誕生から早や25年 それともまだ25年? 初代ポルシェ ボクスターの誕生ストーリーと現状

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初代ポルシェ ボクスターを名車たらしめているものとは?

ボクスター(986)は、25年前に生まれたポルシェのミッドエンジンスポーツカーだ。そのデザインとドライビングダイナミクスは、もはやクラシックなものになりつつある。

1996年から2004年まで製造された初代「ポルシェ ボクスター(986)」は、5代目の911(996)と多くの部品を共有していた。ミッドエンジンを搭載した俊敏な2シーターは、少ない費用で、多くのドライビングの楽しみを提供する車と考えられていたのである。初心者向けのポルシェだが、非の打ちどころのない血統を有している。「ボクスター」のすっきりとしたラインは、当時のチーフデザイナーであるハーム ラガーイが、象徴的なモデルである「550」と「718」からヒントを得たものだ。

初代ボクスターではマニュアルトランスミッションが必須

ドライビングダイナミクスの面では、初代「ボクスター」はその評判よりも明らかに優れていた。これは主に、アジリティ(敏捷性)を高めるミッドエンジンコンセプトによるものだ。204馬力の2.5リッター6気筒ベースエンジンは、必ずしも顕著な敏捷性ファンのファーストチョイス(第1選択肢)ではないものの、このボクサーエンジンのヴァリアントはカーブでの楽しい運転と喜びをもたらした。ただし、マニュアルトランスミッション付きのモデルに座っている限りという条件付きだが・・・。ティプトロニック(ポルシェ製セミAT)は、エンジン出力が大幅に向上した「911」には多少なりとも適していたかもしれないが、「986ボクスター」では手動でギアを変えることが推奨される。ポルシェは、2000年モデルの時点で、ロードスターの6気筒ボクサーエンジンの排気量を2.7リッターにボアアップし、これに伴い、出力も220馬力に向上している。2003年モデルでは228馬力に強化されたが、性能的にはわずかな向上にとどまっている。本当のポルシェフィーリングは、2000年からすでに252馬力、その後(2003年)には260馬力を発揮する「Sバリエーション(ボクスターS)」で得られる。また、「ボクスターS」は6速マニュアルトランスミッションを搭載しているため、ベーシックモデルよりもギア数が1つ多いのも特徴だ。

センターコンソールの意匠がやや古いが、他はポルシェ流のデザイン。しかし黒のプラスチックはチープで薄い。

911(996)同様のメカニズムのボクスター、フェイスには目玉焼き

デザイナーのハーム ラガーイによれば、「986シリーズ」と「ポルシェ911(996)」は同一の流れのデザインだという。1993年にデトロイトで発表された初期のコンセプトカーと比較して、市販された「ボクスター」がわずかに長く、フロントエンドが異なるのもそのためだという。「同一パーツのコンセプトを実現し、両車を1つのプラットフォームに載せるには、これしかなかった」とハーム ラガーイは振り返る。これらの相乗効果により、ボクスターの製造は採算がとれるようになり、76,500ドイツマルク(約510万円)という高額なベース価格にもかかわらず、ロードスターは経済的に低迷していた、ツッフェンハウゼンのスポーツカーメーカーの救世主となるまでに成長したのである。「初代ボクスター」は、「996」と共通の細長いフロントヘッドライトを持ち、純粋なブランドファンからは「目玉焼き」と揶揄されていた。ミッドエンジンのおかげで、エンジニアはフロントとリアに2つのラゲッジコンパートメントを設けることができ、合計260リットルの収納スペースを確保することができた。
プラスチック製の窓が付いたソフトトップは、電動サーボを使ってわずか12秒で折り畳むことができた。

明るいニュース: 以前は敬遠されていた目玉焼きのようなヘッドライトが、今になって流行りだした。

クランクシャフトのオイルシールは神経質なポイント

しかし、同じ部品を使っているボクスターは、兄貴分の問題点も同じように受け継いでいる。つまりパワートレインもほぼ同じだからだ。このことは、「ポルシェ911(996)」でよく知られている問題が、初代ボクスターでも発生したことを意味している。キーワードは「クランクシャフトオイルシールの漏れ」だ。この部分のパーツを交換すると、ワークショップにもよるが、簡単に3桁の高額な費用がかかる。したがって、「986ボクスター」を購入する際には、サービスヒストリーを見せてもらうことが肝要となる。このリングがすでに交換されていれば、少なくともしばらくはこの問題を免れる可能性が高いからだ。いずれにしても、チェックのために車の下を見てみることが推奨される。トランスミッションが乾いていれば、クランクシャフトのオイルシールも無事であることを示している。一般的には、この神経質なポイントを定期的にチェックする価値がある。エンジンの走行距離だけが決め手になるわけではない。被害に遭った人の中には、5~6万kmの走行距離以下で問題が発生したと報告している人もいれば、10万kmを超えても定期点検のためだけにワークショップに足を運ぶだけで済んだ人もいる。つまり車によって程度が大きくちがうということだ。

パステルイエローの塗装とティプトロニックが、初代ボクスターのソフト面を強調している。

初代ボクスターは約1万ユーロ

10万キロを超えると、ショックアブソーバーも寿命を迎えることになる。言ってみれば前オーナーの完全なメンテナンス履歴は、「ポルシェ ボクスター」での不幸なサプライズの可能性を減らすことになるともいえよう。中間シャフトベアリングが壊れることは稀だ。この部品が故障すると、非常に高価なものになる。その他の重要なポイントは、ラムダセンサーとマスエアフローセンサーだ。初代モデルはすでに20年以上経過しているので、ソフトトップのリアウィンドウもよく見ておいたほうがいい。ウィンドウにひび割れやしわが見られる場合は、すぐに交換の時期を迎える可能性がある。一般的に、「ボクスター」の品質は、ポルシェらしく良いものだが、交換部品には通常のクルマに比較し、相当の割増料金がかかることを想定しておかなければならない。現在の中古車市場を見渡せば、「ボクスター986」は、1万ユーロ(約132万円)を切る価格から見つけることができる。しかし、そのような掘り出し物は、想定外の修理費用がかかることが多々あることも想定しておかなければならない。クラシックデータによれば、オリジナルの「ボクスター(204馬力)」のコンディション2で12,200ユーロ(約160万円)、コンディション3で8,100ユーロ(約106万円)からとなっている。

エンジンのサービスハッチもリアトランクに設置されている。整備性はあまり良くない。

「ボクスター」も登場から四半世紀、ということで、記事にもあるように値段はかなり激安なものも見受けられる。というか、そもそも当時の「ボクスター」は「911」よりも手ごろで軽便に楽しめるオープン2シーターという立ち位置で登場し、その価格も日本においても600万円で買えるくらいの自動車だった。今のボクスターはなんだかんだで、1,000万円の自動車になってしまったが、とにかく当時はそういうライトで、ハードルの低い自動車という願いも込められたポルシェだったのである。だから25年も経過したというのに、100~150万円くらいの価格を維持していることが、かえって不思議なくらいだが、そういう部分こそがポルシェの持つマジックなのだろう。もちろん安く買えたからといってそのままの状態で乗ることなどできないし、維持費が普通以上にかかるのもポルシェというクルマである。エンジンのメンテナンス、サスペンション・マウントのメンテナンス、そして幌の部分のメンテナンスなどなど、完全な状態で乗るにはかなりの出費を覚悟しなくてはならない。これが古いイギリス車とか、マツダ ロードスターなら、「古い自動車なんてこんなもんさ」と、古さも味として乗ることができるが、ポルシェとなるとそういうわけにもいかず、やはり完璧を求めたくなるというのが実情だろう。いつの時代もポルシェは人の煩悩と財布を翻弄するクルマなのである。

Text: Wolfgang Gomoll
加筆: 大林晃平
Photo: Roman Raetzke / AUTO BILD