ブガッティ究極のワンオフモデル ブガッティ ラ ヴォワチュール ノワール ついに完成納車へ

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2019年のジュネーブショーで発表され即完売したブガッティ ラ ヴォワチュール ノワール(La Voiture Noire)の全貌

ブガッティ創始者の長男ジャン ブガッティ生誕110周年と同ブランド誕生110周年記念として発表されたブガッティ ラ ヴォワチュール ノワール(La Voiture Noire)。コーチビルドされたブガッティ ラ ヴォワチュール ノワールの納車準備がついに完了となった。主役をつとめた2019年のジュネーブモーターショーから2年、ブガッティ ラ ヴォワチュール ノワールが完成した。1,670万ユーロ(約22億3,780万円)のワンオフモデルに込められた思いとは・・・。

「ブガッティ ラ ヴォワチュール ノワール」が完成した。
2019年のジュネーブモーターショーでは、このワンオフが自動車の主役だったが、それから2年以上が経過し、「ラ ヴォワチュール ノワール」の納車が迫っている。
しかし、誰が幸運な顧客なのかはまだわかっていない。
その一方で、さまざまな憶測も飛び交っている。
しかし一部で噂されている、裕福な世界的サッカーのスーパースター、クリスティアーノ ロナウドというケースは、絶対にないだろう。
しかし、購入者や話題の1,670万ユーロ(約22億3,780万円)という価格よりも、興味深いのは、「ラ ヴォワチュール ノワール」の誕生にまつわるストーリーである。

300万ユーロ(約4億円)弱の1500馬力の「ブガッティ シロン」は、すでに世界最高、最速、最高級の車のひとつであると言えるし、それは疑いようのない事実である。
しかし、さらにそれ以上のものを求める客がいることも確かだ。
420km/hの「シロン」でも十分ではない顧客であり、ブガッティが2018年にコーチビルド部門を復活させたのは、まさにこのターゲットグループのためである。
そのアイデアは決して新しいものではない。
早くも1930年代に、ブガッティはさまざまなコーチビルドプロジェクトを実施している。
ガングロフによる「タイプ57S」や「タイプ57アタランテ」などの車両だ。
当時、シャシーとエンジンはブガッティが供給し、デザインはコーチビルダーが担当していた。

ヴォワチュール ノワールの重要な事実一覧
● シロンをベースにしたユニークな作品
● コーチビルドシリーズの第2弾(ワンオフモデル)
● 失われたブガッティ タイプ 57 SC アトランティックへのオマージュ
● 延長されたフロントエンド
● 特徴的なCラインの圧縮
● 曲線を多用したライトストリップ
● 6本のエキゾーストテールパイプ
● 8.0リッターW16、1,500馬力、1,600Nm
● 1,670万ユーロ(約22億3,780万円)という途方もない価格設定
● ラ ヴォワチュール ノワールの納車準備完了
● クリスティアーノ ロナウドが購入者ではない

改良されたプロポーションは、特に横顔に顕著に表れている。

ブガッティ初のコーチビルドモデルは「ディーヴォ」だ。
80年以上の時を経て、デザインとエンジニアリングはどちらもブガッティが担当した。
ブガッティ史上初のコーチビルドモデルである「ディーヴォ」は、40台の限定生産だったが、現在最後の1台が納車を待っているという。
「ディーヴォ」は、一見、シロンのデザインを変更したように見えるが、このプロジェクトにはそれ以上のものがある。
技術的な努力は膨大なものだった。
「ディーヴォ」は、シロンと比較して、35キロの軽量化、90kgのダウンフォース、最適化されたシャシーセットアップを実現しただけでなく、「シロン」、「シロン スポーツ」、「シロン パー スポーツ」とはエクステリアデザインも大きく異なっているからだ。
ブガッティのコーチビルディングプロジェクトの責任者であるピエール ロンメルファンガーは次のように説明している。
「スモール生産シリーズやワンオフの取り組みは、ブガッティのような高級メーカーにとってもチャレンジングなものです」。

コーチビルドモデルの第2弾、「ラ ヴォワチュール ノワール」も特別な挑戦だった。
2019年、伝説の「ブガッティ タイプ57SCアトランティック」の110周年を記念したトリビュートとして、ジュネーブモーターショーで発表されたこのセンセーショナルなワンオフは、瞬く間にショーで最も話題の車となった。
これは主に、1,670万ユーロ(約22億3,780万円)という価格によるもので、「ラ ヴォワチュール ノワール」は、その時点では、史上最も高価な市販車の新車となったのだった。
しかし、ブガッティは、最近発表された2,000万ポンド(約26億8千万円)の「ロールスロイス ボートテール」にこのタイトルを奪われてしまった。
このロールスもワンオフで、2017年に発表されたスウェップテールに次ぐロールスロイスのコーチビルドモデルだ。

左がラ ヴォワチュール ノワール、右がディーヴォ。コーチビルドの3モデルのうち、2モデルが1枚の写真に収まっている。欠けているのはセントディエチだけだ。

ロールスロイスが世界で最も高価な新車となった
しかし、そんな「ロールスロイス」よりもさらに高価なのが、オリジナルの「ブガッティ アトランティック」だ。
「アトランティック」は1936年から1938年の間に4台しか製造されなかったが、いずれも事実上、値段がつかない状態だ。
2010年のオークションでは、アトランティックが2,600万ユーロ(約34億8,400万円)相当で落札されたが、現在の価値はそれよりもはるかに高いだろう。
「アトランティック」は世界で最も高価な車のひとつであり、ナンバー4はファッションデザイナーでカーコレクターのラルフ ローレンが所有している。
2台目の「アトランティック」は、「ラ ヴォワチュール ノワール」というニックネームで、ジャン ブガッティが所有していた。
しかし、この「アトランティック」は80年以上も失われたままだとされている。
もし、再び姿を現すことがあれば、「タイプ57 SCアトランティック「ラ ヴォワチュール ノワール」は1億ユーロ(約134億円)以上の価値を持つと考えられている。
これに比べれば、手作業で製作されたニューエディションは、1,670万ユーロ(約22億3,780万円)を超える価格でも、まだまだバーゲン状態と言えよう。(笑)

6本のテールパイプは、購入者の強い希望でブガッティが実現させたものだ。

「ブガッティ ラ ヴォワチュール ノワール」の魅力は、価格もさることながら、何よりも数ヶ月かけて手作業で制作されたそのユニークなデザインにある。
カーボンがむき出しになったボディには、シロンと比べて、どの部分も手が加えられていない。
フロントエンドは長くなり、ルーフラインは再設計され、特徴的なCピラーのラインは大幅に圧縮されている。
ヘッドライトの基本的な形状は「ディーヴォ」のものを踏襲しているが、片側27個の個別LEDを使用した新しいライティンググラフィックが採用されている。
同時に、エプロンがフェンダーに統合され、ブガッティらしい馬蹄形のラジエターグリルも見逃せない。

プロダクションバージョンまでの4つのフェーズ(段階)
スタディモデルからプロダクションバージョンまで、いわゆるワンオフ/ツーオフモデルは4つのフェーズを経る。
企画、シミュレーション、テスト、ホモロゲーションという4つの段階だ。
それぞれのフェーズには約6カ月かかり、全体で約24カ月となる。
「ラ ヴォワチュール ノワール」の場合、このスケジュールはほぼ守られ、発表から2年余りでワンオフモデルの生産版が納品された。
コンセプト発表時と比較して、嬉しいことにほとんど変化はない。
フロントガラスのセンターワイパーは通常のワイパーアームに変更され、ホイールを視覚的に長くするために貼られていたタイヤステッカーも量産には至らなかった。
一方で、6本のエキゾーストテールパイプや連続した曲線を描くテールライトなどのディテールは、ショーカーと同じものを採用している。

よく似た2台。このディーヴォとラ ヴォワチュール ノワールは、同じオーナーのもとに送られるのだろうか?

ラ ヴォワチュール ノワールは1,500馬力、1,600Nm
エンジンに関しては、何の驚きもない。
「ラ ヴォワチュール ノワール」は、「シロン」や「ディーヴォ」と同様に、1,500馬力と1,600Nmのトルクを発揮する実績ある8リッターW16を搭載している。
ブガッティはこのワンオフモデルの性能を一切明らかにしていないが、このワンオフモデルにとって性能は二の次である。
それよりも、もっとエキサイティングな話題があるからだ。
それは、ブガッティが、コーチビルドのレーベルで次に何を計画しているのだろうかという疑問だ。
950万ユーロ(約12億7,300万円)という価格で、10台限定で製造された「セントディエチ」は、すでに第3段階に入っており、現在ニュルブルクリンクなどでテストが行われている。
最初の顧客向け車両の納入は2022年初頭を予定しているが、その先はどうなるのだろうかというのが多くの人々の興味の対象だ。
果たして、ブガッティからさらなるワンオフモデルが登場するのだろうか?
その時には、ソーシャルメディアのおかげで、「ラ ヴォワチュール ノワール」のオーナーが誰なのかがわかる可能性もあるかもしれないと、我々は淡い期待を抱いている。

ついこの間、自動車の価格が1億円を突破したというニュースにおどろいた、という昔ばなしはともかく、いつの間にか自動車の価格は上昇し、こういうハイエンドの自動車というのは天井知らずなのだ、とつくづく実感した。
今回のブガッティは、ワンオフ(でもメーカーがちゃんと売る自動車である)ではあるが、それにしても22億円というのは、ただ事ならぬ金額で、この金額だとメガクルーザーも自家用ジェットも購入し放題な金額である。
こういう超ハイエンドの自動車を購入するべき人にとってはメガクルーザーやジェットと同じ感覚の金額なのかもしれないが、とにかく私くらいの人間にはあまりに縁遠くてどうもこうもない金額である。そうコメントを書いていたら、ロールスロイスも、コーチワーカーによるワンオフのビスポークモデルをこれから充実させるというニュースが届いた。
スーツや靴でさえ、オーダーメイドなど縁遠いが、どんな想像もつかない、突拍子もないクルマが生まれてくるのかは興味を持って注視していたい。

Text: Jan Goetze
加筆: 大林晃平
Photo: Bugatti