これぞAMG!オールドスクールな「メルセデスCLK 63 AMGブラックシリーズ」をラグナ セカで堪能した
2026年9月23日
メルセデスCLK 63 AMGブラックシリーズ(Mercedes-Benz CLK 63 AMG Black Series):この希少な特別仕様車の相場は2倍に高騰。「オールドスクール」なAMGはラグナ セカでどのような走りを見せるのか!
暗闇のなか、私はピットレーンを後にする。小径のスポーツステアリングをしっかりと握り、ホームストレートへ進入する際には右足を慎重にコントロールしなければならない。私はハイビームを点灯させた。
時刻は午前5時34分。場所はアメリカ屈指の名門サーキット、ラグナ セカ レースウェイ(Laguna Seca Raceway)である。金曜日の朝としては、これ以上ないほど素晴らしい始まりだ。
いや、そんな控えめな言い方では足りない。これはクルマ好きなら一生忘れられない瞬間である。しかも私は今、世界でわずか700台しか製造されなかったCLK 63 AMGブラックシリーズの運転席に座っている。その事実が、この体験をいっそう現実離れしたものにしている。
話を数週間前に巻き戻そう。編集部に、メルセデス・ベンツ クラシック部門のフランクから電話がかかってきた。「ラグナセカでCLK 63 AMGブラックシリーズを走らせることに、AUTO BILDは興味があるか」という。
そんなものは、答えを聞くまでもない質問だろう。そう思いながらも、念のため「もちろん!」と答えておいた。
AMGでは珍しいボディカラー
大陸間をひとっ飛びしたのち、私は漆黒の闇に包まれたラグナセカのピットレーンに立っている。目の前にあるのは、希少色「ファイアオパール」をまとったCLK 63 AMGブラックシリーズだ。エンジンはすでに始動している。緊張が高まってきた。

しかし、いよいよ本題に入る前に、現在までに6モデルを数えるブラックシリーズの歴史を簡単に振り返っておこう。
すべては2006年のSLK 55 AMGから始まった。ブラックシリーズの系譜を語る際、このモデルはしばしば忘れられてしまう。それはおそらく、後継モデルの方が単純に知名度も人気も高く、さらに過激だったからだろう。
最初のSLKに続いたのがCLK 63 AMGであり、その後メルセデスはHWAと共同で、荒々しいSL 65 AMGブラックシリーズという記念碑的な一台を世に送り出した。
ブラックシリーズ第2弾
2007年に発表されたCLK 63 AMGは、ブラックシリーズの処方を施された2番目のモデルだった。現在の視点で見ると、後に続くモデルの前触れのような存在に映る。
標準仕様でも十分に希少な「普通の」CLK 63 AMGと比べれば、はるかに過激なデザインである。しかし、後に登場したSL 65 AMGブラックシリーズ、C 63 AMGブラックシリーズ、SLS AMGブラックシリーズと比較すれば、まだいくらか控えめだった。
大きく張り出したワイドフェンダーと美しい19インチ鍛造ホイールを与えられた一方で、巨大なエアロパーツは装着されていない。
もっとも、完全に正しい説明ではない。CLKブラックシリーズには、固定式リアウイングを備えた「エアロパッケージ」もオプションとして用意されていたからだ。ただし、それを注文した顧客はごくわずかだった。
それでよかったと思う。大きなウイングよりも、控えめなカーボン製スポイラーリップの方が、このブラックシリーズには明らかによく似合っている。
アメリカ仕様にはバケットシートなし
現在へ戻ろう。いよいよ本番だ。私は大ぶりなレザーシートへ身体を滑り込ませる。
もちろん、できることならレカロ製フルバケットシートの方がよかった。ましてや、ここはサーキットである。しかし、アメリカ市場向けに割り当てられた350台には、すべてレザー張りのコンフォートシートが装着されていた。それでも横方向のサポート性は、予想していたよりはるかに高い。
やがて、電動シートベルトフィーダーが作動音を立てながらベルトを差し出してくる。
後席を取り払うほどの徹底した割り切りと、こうした快適装備との、ときに滑稽ですらある組み合わせ。それこそが、このAMGを特別な存在にしている。
どれほど硬派に見えようとも、結局のところブラックシリーズは、紛れもなく2000年代のメルセデスなのである。

500馬力を超える6.2リッターV8
大排気量エンジンの愛好家なら「ありがたい」と声を上げるだろう。CLKはブラックシリーズになっても、過給器とは無縁のままだった。
ボンネットの下に収まるのは、伝説的な6.2リッターV型8気筒自然吸気エンジン「M156」である。ソフトウェアの最適化と吸気経路の大径化により、最高出力は507馬力へと引き上げられ、その力を後輪へ送り込む。
標準仕様のCLK 63 AMGが481馬力であるのに対し、26馬力の上乗せだ。一方、最大トルクは両車とも630Nmで変わらない。
私はひとまず慎重に走り始めることにした。理由は視界の悪さだけではない。細かなあられが降り、コースは部分的に油断ならないコンディションとなっていた。
アクセルを踏み込むタイミングがほんの一瞬早いだけで、CLK 63 AMGブラックシリーズは涼しい顔でテールを外側へ振り出す。285サイズのリアタイヤを履き、ESPを作動させているにもかかわらずだ。それでも、周回を重ねるたびにクルマへの信頼は深まっていく。
CLK DTMほどスポーティではない
標準装備の車高調整式サスペンションとワイドトレッド、そして265サイズのフロントタイヤのおかげで、このAMGはコーナーも十分にこなせる。
しかし、本来の縄張りが長いストレートであることは間違いない。HWAのスペシャリストたちが開発した、より過激で高価なCLK DTMと比較すると、ブラックシリーズはレーシングカーというよりもマッスルカーに近く感じられる。
オートマチックが運転の楽しさを損なう
最大の弱点は、中立付近でいくらか手応えに欠けるステアリングではない。7速オートマチックトランスミッションだ。
ブラックシリーズ用にギア比はローギアード化されているものの、スポーティな味付けという点では依然として不十分である。スポーツモードを選んでいても、スピードシフト オートマチックにキックダウンさせるには、ドライバーがアクセルを文字どおり床まで踏みつける必要がある。
マニュアルモードでも、金属製パドルによる変速には残念ながら明確な遅れが伴う。変速速度に関しては、一見すると旧式に思える5Gトロニックを搭載したCLK DTMの方が、まったく別次元にある。

もっとも正直に言えば、CLK 63 AMGブラックシリーズと旧型のCLK DTMを比較すること自体、かなり無理がある。
CLK DTMはDTMでのシーズンを記念し、ホモロゲーションモデルに近い位置づけで、わずか100台のみが生産された。その中身は、ベースとなったCLKとはほとんど別物である。
一方、ブラックシリーズは硬派なAMGではあるものの、最終的には今なお生粋のメルセデスなのだ。
新車価格は14万ユーロ(約2,600万円)以上
両車の方向性の違いは、価格を見ればより鮮明になる。ブラックシリーズの発表当時の価格は14万1,610ユーロ(約2,620万円)だった。一方、CLK DTMを手に入れるには、少なくとも23万6,060ユーロ(約4,367万円)を支払う必要があった。
現在、100台しか存在しないCLK DTMが市場へ出てくること自体まれだが、売りに出されれば60万ユーロ(約1億1,100万円)を大幅に超える価格が提示される。走行距離がとりわけ少ない個体なら、価格は100万ユーロ、すなわち約1億8,500万円の大台に達する。
それと比較すれば、ブラックシリーズは今や安価にすら思える。もちろん、ここ数年でその相場は急激に上昇している。
状態のよい車両は、現在15万~20万ユーロ(約2,775万~3,700万円)で取引されている。人気がやや低いアメリカ仕様の逆輸入車でさえ、すでに10万ユーロ(約1,850万円)を超える。
わずか2年ほど前なら、同じ金額でドイツ国内に新車として納車された良質なCLK 63 AMGブラックシリーズが手に入った。酷使され、傷んだ個体なら6万~7万ユーロ(約1,110万~1,295万円)で見つかることもあった。
現代でもっとも美しいAMGの一台
伝説のコークスクリューを抜けながらクールダウンラップを走り、私は考えた。CLK 63 AMGブラックシリーズは、後に続く過激なAMGの前触れだっただけではない。今となっては、ある種の警鐘を鳴らす存在でもある。
それは、現代のクルマがしばしば失ってしまったもの――「感情」を思い出させる記念碑なのだ。
ブラックシリーズの走りは、決して完璧ではない。徹底的に研ぎ澄まされたモデルであるかのような印象とは裏腹に、サーキットではどこか場違いにすら感じられる。
ピットレーンへ戻った私は、あらためて時間をかけてクルマを眺める。そして確信した。CLK 63 AMGブラックシリーズは、近代AMGのなかでもっとも美しいモデルの一台であり、史上もっとも印象的なV8エンジンのひとつを搭載している。
再びレンタカーへ乗り込んだ瞬間、私はもうブラックシリーズが恋しくなっていた。
時刻は午前7時02分。いつの間にか、太陽が昇っている。
結論:
控えめながら攻撃的なスタイリングと、荒々しいV8自然吸気エンジン。この組み合わせによって、メルセデス CLK 63 AMGブラックシリーズは、過去20年間でもっとも欲望をかき立てるAMGの一台となった。
近年、その価値は上昇している。それでも私の目には、このブラックシリーズは依然として大幅に過小評価されているように映る。
Text: Jan Götze
Photo: Mercedes-Benz Classic

