【一騎打ち】BMW M4対ポルシェ911カレラS サーキットバトル 果たしてその結果は?
2021年5月4日
ポルシェ911カレラSは、今回のテストでは、新型でハスキーなBMW M4コンペティションと出会った。ひとつだけはっきりしているのは、これは限界での情熱的な比較ドライビングテストになるということだ。
コンチドローム(Continental AG Contidrom=コンチネンタルタイヤのテストコース)での熱戦が始まる前から、我々は精神的にとっくに限界に達していた。新型「M4コンペティション」と「911カレラS」の対決では、2台のアイコンスポーツカーに1000馬力近いパワーが配分されているため、さすがに緊張したドライビングにならざるを得ないのが正直なところだ。街中では、周囲の反応がはっきりと分かれた。青い「M4」を見て、他のドライバーが親指を立てて喜ぶことが何度かあった。ガソリンスタンドでは、「うわー、それは邪悪なルックス」と驚きながらも、「M4」の周りを2回歩き回り、目を輝かせ、エンジンが始動するのを待っている若者がいたほどだ。
コンペティションバージョンでM4は510馬力という圧倒的なパワーで前進する
そして、それはスタイル通り、実際に邪悪にもなれるマシンでもある。「M4」には、SUVである「X3」や「X4」からの、「S58」という略称を持つツインターボ直列6気筒が搭載されている。480馬力と510馬力という2つの出力レベルは、SUVの兄弟たちと同じだ。しかし、BMWは「M3」と「M4」で活用するために、このパワートレインを再び作り直した。最大1.7バールのブースト圧と最適化されたマップにより、SUVよりも50Nm多い最大650Nmにアップされたパワーが、2kg軽量化された「M4コンペティション」のクランクシャフトに供給される。また、そのトルクもポルシェよりも大幅に多い。また、出力においても、「カレラS」は「M4」よりも60馬力少ないのである。一方で、より軽量でリアヘビーな重量配分の「911」に対し、BMWのフロントアクスルはコンチドロームのカーブで300kg近く多くの負荷がかかることを意味する。
最高速度はポルシェ911が上回る
予想通り、高速道路での対決で、絶対的なスピードに関してはポルシェに軍配が上がった。「911」のスピードメーターは310km/h以上を示している一方で、「M4コンペティション」のデジタルの針は301km/hで止まっていたからだ。しかし、それでも十分なことはいうまでもない。それよりも重要なことは、両モデルともトップスピードでも手のひらに汗をかかない高い方向安定性を備えていることだ。さらに「911」はオールホイールステアリング(全輪操舵)のおかげでまるでレールの上を走っているかのような感覚を味わうことができる。オプションのリアアクスルステアリング(2,249ユーロ=約30万円)に加えて、スポーツクロノパッケージ(2,380ユーロ=約31万円)、ロールスタビライザー(3,213ユーロ=約42万円)、セラミックブレーキ(8,937ユーロ=約118万円)などを装着してサーキットに乗り込んだ「911」に対して、BMWは、15,500ユーロ(約205万円)の「Mレーストラックパッケージ」で対抗する。その「Mレーストラックパッケージ」には、より大きな鍛造ホイール(19インチおよび20インチ)、スペーシーなカーボンバケットシート、ステアリングホイールとシフトパドルのカーボントリム、レースモードの非常に広いレブカウンターを備えたヘッドアップディスプレイ、セラミックブレーキ、Mドライバーズパッケージ(最高速度を290km/hまで引き上げることを含む)、「Mドライブプロフェッショナル」が含まれている。「Mドライブプロフェッショナル」は、トラクションコントロールの10段階調整、ラップタイマー、ドリフトアナライザー(ドリフトの角度と長さを計算する楽しい機能)などのソフトウェアアプリケーションだ。
そしていよいよサーキットテスト走行の時間だ。BMWの心地よく低い位置に配置されたバケットシートは、ポルシェの18ウェイスポーツシートよりも優れていることがすでにわかっている。ポルシェのシートは、横方向のサポートは最高だが、硬いため、日常的な使用では快適性が著しく損なわれる。バイエルン製シートは、ドライバーの横方向のドライビングを優れたレベルでサポートし続ける。「M4」の場合、タイヤの温度がまだ上がっていない場合、パワーをかけるとコーナーでリアエンドがすぐにブレークしてしまうが、タイヤが温まればレーストラックでは、「M4」のその精度の高さに驚かされる。高速ラップでは、10段階のトラクションコントロールのうち、ステージ2が作動したままだ。
そして突然、「M4」は、これまで知られていなかった正確な性能を発揮する。ブレーキングで、BMW製クーペは絶対的な落ち着きを保ち、剛性の高いエラストキネマティクスのおかげで正確にターンインすることができ、与えられたラインに正確に従い、最後は十分なパンチ力でコーナーを駆け抜けていく。車重が高く、ややフロントヘビーな配分にもかかわらず、アンダーステア傾向は狭い範囲に抑えられている。そのサイズと量さを否定することはできないが、それが「M4」の弱点ではない。直列6気筒の510馬力は、レースモードであっても、トルクコンバーター式オートマチックが8段の間でほとんど敏感にシフトするため、ストレートでの加速ではそれほど凶暴には感じられない。それ以外では、オートマチックもサーキットでは悪くない選択だと思える。ラップタイムは1分31秒02で、印象的な速さだ。
一方、「ポルシェ911」は、常に真のスポーツカーだ。「M4」のラップタイムを破ることができるのか?その場にいた同僚たちは、事前には、「ポルシェ911」に軍配を上げていたのだが、急に自信をなくしてしまった。柔らかさと硬さ、そのどちらの魅力も「911」にもある。「M4」と比較してはるかに低い着座位置、低重心、驚異的なターンイン動作により、ドライバーはあらゆるカーブをより楽しく体験し、またより正確に分析することができる。これは、きめ細かく調整されたリアアクスルのステアリングによるもので、人工的で誇張された感じはまったくない。さらに、リニアなパワーデリバリー、マニュアルモードではすべてのギアを確実に滑らかに操作でき、オートモードでは常に正確にシフトチェンジを提供するPDK(デュアルクラッチ式オートマチックトランスミッション)が備わっている。
弱点?
それに比べて、911のシートサポート力は低い。しかし、それでも精度の高い「911」は、「M4」のタイムよりも0.43秒速くゴールした。そして、どちらのモデルも限界でのドライビングを愛していることがわかるが、しかし、ポルシェのほうがBMWよりも少し多く限界での走行を愛していると言える。
第2位 400点満点中306点: BMW M4コンペティション
「M4」は、サイズと重量の増加にうまく対応している。新型「BMW M4」ほど「911」に近いミッドサイズクーペは存在しない。
価格: 91,000ユーロ(日本市場価格=1,348万円)より
第1位 400点満点中312点: ポルシェ911カレラS
カレラSはまるで疲れを知らないマシンのようだ。次期「GTS」は、「M4」をさらに明確に上回る可能性が高い。
価格: 123,607ユーロ(日本市場価格=約1,729万円)より
結論:
予想通り、「M4」は「911」に敗れ、ビッグサプライズ(大番狂わせ)は起こらなかった。しかし、他のライバルメーカーたちは、非常に巧みにチューニングされた「M4」をターゲットにして、競合モデルを開発し、仕上げていくことだろう。「アウディRS 5」や「メルセデスAMG C 63」などとのテストが楽しみだ。
【ABJのコメント】
どんな高性能モデルが発表されようとも、「911」は比較の対象として永遠に引き合いに出されるのだろう。そしてその場合、「かなり良いところまで肉薄してはいるものの、残念ながらあと一歩、911には届かなかった」みたいな締めの言葉で、「やっぱり911」が勝ってメデタシメデタシ、となることが典型パターンである。
今回のM4との比較でもその定石通りの結果で、「911」のうっちゃり勝ちになったわけだが、いったい「911」のどの部分がそこまで「勝つ」ことのできるファクターなのだろうか。60km/hで走っても官能的と言われる部分なのか、実用性と高性能との高次元でのバランスなのか、ポルシェのスポーツカーとしてRRに固執している執念のたまものなのか、その理由はそんなに簡単に説明できるものではないとは思うが、とにかく「911」はいつの時代も常勝が当たり前のスポーツカーなのである。
一方の「M4」も、もう「M3」時代から数えれば、結構な年月を第一線で戦い続ける高性能車である。どんな時代でも「M3(M4)」と「M5」だけはMバッチの付いた自動車の中でも常に特別な存在であり、開発陣の情熱の入れ方は「911」と比べても決して劣る部分はないし、もはやスーパースポーツの領域に踏み込んだような走行性能を持っている。
冷静に比較検討すれば「911」と比べても、決して劣る部分などないはずなのだが、それでも今回も「911」の勝利となった。一度高名なジャーナリストやレーサー、開発者などにその理由を、感情論ではなく、物理的な観点から徹底的に聞いてみたいものだ。
Text: Stefan Novitski, Dierk Möller
加筆: 大林晃平
Photo: Olaf Itrich / AUTO BILD