V12神話 in Japan トヨタ センチュリー ドライビングレポート!

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1998年製トヨタ センチュリー。
V12エンジンを搭載したトヨタ センチュリーで、日本の天皇のようなドライブを。センチュリーほど高級感と威厳を漂わせる日本車はない。それはある意味、世界で最も優れた車だ。我々はその日本製V12セダンに乗ることができた。その印象と評価は?

「トヨタ センチュリー」を知らない人は、簡単に見過ごしてしまうだろう。
それほど目立たないし、目に留まらない。
そして退屈で保守的な印象を与えるかもしれない。
しかし、全長5.27メートルのセダンは、ただの車ではないのだ。
イギリスの「ロールス・ロイス」が、日本では「センチュリー」だ。
皇室や政府の高官、一流のビジネスマンが使用する。
日本でしか販売されていない高級セダンで、現行モデルの価格は約16万ユーロ(約2,160万円)相当する。
しかし、たまには日本から輸出される個体もある。
「トヨタドイツ」は、そのクラシックカーコレクションの中に、非常に特別な2代目モデルを持っており、我々は今日、それに乗ることを許された。

「トヨタ センチュリー」は、V12エンジンを搭載した唯一の日本製市販車だ。
「センチュリー」は、トヨタの創業者である豊田佐吉の100歳の誕生日である1967年に発表された(それがモデル名の由来となった)。
初代は30年という驚異的に長い期間製造され、何度も丁寧に近代化された。
1997年になってようやく後継モデルが登場した。
見た目はほとんど変わらないが、威厳が増し、V8ではなくV12になった。
これにより、2代目センチュリーは日本の市販車で唯一の12気筒エンジン搭載車となったのだった。
ドイツのトヨタもこの「センチュリー」を所有している。
この1台には特別な特徴がある。
非常に珍しい左ハンドル車なのだ。
1997年にブリュッセルにあるトヨタの欧州本社が注文し、日本の企業経営者やVIPが訪問する際に、運転手付きのリムジンとして使用されていた。

V12は公式には280馬力を発揮する。エンジン形式は「1GZ-FE」に前期モデルが4速AT、後期モデルには6速ETCが組み合わされた。バランシングは完璧で、エンジンがかかったまま500円玉がV12ロゴの上に立つ。ちなみにアイドリング回転数は450回転だ!

そして、我々はこの「センチュリー」に乗り込んだ。
この日にふさわしく、最初にリアシートに座る。
高いルーフラインのおかげで、車に乗るのは実際とても楽だ。
日本で一般的に好まれているウールのシートではなく、この「センチュリー」はレザー仕様となっている。
いずれも厚くて、柔らかくて、包み込まれるような感触だ。
床には花柄のふわふわしたカーペットが敷かれている。
ドアパネルには、レザー、装飾されたウッド、クールなアルミが使用されている。
触れるものすべてが、絶大な品質と堅牢性を備えている。
すべてがリラックスと安心感を醸し出している。
そして、優れた静粛性が、日々のストレスを外に逃がす。

大部分のセンチュリーは、ウール生地の張り地で注文される。レザーは珍しい。だが本来のセンチュリーらしい座り心地はファブリックに軍配があがる。カーテンと分厚い緞通は数少ないオプション。

レースのカーテンが電動で閉まれば、空間は完全に自分のものになる。
それがセンチュリーの贅沢なところだ。
備わった小さなテープレコーダー(ウォークマン)を接続して、最新のビジネスアイデアを話すことができるのも見どころだ。
その他、リアの技術的な改良点は限られている。
ヒーター付きで電動調整可能なマッサージシートもいい。

あなた自身がトヨタ センチュリーに乗ることはほとんどない

運転席に移る。
ここでも、ウッドとレザーが主流となっているものの、日本では、「センチュリー」のオーナーで、自分で運転する人はほとんどいないというのが事実だ。
しかし、我々は運転を楽しんでみよう。
イグニッションキーを回すと280馬力の5リッターV12エンジンが動き出す。
実際にエンジンが動いているかどうかはわからないほど静かだ。
静止状態では振動や音が感じられないのだ。
街を出て、ケルンの田園風景の中をゆっくりと走る。
スロットルを開けると、ノーズが優雅に持ち上がり、4速オートマチックがシフトダウンして、センチュリーは力強く、しかし急ぐことなく前に向かって加速していく。
負荷がかかっていても、エンジン音がうるさくなく、振動も気にならない。
グラム単位でバランスをとったドライブシャフトと、シルキーで滑らかなエンジンのおかげだ。

トヨタのステアリングホイールには、金色の鳳凰があしらわれている。ワークマンシップと素材の品質は素晴らしい。この左ハンドルモデルは、きわめて少数のみ作られたもので、大変貴重な一台(にもかかわらず、フットレストやダッシュボードの作りまで、一点の手抜き仕上げなどないことには驚きを禁じ得ない)。またエレク二リックマルチビジョンのところに、アナログ時計がはまっていることにも注目(こんなの初めて見た)。

ターンシグナルの音さえも、このトヨタではソフトで静かだ。
「センチュリー」では、高速道路でもささやき声で会話ができるほど室内は静かなのだ。
それはエンジンのおかげだけではない。
ターンシグナルの音は、感じられるものと気にならないものとの絶妙な音量バランスになっていて、運転中に警告音が鳴ることもない。
メーター類も極力シンプルにまとめられている。
デジタルとアナログが混在したディスプレイは、ドライバーに必要な情報を最低限に提供し、イグニッション時にのみ表示されるようになっている。
シャシーは?
この2トン車の場合、どのような段差でもエアサスペンションが柔軟に対応する。
つまり、センチュリーは放っておいてもだいじょうぶなのだ。

リアウィンドウの白いカーテンは、電動で開閉できるようになっている。このグレーの正式名称は「鸞鳳(らんぽう)グロリアスグレーメタリック」で、丁寧にバフがけされたバンパーのメッキが美しい。

トヨタ センチュリーは常に手作業で作られている

車を止め、降りてから、改めて高貴なトヨタを見てみる。
ボンネットとホイールには日本神話の金色のフェニックスが描かれ、Cピラーには小さなV12の紋章が描かれている。
トヨタのロゴはどこにも見当たらない。
つまらない?
むしろ抑制されている。
つまらない?
いや、このつつましやかな感じは伝統的だ。
見た目がほとんど変わらない3代目は、2017年から作られている。
月間約50台、相変わらずのハンドメイド。
しかし今は、ボンネットにレクサスのハイブリッドV8を搭載している。
それでも、ボディワークや雰囲気は、1967年当時と同じようにバロック調だ。
それはこれからの50年も変わることはないだろう。

Aピラー上のサイドミラーはオプションだ。標準モデルではフェンダー上に設置されている。本来、日本ではフェンダーのコーナー位置に「車幅を確認するためのポジションライト」が設置されているが、このクルマにはないためすっきり感じられる。

結論:
世界で最も優れたセダン?
厳密に比較すればそうではないかもしれないが、それでは話にならない。
なぜなら、「トヨタ センチュリー」は愛国心の表明でもあるからだ。
そのオーナーは、メルセデスのSクラスやBMWの7シリーズに乗っているところを見られたいとは思わない人たちだろう。
だから、「トヨタ センチュリー」は、自動車物語の執事のような存在なのだ。
威厳があり、少しグレーで、常に主人の健康を気遣いながら、できるだけ目立たないようにしている。
そこがいかにも日本的である。

海外のジャーナリストがセンチュリーに乗ったらどう感じるだろう、それは大変興味のある話題である。なぜなら日本人である以上、センチュリーには特別な気持ちや、ちょっとした偏見、そして余計なノイズの混じった目で判断しがちだからだ。
そういう観点を一旦取り除き、1つの純粋な機械としてセンチュリーを他の車と客観的に比べたら、いったいどうなのだろう?
もちろんBMW7シリーズやSクラスメルセデス、ベントレーやロールス・ロイスのようなドライバビリティを持ち得ているとは思えないし、そういうドライバーの視点からの評価基準では最下位になる可能性ももちろんある。しかし、ひとつの機械としての完成度、洗練さ、パーツの精度、耐久性、といった点ではセンチュリーは決して負けていないし、圧倒的に勝利する部分も多い、と私は思っている。そして、その価格も考慮したならば、他の国には作ることができない、ジャパンオリジナルの高級車なのではないかという確信を持っている。

え? 格好がダサい?
ジジくさい?
お言葉ではありますが、センチュリーのスタイリング、じっくりみると実に日本的な美しさとバランスを絶妙に備えた、日本車の中でも最高傑作のスタイリングである、と個人的には思っております。もちろん、あくまでも私的な評価ですが…。

Text: Moritz Doka
加筆: 大林晃平
Photos: Toyota / Harald Dawo