メルセデス・ベンツ独自の安全なドアロックとグリップ形状のドアハンドル
2021年6月20日
メルセデス・ベンツは事故で衝撃を受けても開かないドアと救出時には開くドア!この相反する問題を解決したメルセデス・ベンツ独自の安全なドアロックシステムとグリップ形状のドアハンドルについて、主にスポットを当てて紹介しよう。
画期的な安全構造ボディとドアロック/ドアハンドルの歴史
1958年7月にメルセデス・ベンツは、ドアロックをしていない状態で衝撃を受けてもドアが開かないウェッジ(くさび型)・ピンロックの特許を取得した(セーフティコーンタイプの安全ドアロック)。
次いで、翌1959年8月に生産を開始した220Sb/W111(通称;羽根ベン)で衝撃吸収式ボディ構造と頑丈な客室を採用し、世界の乗用車の安全構造に大きな改革をもたらした(モノコック)。特に、このくさび型の太いピンがドア側に、一方ポスト側にはこれを受ける頑丈なボックスが付けられている。ピンは先が細くなっているくさび型なので、左右上下から掛かる力にも強い構造。ドアを閉めた時には雄と雌がガッチリと交わる型になっており、あの「ドスッ」と安心で重量感あふれる音がする。更に、普通のカギ状ロックが掛かる2重の安全ドアロックシステムを採用(1991年のSクラス/W126迄)。逆に万が一の事故の際、一刻も早く乗員を救出する時には外からグリップ形状のドアハンドルを引っ張るとドアが開く構造だ。
1991年のSクラス/W140から現在のメルセデス・ベンツは、ドアをリモコン・キー操作で簡単に開閉が出来、ずいぶんと便利になった。材質と技術革新でドアロックの形状は以前より「大型のカギ状ロック」と「大型キャッチ」になり、しっかりとドアが閉まる。さらに車速が10km/h位になると、セントラル・ロッキング・システムが作動し、ドアとトランクが自動的にロックされ、しかも「カシャ」という音がし、盗難・暴漢防止対策も兼ねている。室内には開閉スイッチがあり、この自動ドアロックを必要に応じて、室内でも開閉できる。しかも、事故が起った時には、このセントラル・ロッキング・システムはSRSエアバッグコントロール・ユニットに「クラッシュ・センサー」が内蔵され、車内のCANバスを介して瞬時に左右のフロント・リアドアのコントロール・ユニットに「緊急開放信号」が送信され、ドアロックが解除される。従って、外部からドアを瞬時に開くことが出来、いち早く客室の乗員を救出できるシステムになっている。
最新のドアハンドルの形状は、2020年9月2日にオンラインで世界初公開となり、7年振りにモデルチェンジした新型Sクラス/W223で一段とスタイリッシュになった(日本での発表は翌2021年1月28日)。特筆は、新デザインのエレクトリックキーを持って車両に近づくとドアハンドルがすっと自動的にせり出すポップアップタイプの「シームレスドアハンドル」を採用している事だ。この格納式ドアハンドルを引っ張るだけでドアが開けられ、走り出すと自動で格納される。しかも、万が一の事故の際は自動でせり出し、外部から引っ張って開ける事ができる。この格納式ドアハンドルは優れた空力特性と静粛性を確保し、ドアミラーやボディ各部の徹底したシーリング等と相まって、省燃費にも大いに貢献している(CD値はシリーズ最小の0.22=欧州仕様参考)。
重要な事は、歴代のメルセデス・ベンツ独自の安全なドアロックとハンドル構造を常に革新すると共に、上から掴み握り易く、力が入り易い「グリップ形状」を採用して、大きな力をかけ易く引っ張るだけでドアが開き、車外からの救出が容易にできるシステムを継承採用しているのである。
つまり、指先だけを軽く引っ掛けて開く「はね上げ式」のシステムとは、発想が全く違うという事である(最近、このシステムは少なくなったが・・・)。
お洒落で安全なドアハンドルを操作する秘訣とは
このドアハンドルをお洒落で安全に操作する秘訣は、まずドライバーがドアハンドルの付け根当たりに親指をあてがい、残りの指全体でグリップ形状のドアハンドルを握る。その上で親指をグッと押し込みながらドアハンドルを引っ張るようにする。逆に、ドアを閉める時は勢いに任せて「バタン」と閉めるのではなく、ドアハンドルをしっかりと握って最後にグッと押し込むようにする。
内側からドアを開ける時は、降りるのに必要な角度まで開き切るまで、ドアハンドルから手を離さない様にする。何故なら、強風の時には手を離した途端にドアがあおられて大変危険だからだ。また、隣のクルマに傷をつけてしまう恐れがあり、必ず手を離してはいけないのである!
この様なコツで毎日、ドアハンドルを開閉して乗るようになれば、自然とお洒落で安全なメルセデス・ベンツの乗り方が身につきます。反面、現在では言葉や動作で全て自分の好みや学習をサポートする革新のインフォメーションシステムが主流となり、最適な移動を提供する「Maas」でより豊かな生活が始まっています。その背景にはインターネットとつなぐコネクテッド(C)、自動運転(A)、シェアリング(S)、電動化(E)があります。こうした時代こそ脱炭素の流れを踏まえ、AIやコンピューターに頼ることなくモビリティの安全、強いて人間の命を守る本来の安全設計哲学が最も重要であると考えます。
Photo:ダイムラー社、妻谷裕二
【筆者の紹介】
妻谷裕二(Hiroji Tsumatani)
1949年生まれ。幼少の頃から車に興味を持ち、1972年ヤナセに入社以来、40年間に亘り販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特に輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版カタログや販売教育資料等を制作。また、メルセデス・ベンツよもやま話全88話の執筆と安全性の独自講演会も実施。趣味はクラシックカーとプラモデル。現在は大阪日独協会会員。