【サマースペシャル その3】こんなアイコンビーチカー知ってましたか? VWアパル ジェット バギー物語
2021年6月2日
太陽とビーチのクラシックカー: VWアパル ジェット バギー
お楽しみ用キット。「プラスチックカーは人生をカラフルにしてくれる、遊ぶためのものだ」と考えたブルース マイヤーズは、1964年に1分の1キットとして、全てを考案した上でバギーを生み出した。55年以上経った今でも、多くの人々が彼の作ったこのバギーに魅せられている。
とってもジューシーな「ブルースベーコンバーガー」をご存知だろうか?強化小麦のバンズをベースに、エネルギー源となるものを何層にも重ねている。グリルした200gのひき肉、軽量のレタスの葉、ダブルクリスプのベーコン、自家製タルタルソース、そして両面に目玉焼きをのせている。唯一欠けているのは、空気のように軽い白い小麦粉のペストリーでできたトップだけだ。全体的には、十分なボリュームがある。実に簡単にできるおいしいバーガーだ。
ここでブルース マイヤーズと「バギー」の話に移ろう。海兵隊員だった彼が、ボートと車を組み合わせたのは、1962年頃のこと。彼は昔、カリフォルニアのピズモビーチで、荒れ果てた8気筒の怪物が砂漠の嵐の中を無理やり走っているのを見ていた。尾翼を失った無骨な梯子と管のフレームが、洗濯機のドラムサイズのリアホイールで武装し、彼の前を通り過ぎていく。彼にもそれができると確信した。もっとはるかに優れたものが簡単に。
マイヤーズはバーガーロースターのようにそれをやった。幾重にも重ねられたGRP(ファイバーグラスボディパネル)を手作業で成形し、何十種類ものサイズが用意されたVWビートルのシャシーに載せる。リアには重要なワイドタイヤを装着し、ボディから出てくるボクサーエンジンを駆動させるという、なんとも武骨で単純なもの。その結果、ドアもボンネットもない楽しい車が誕生した。しかしそれは機敏で活発な、つまり素晴らしい車だったのだ。アメリカでは、ビートルとビーチで使える改造車の両方を「バグ」と呼んでいたので、すぐに名前が決まった。マイヤーズの「マンクス バギー(Manx Buggy)」は、人々を熱狂させ、その生みの親を有名にし、以前よりも少しリッチにした。誰もがこの「バギー」を欲しがり、そして手に入れようとしていたからだ。純粋に楽しむだけのキットとして。マイヤーズは6,000台の「マンクス」キットを販売し、多くの模倣者による、いい意味での相乗効果もあって、25万台の「バギー」がアメリカ全土で販売された。
小さな自由: 初心者のためのカブリオレ
ヨーロッパのホビイスト(趣味人)や企業は、プラスチックカーの脇にビキニの女の子を乗せる、この新しいトレンドに飛びついた。「バギー」は、事実、当時タッパーウェアに次いで、アメリカで最も成功したプラスチック製品だった。その頃アメリカではDIY(ドゥ イット ユアセルフ)が流行っていた。ほとんどの場合、バギーは、ジャンクヤードで安く手に入る「ビートル」のシャシーに搭載されていた。「バギー」のキットはかなりな値段がしたが、完成したファンモビルは地球に負担をかけないものだった。残念ながら自分でいじれない、いじりたくないという人には、1万マルク(約68万円)強の「組み立て式バギー」が用意されていた。これは、医者や弁護士など、ネジの締め方を知らない人でも、フリースタイルを楽しむことができるということだ。狡猾なブルジョアたちは、バスタオルの大きさの折りたたみ式トップを注文した。そして、フロントにスタティックベルト。そして、フロントガラスのフレームとロールバーに腕を置き、オレンジレッドのGRP製の側面に足を伸ばして気分を盛り上げ、スポーツシートに身をゆだねる。マシュマロとペダルボートの中間のようなこの車と、すでに一体化している。
結構エキサイティング
70年代の最も美しいオレンジ色をしたVWクラシックコレクションの「アパル ジェット」の場合、85馬力のモデルとなる。エンジンは簡単に始動し、右手は少しクランクしたシフトレバーを1速の位置にカチッと合わせる。クラッチを上げて、スロットルを踏めば、オレンジ色の肌が暴走する。
購入のヒント: 1万ユーロ(約134万円)までのコンバーチブルクラシック
2速、3速、4速、すべてが素晴らしく、短く、毒々しくパワーを伝える。風はフロントガラスを砕き、髪の毛の残骸を引っ張ってバサバサに食われてしまう。だが、ウォルフスブルクのアラーシー湖の周りをガタガタと走るのはまったく問題ではない。そしてほとんどすべての通行人が実際に喜んでいる。日が暮れてきた頃、ついにアパルバギーにゴムローラーの下の砂浜を触らせることができまた。ほんの少しだけだったが。なぜなら、ルーフに青いライトをつけた紳士たちがすでに周囲に現れていたからだ。
ヒストリー
1960年代末から現在に至るまで、何社のバギーメーカーが存在していたのか、正確な数値は不明である。バギーの種類は、ポリマープラスチックの製法のように多義にわたっている。写真の「ジェット」は、財政的にも物理的にも何度も焼失しているベルギーの「アパル」のもので、最高級のアイスクリームを適当な割合で溶かしたような形をしている。ハンブルグではキューン社が、ミュンヘンではマハグ社がバギーを設計・販売しており、他にもルスカ社、ビーバー社、シーゲル社などのメーカーがある。
スウェーデンでは、デザーターをはじめとするHAZブランドの作品が生まれた。ニーダーザクセン州では、アウトハウス サウスハノーファーが「AHSインプ」を、オスナブリュックのカルマンが「GFタイプ」を開発した。バギーのシャシーのほとんどは「ビートル」のものだが、それぞれ38cmほど短くなっていた。厳格な安全規制により、「バギー」文化は1980年代に消滅した。
プラスとマイナス
すきま風が吹き、衝突しないわけではなく、音も大きいが、魅力的だ。真夏の街をバギーで駆け抜け、閉鎖的でエアコンの効いた現代のブリキ屋根のオープンカーを通り過ぎてしまえば、古いプラスチック製の桶を手放したくなくなるだろう。開放的な田舎道や、車が立ち入り禁止になっていないわずかなビーチは言うまでもない。唯一の難点は、文字通りの意味でのGRPクラッドのひび割れで、特にリアのボディマウントの部分に見られる。ホイール、ドライブトレイン、シャシーは?すべて大量生産されたビートルのパーツで、頑丈で修理が可能で、経済的にも管理しやすいものばかりだ。本格的なバギーパイロットへのアドバイス: バギーが悪天候にも耐えられるように、パーキングヒーターとプラスチックの窓付きターポリンを見つけけるようアドバイスする。
スペアパーツ
え、何?
オリジナルパーツ?
工場出荷時には用意されていなかった。実際のところ、「バギー」ほど、レンチングが楽しいクラシックは他にない。なぜか?それは、バギーにはその時代らしい、つまり「オリジナル」なものがひとつだけあるからだ。それは、雑多なパーツの組み合わせという点だ。ボディキットは、市場に出回っているものであれば何でもOK、作って楽しいものであれば何でもOKという、リラックスしたものだった。
テクニカルデータ: VWアパル ジェット
● エンジン: 4気筒ボクサー(水平対向)エンジン、空冷、リア横置き ● 排気量: 1750cc ● 最高出力: 85PS@4000rpm ● 最大トルク: 148Nm@2600rpm ● 駆動方式: 4速MT、後輪駆動、センターホリゾンタルカムシャフト、1気筒当たり2バルブ、ソレックスシングルキャブレター ● サスペンションシステム: インディペンデントサスペンション、フロント=スタビライザー付きトーションバーアクスル、リア=ショックアブソーバー付きダブルジョイントアクスル ● タイヤ: フロント=185/65R15、リア=275/60R15 ● ホイールベース: 2004mm ● 全長×全幅×全高: 3690×1720×1320mm • 乾燥重量: 630kg ● 0-100km/h加速: 9.0秒 ● 最高速度: 145km/h ● 燃費: 10km/ℓ ● 当時の価格(1973年):4,700マルク(約32万円=ボディキットのみ)
市場の状況
1965年から1975年にかけての華やかな流行の後、バギーは急速に衰退していった。ひとつには、時代の流れの変化があった。開放的で居心地の悪い、しかもいじくりまわされたレジャーカーが流行らなくなったのである。あとは、安全規制がますます厳しくなっていったことが挙げられる。今日、バギーは再び、しかも驚くほど手頃な価格で売買されている。一般的なモデルは3,500ユーロ(約47万円)からで、1万ユーロ(約134万円)を超える価格は完全に夢の世界だ。
おすすめポイント
グラスファイバー製のプラスチックは想像以上に頑丈なので、多くのバギーがきちんとした状態で生き残っているのはそのためだ。そんなバギーのボディ修理はしばしば困難を伴う。メカニズムはビートル愛好家が慣れ親しんだようなシンプルなものだ。短くなったシャシーは、腐食でダメになってしまうこともあるので、よく調べる必要がある。注意点: 有効な書類のない車は再登録できない。
以前にレポートした「シトロエン メアリ」や「フィアット500ジョリー」との大きな違いは、このジェットバギー(や、同類のフォルクスワーゲンをベースとした、多くのバギー)は、フォルクスワーゲンの上に、FRPのボディをのっけた(だけ)のキットカーであるということである。
だからその仕上がりや出来、内容などを、ああだこうだと言ってはいけないし、言うべきでもない。あくまでも、楽しく、お手軽に、夏を満喫するための楽しいクルマと考えればいいのである。
がんじがらめの現代では、こういうあっけらかんとしたバギーのキットを、フォルクスワーゲンの上にかぶせて楽しむような行為はとても難しい。でも本当は自動車の楽しさや魅力の一つは、こういうキットカーを手軽に楽しんだり、自分で手を入れたりして、自分の色にしていくようなところにもあるはずだ。
燃料電池とかEVとか自動運転技術、といった難しく複雑なコンテンツの中に、こういう箸休めみたいなものを見つけると、なんだかホッとしてしまう。
早くコロナウイルスが落ち着いて、楽しい夏が来てほしい。
Text: Knut Simon
加筆: 大林晃平
Photo: Uli Sonntag