伝説のムービーカー デロリアンDMC-12は真のレジェンドか? 徹底検証と購入アドバイス

31

デロリアンDMC-12というクルマが、「伝説」になれない理由。

デロリアンDMC-12は、ドライビングムービーの伝説的存在で、その名声は車を凌駕している!? どのようにスポーティなのか、どのように仕上げられているのか、どのように修理されているのかという情報ととともに、購入アドバイスをお届け。

「デロリアンDMC-12」は、80年代に「バック トゥ ザ フューチャー」のスクリーンヒーローとして、有名になった。
ジョルジェット ジウジアーロのフラットなウェッジボディには、イタリアのスーパーカーの精神が息づいているが、それ以上のドラマはない。
しかし、テストコースでのデロリアンのパフォーマンスや、スペアパーツや耐久性など、クラシックカーとしての評価は果たしてどうなのだろうか?

スポーティなキャラクターのないPRV6気筒エンジン

乗り込むのは意外に簡単だ。
右ひざをステアリングホイールの下に入れて腰を落とし、2本目の足をワイドシルに乗せる。
お尻はふっくらとした革の上にソフトに着地するが、ほとんど路面を引きずっているように感じる。
ガルウィングドアを閉めると、まるで宇宙(あるいはタイムカプセル)に座っているような気分になる。
例えば、ダッシュボードには贅沢にもメーター類が装備されており、非常にすっきりとした仕上がりになっている。
視界は前方はフラットなボンネットを越えて道路に落ちるが、側面は幅広のBピラーによって激しく跳ね返えされる。
後方への視界も控えめだ。
ドアは小さな窓枠しか開けられない。
イグニッションキーを回すと、すぐにリアのV6に火が入る。
しかし、その音はスポーツカーのようには少しも聞こえない。
荒々しい下地は、「PRVエンジン(プジョー、ルノー、ボルボの共同開発であることから、この略称が使われている)」が、2気筒カットされる前は、もともとV8を目指していたことを思い出させる。
しかし、お行儀の良いセダン用のエンジンであることに変わりはなく、その音はメロディアスというよりは単調である。
1,262キロのガルウィングクーペは、132馬力という華奢な出力だが、特に5,000rpm以上の回転には消極的なので、決して不足しているとは言えない。
0-100km/h加速が10.8秒という数値は、最高速度が198km/hと見た目よりも100km/hも低いことと同様に、ほとんど目立たない数値である。

ドライバーのための十分な情報、低い着座位置、余裕のある肘のスペース。ハンドブレーキは、シートと幅広のシルの間の左側に設置されている。

このシャシーは、「ロータス エスプリ」にも装着されている

デロリアンのシャシーは、その生みの親が悪いわけではない。
ロータスの創始者である、コーリン チャップマンのサインが入っており、彼のボンドカーである「ロータス エスプリ」にも搭載されているため、「デロリアン」のエンジンパワーに対して、オーバークオリティとなっているのである。
コーナリングの精度は、パワーステアリングの反応が鈍く、曲がるときに遅れて反応するため少し悪く、苦戦しがちだ。
一方で、ロードホールディングの良さは見逃せない。
デロリアンの重量の62%がリアアクスルにかかっているにもかかわらず、リアの押し出しが遅いだけだ。
また、限界域でのコントロールも容易で、ボディロールも小さいままだ。
しかし、その乗り心地は褒められたものでは決してない。
厚いシートクッションが吸収しきれない分は、伸びた背中に厳しい衝撃として残る。
マイルドなエンジンとはいえ、スポーツカーはスポーツカーなのだが・・・。

デロリアンは常に無塗装状態で届けられた。ブラッシュドステンレスが気に入らなければ、ディーラーに色付きのものを注文することができた。

錆はデロリアンにとって問題ではない

「デロリアン」は、エキゾチックカーの中では、比較的メンテナンスに手間がかからない車だ。
メンテナンスに特別な知識は必要ない。
ガルウィングドアの調整だけは、アウグスブルク近郊のアデルスリードに住むウォルフガング ハンク(team-deloman.de)や、ハスローに住むマイケル ワグナー(autotechnik-wagner.de)などの専門家に任せるべきだ。
これらのエキスパートは、技術的なアップグレードによって、典型的な弱点を把握する方法も知っている。
GRPやステンレススチールは錆びないので、ボディ部分の腐食は問題にならない。
しかし、シャシーは、衝突やブレーキ液の漏れ、リアでは触媒コンバーターの廃熱などでエポキシ層が損傷すると、腐り始める可能性がある。
「DMC-12」のオーナーは、大量のオールドストック部品と再生産品のおかげで、パーツ探しに苦労することはない。
オランダのEd Uding社(delorean.eu)や米国のDeLorean Motor Company社(delorean.com)のように、部品や完成車を扱う専門業者もいる。
ボディの交換だけは珍しく、値段も高い。

横方向の傾斜は低いままで、パワーオーバーステアをするには単純にパワーが足らない。

リアで熱問題を引き起こすエンジン

ユーロV6は頑丈だが、「デロリアン」特有の特性(コンプレッション、カムシャフト、タイミング、エンジンマウント)のため、他のPRVエンジンと同一とは言い難い。
また、リアに設置されているため、熱的な問題が発生しやすく、冷却システムの完成度が非常に重要となるため、漏れやファンの不具合が主な問題となる。
例えば、ゴムホースをより耐熱性の高いシリコンラインに変更し、マニホールドの下には錆びにくいステンレスパイプを取り付け、プラスチック製の膨張タンクの代わりにアルミ製の膨張タンクを取り付けるといった処置が求められる。
バルブラッシュの調整(5万kmごと)は、エアフィルター、エアコンコンプレッサー、熱風調整器を分解しなければならず、手間がかかる。
電気系統の調子が悪い場合は、通常、シャシーのアースポイントの接触抵抗が高いことが原因である。
シャシーコンバージョンキットは、工場出荷時のスプリング設定が高すぎてコーナーでの方向安定性が悪くなっている状態を改善する。

エンジンの搭載位置の関係で、重量の62%がリアアクスルにかかっている。

良好な個体は5万ユーロ(約660万円)もする

「DMC-12」は、デロリアンが倒産した直後から、すでにマニア向けのクルマになっていたため、長い間、安価ではなかった。
その間、非常に良い個体は5万ユーロ(約660万円)を超える価格で取り引きされている。
その半分の価格では、アメリカでも、多かれ少なかれ修理が必要な車しかない。
ただ、アメリカの方が品揃えは豊富だ。
オーナーズクラブの連絡先が検索の助けになる。
特に、販売されている車は内部で伝えられていることが多く、一般の販売ルートには載らないからだ。
クラシックデータでは、コンディション2の個体で40,200ユーロ(約530万円)、コンディション3の車を27,800ユーロ(約366万円)と評価している。

デロリアンに関しては、その生まれた背景や、生みの親たるJZデロリアンそのものの人生などなど語るべきポイントは多数あるものの、やはり何と言っても一般的には「バック トゥ ザ フューチャー」に登場したことで今の知名度や価値が決まったといってもよいだろう。
「バック トゥ ザ フューチャー」にデロリアンが採用されていなければ、おそらくここまでの知名度も、取引されている値段も保って存在していないはずである。
純粋に自動車のハードウェアとしてみれば、エンジンもサスペンションもトランスミッションも別に(ファンには申し訳ないが)、それほどのモノではなく、ジウジアーロデザインによるステンレスのボディとガルウィングドアさえなければ、まあ特段に走りや快適性などを特筆すべき点はあまりない。
だが映画の多大な影響を受けたおかげで(?)、おそらくデロリアンはこれからも末永く多くの人の頭の中から消えることはないといえるし、その名前も埋没してしまうこともないだろう。だから価格も比較的上下せずに安定したまま推移すると思われるが、パーツそのものは手に入りにくくなるかとは思う。とはいっても特別に難しい仕掛けはないから、いざとなればエンジンやミッションなどを別のクルマから移植するという手もあるだろうし、そういう改造をしてもデロリアンの場合、形がすべてだから許される行為なのではないかとも思う。
それにしてもこの写真で赤いクルマもあったとはちょっと驚いた。確かデロリアンはステンレス製のボディ色のみだったと長年記憶していたからで、ボディを磨くには「カネヨン」一本で行う、という都市伝説を信じ込んでいたからである。
他にはどんな色に塗られたデロリアンがあったのか、ちょっと気になる。

Text: Martin G. Puthz
加筆: 大林晃平
Photo: Christoph Börries