7マルチバン」のルーフはリアに向かってわずかに傾斜し、最後尾にはルーフエッジスポイラーが付いている。
サイズと牽引能力: VW T7はT6.1よりわずかに大きい
新型マルチバンは、ほぼすべての寸法でわずかに大きくなっている。ボディはショートバージョンとロングバージョンの2種類が存在する。
サイズ
● 全長:4973mm(ショート)/5173mm(ロング)
● 全幅:1941mm
● 全高: 1903 mm
● ホイールベース: 3124 mm
トランク容積
● ショートバージョン 469リットル~3,672リットル
● ロングバージョン:763リッター~4,053リッター
牽引能力
● 最大2000kg
プラットフォーム: マルチバンがついに乗用車に
フォルクスワーゲンは、「T4」を最後に、人気の高いバンを乗用車のセグメントに近づけた。それにもかかわらず、すべての派生モデルは商用車のプラットフォームを共有していた。これがついに2021年に変わることになる。今後、フォルクスワーゲンはTシリーズを3つの柱で構築していく。ベースとなるのは、引き続き現行の「T6.1」で、「トランスポーター」、「カラベル」、「カリフォルニア」として、商用車やキャンピングバスとしての要件を満たしていくことになる。一方、「T7」として、マルチバンはゴルフもベースにしている「MQB Evo」プラットフォームに切り替わるからだ。現行型ゴルフのインフォテインメントシステムや最新のアシスタンスシステムに加え、フロアアッセンブリーでは、何よりもマルチバンの電動化の可能性が将来的にはある。これにより、Tシリーズに初めてプラグインハイブリッドモデルが登場することになる。2022年以降、最後の柱となるのは完全EVモデルの「ID.Buzz」で、貨物仕様として、新型「MEB」プラットフォームも採用される予定だ。
コックピット: ゴルフ8のインフォテイメントを搭載したマルチバン
コックピットは、「VWバス」ではかつてないほどデジタル化されている。基本的には、スクリーンやステアリングホイールを含むダッシュボードを、「ゴルフ8」から新型マルチバンに移植している。操作面では、ボタンの大部分がなくなり、タッチサーフェスに置き換えられているものの、ステアリングホイールには、マルチファンクションボタンが残されている。10.25インチのモニターがデジタルコックピットとなり、インフォテイメントは10インチのタッチスクリーンで操作するようになっている。「App-Connect」によるスマートフォンとの連携は、すでに基本装備で可能となっている。
また、「VWバス」らしく、運転席と助手席にはアームレストがオプションで用意されており、上位の装備ラインナップモデルでは標準装備となっている。マルチバンでは、将来的にDSGのギアシフトはトグルスイッチでのみ選択可能となり、セレクターレバーや機械式ハンドブレーキはなくなる。更に、モデルチェンジを機に、電動パーキングブレーキに変更される。インテリアの雰囲気は、希望すればゴルフよりも重厚感のあるものにすることもできるようになっている。装備によってはウッドルックのデコレーションも用意されており、バスの家庭的な雰囲気をさらに醸し出している。
リア: 後部座席はないが、シートヒーターはある
マルチバンに興味を持った人は、このクルマをさまざまな仕事に使いたいと思っていることだろう。VWはこの可変的なユーティリティーの価値をニューモデルでも約束している。しかし、これまですべてのマルチバンに標準装備されていた3人掛けのリアベンチシートは、「T7」では廃止され、代わりに「バス」用のスライド式個別シートが用意されている。またモジュール式のインテリアコンセプトを採用し、シートアレンジを変更することで、「電動バイク(E-BIKE)」の搭載も可能にしている。
フロアに設置されたレールシステムは、シートの位置を変えることができ、電源も装備されている。これにより、必要に応じて外側のシートにオプションのシートヒーターを取り付けることができるようになっている。「マルチバン」初のパノラミックガラスルーフに加えて、リアの最大の目玉となりそうなのが可変式のセンターコンソールだ。これは、車体のほぼ全長に渡って移動することができ、収納スペースに加えて、2つのテーブルを収納することができるようになっている。また、使用する場所をずらすことで、前席との間にコンソールをスライドさせることができ、「ブリ」としては初めて運転席と助手席の間に収納ボックスが標準装備された。
アシスタントMQBがマルチバンを半自動で動かす
新型「マルチバン」は、新しい乗用車用プラットフォームを採用することで、現在他のフォルクスワーゲンが提供している安全システムをほぼすべて採用している。「トラベルアシスト」では、アダプティブクルーズコントロールなどの機能とレーンキーピングシステムを連動させている。
〈マルチバンのすべてのアシスタンスが一目でわかる〉
● ストップ&ゴー(車間距離制御)機能付き「ACC」
● 4つのカメラで周囲を360度見渡せる「エリアビュー」
● パーキングアシスト(ターンオフアシストを含む)
● ヒルスタート(坂道発進)アシスト
● Car2X(地域警告システム)
● 「エマージェンシーアシスト」(緊急時の停止支援)
● ABS、ASR、EDS付きESC
● 脇腹保護
● シティエマージェンシーブレーキ機能を含む「フロントアシスト」
● スピードリミッター付クルーズコントロールシステム
● 「IQ.DRIVEトラベルアシスト」(自動運転、レベル2)
● レーンアシスト」(車線逸脱警報システム)
● ライトアシスト(ハイビームアシスト)
● 眠気検知機能
● 多重衝突回避ブレーキ
● パーキングアシスト
● 「パークパイロット」(車間距離警報システム)
● プロアクティブ対向車・歩行者プロテクション
● リアビュー(後方確認用カメラ)
● タイヤ空気圧監視システム
● クロスウィンドアシスト
● サイドアシスト(レーンチェンジアシスト)退出警告システム付
● トレーラーアシスト(トレーラー操舵支援システム)
● 交通標識認識
コネクティビティ: 新型VW T7に搭載されたMIB 3.2、フルコネクティビティ
「ゴルフ」と同様に、マルチバンのインフォテイメントも「MIB 3.2」をベースにしている。フルデジタルのインストルメントクラスターに加えて、「ブリ」のシステムも10インチのタッチスクリーンで操作するようになっている。また、VWでは初めて「バス」にヘッドアップディスプレイを搭載している。どのトリムレベルを選択しても、基本的なインフォテイメントとして「Ready 2 Discover」が採用されている。これには、無料の内蔵型「eSimカード」がすでに含まれており、常にオンライン状態になっているし、Wi-Fiなども使うことができる。ナビゲーションはここでは利用できないものの(後に車内で追加可能)、ヘッドユニットのApp Connectを介してApple CarplayやAndroid Autoを使ってGoogle MapsやApple Mapsにアクセスすることができるようになっている。
車と携帯電話を接続したい場合は、有料の「We Connect Plus」サービスを利用することで、さまざまな車両機能を利用できるようになっている。このサービスでは、携帯電話を使って「マルチバン」のロックを解除したり、走行前に室内の空調を事前に設定したりすることができるようになっている。スマホはUSB-Cソケットを介して車両に接続され、音楽ファンは14個のスピーカーと840ワットのパワーを持つオプションのハーマンカードン(Harman Kardon)製サウンドシステムを利用できる。安全性もコネクティビティの一翼を担っている。「ゴルフ8」と同様に、「マルチバン」にも「Car2X」通信が搭載されているため、他の車両や周辺地域の交通インフラとのネットワークが可能となっている。
ドライブシステム: プラグインハイブリッドモデルのマルチバン
ニーダーザクセン州のVW社は、「VWバス」の歴史の中で初めて、プラグインハイブリッドドライブを搭載したモデルをラインナップの中に登場させる。「マルチバン eハイブリッド(Multivan eHybrid)」は、1.4リッターTSI(150ps)と電動モーター(85kW/116馬力)により、218馬力のシステムパワーを発揮する。13kWhのバッテリーを搭載し、都市部でのオール電動走行を可能にする。航続距離は明らかにされていないものの、プレスリリースによれば、1日の走行距離は50kmを少し下回る程度だとのこと。プラグインハイブリッド車に加えて、VWは従来のパワートレインを搭載した「マルチバン」も引き続き提供する。2種類のTSIガソリンエンジンとディーゼルが用意されているが、セルフイグナイターの搭載は2022年までの予定となっている。1.5 TSIガソリンエンジンは、最高出力136馬力、最大トルク220Nmを発揮する。
VW T7 Multivanのエンジン一覧
プラグインハイブリッド:
● VW T7 マルチバン eハイブリッド
システム出力: 218馬力
最大トルク: 350Nm
航続距離: 約50km
トランスミッション: 6速DSG
ガソリンエンジン:
● VW T7マルチバン1.5 TSI
最高出力: 136馬力
最大トルク: 220Nm
トランスミッション: 7速DSG
● VW T7マルチバン2.0 TSI
最高出力: 204馬力
最大トルク: 320Nm
トランスミッション: 7速DSG
ディーゼル:
● VW T6.1マルチバン2.0 TDI 4MOTION(ラインナップに残存)
最高出力: 204馬力
最大トルク: 450Nm
トランスミッション: 7速DSG
● VW T7マルチバンTDI(2022年~)
最高出力: 150馬力
その他のデータは不明
今回の「T7マルチバン」も、写真をじっくり見ても、安っぽい部分など皆無で、高品質感満載のモデルである。もちろんここまで仕上げればその価格は安いわけもなく、かなりのものになることが予想される。だが「トヨタ アルファード」の好調ぶりを見ればわかるように、現在、こういうミニバンを運転手付きで乗る需要というのはかなり高いし、その「アルファード」も800万円くらいは当たり前の自動車なのだから、マルチバンも高価であったとしてもまったく問題ないと思う。新しい時代のショーファードリブンはこういうものだし、フォルクスワーゲンには徹底的に高品質で未来的な内容のミニバンを世に送り出してほしいと思う(そして日本にもぜひ導入してほしい)。
より大きな2.0 TSIは204馬力、最大トルク320Nmを発生する。このエンジンは、「ポロGTI」、「ゴルフGTI」、「ゴルフR」にも搭載されており、エンジンコードは「EA888」だ。
どちらのガソリンエンジンにも7速DSGが組み合わされる。来年には、まだ名前のないTDIモデル(ディーゼル)が150馬力で登場する予定だ。VWは新型車に全輪駆動を提供しないため、従来モデルの「T6.1マルチバン」の全輪駆動モデルがラインナップに残る。そのモデルには204馬力の「2.0TDI」と4MOTIONが搭載され生き残ることになる。
今までもフォルクスワーゲンのマルチバンは、ラインナップの中でも最上級のモデルという位置づけであり、その内容に関しても絶賛されることが多かった。高品質で実用的、そんな本来フォルクスワーゲンとして持つべき内容を歴代のマルチバンはきちんと持っていたと思う。
Text: Andreas Huber
加筆: 大林晃平
Photo: Valkswagen AG