皆さん、やっぱり気になります?「BYD ラッコ」中国製の軽自動車はいかがでしょう
2026年9月15日
日本上陸以来、今もっとも注目度の高い車の一台ともいえるBYDラッコ。販売開始後約1か月で1500台以上もの受注を受けたという軽EV「BYD ラッコ」を大林晃平がインプレッション。
「BYD RACCO(BYD ラッコ)」は発表以来注目度は高まるばかり。すると、メディアによる試乗の依頼も増える一方のようだ。BYDの広報の方が「なにしろ予定がいっぱいなので、返却時には洗車と満充電をお願いしたいのですが……」と言う。
基本的に広報車返却時には、室内外の清掃と満タンというのが暗黙の了解、というかギョーカイのマナーなので、そんなの言うまでもなく当たり前のことではあるのだが、従来までBYD広報車は「洗わないで充電も減ったままでいいですよ」という優しい対応だったのに比べて勝手が違っていた。ラッコはピンクレディー全盛期のようなタイトスケジュールらしい。そんな中5日間も貸してくれたBYDさんには感謝しかない。広報部のIさん、Kさんいつもありがとうございます。
さて、早速ラッコの評価をAI、ではなく私が勝手に要約すると「さあ大変、黒船の来襲だ。恐ろしく短期間で開発したにもかかわらず、日本の状況や軽自動車の使われ方を徹底的に分析してつくっているらしく、その基本性能は非常に高く、装備も良く、商品価値はすごく高い。乗って運転してみても走りは軽自動車のそれを超えているので、快適で良いし、原産国のイメージと、差別のようなわが国の補助金に関しては言及することは多いが、スーパーハイトワゴンとしては実によくできているではないか!問題は、どうして日本の自動車メーカーが先にこういうクルマを出せなかったんだ、しっかりしろ、喝!!」といったところだろうか。
「BYDラッコ」のラインナップは「ラッコ 200」(バッテリー容量22.4kwh、214.5万円)と「ラッコ 300」(同35.84kwh)、「ラッコ 300」に装備違いの「プラス(239.8万円)」と「プレミアム(249.7万円)」この3つのグレード展開だ。CEV補助金は全モデル共通の15万円。
お借りしたのは最上級グレードである「ラッコ 300プレミアム」。航続距離は「200」が210キロに対し、「300」は320㎞となる。バッテリーの大きさは如実に車重にあらわれ、「200」が1160㎏に対し「300プレミアム」は1230㎏となる。「300プレミアム」はほぼフル装備であった。

バッテリーはBYD自製のリン酸鉄ブレードバッテリーで新開発のアーキテクチャ「X-PACK」に収められている。劣化が少なく安定性能を長く維持するというこのバッテリーには8年・16万km保証が設定されているのも特徴である。

数多あるBEVの中には、一充電あたりの航続距離がカタログ値と大きくかけ離れたものがある。しかし「ラッコ」は暑くてじめじめした都市部をエアコンガンガンにして駆けずり回ってもしっかり300キロ走るだろうと実感できた。というのも充電速度を試したくてちょこちょこ充電してしまい、100%から限りなく0%になるまで走ることができなかったのである。

乗り始めて2日もすると慣れてきて色々見えてきた。走行性能に関する部分、操作系、インフォテイメント系あちこちに今後煮詰めていってほしいと思ったところを5つ上げよう。
① 張りが強く、すぐお尻が痛くなる合成皮革のシート。
② 小さいばかりか、スピードメーター、シフトポジション、時計などの表示が米粒のように小さく見にくいディスプレイ。
③ グリップ性能に欠けるタイヤ。雨の日にはヒヤリとすることが何度かあった(165/65 15というサイズには不満はない)。
④ たまに生まれ故郷を懐かしんでホームシックになるのか、自国の道路を表示してしまうナビシステム(Android Autoを接続時に、たびたびなった)
⑤ 長期間の使用での信頼性(今回は乗っている間に、アクティブクルーズコントロールが不調になり、結局使えなくなってしまった)
以上である。とにかく良くできた自動車だし、充実した装備(傘立てとか、乳幼児置き去り防止システムとか、暖め機能付きカップホルダー、電動シートなど)も備わっていることにはちょっと悔しささえ感じた。もちろん、なくてもいい装備がないわけではないが、それでも便利なものを積極的に採用しようという気概は評価するべきであろう。



さて、ここでレポートを終わってしまってはなんとなくコンテンツとして実につまらないので(笑)どうしようかと思っていた矢先、某自動車メーカーに勤務する優秀な親友から連絡があった。彼は長年開発畑の最前線にいて、プロジェクトリーダーなども務めた、ホンモノのエンジニアである。
その彼が「BYDのラッコが気になっていて是非とも見てみたいんですが、乗りましたか?乗ったなら感想を聞かせてくれませんか?」と、ちょっとした気迫がこもっていて、真剣さが伝わってくる電話であった。ちょうど今お借りして乗ってるんだけど見る?といったら、いの一番で飛んできた。
「どうせ数か月後には会社が研究用に購入したラッコを研究所の台上で、レーザーカッターで半分に切ったり、パーツ一つ一つを精査したり、徹底的に分析するんでしょう?(そうでなくっちゃ困る)」とは思ったものの、兎にも角にも早くラッコの現車を見たいという危機感のようなものを感じた。危機感を持つことは、何より大切だしそれこそがエンジニア魂というものだ。

そして、数時間という短い時間であったが、彼は溶接部分やスライドドア周辺を丹念に、巻き尺で測ったり(測らなかった)、ぶつぶつ言いながら見ていたのだが、大筋においては良くできたクルマで、この値段を達成できたことの背景はさておき、特段突っ込みを入れる部分は見当たらなかった、というのが彼の意見である。
自動車とのコミュニケーションの部分や乗り心地、組付けや仕上げの部分、そして信頼性(個人的にBEVには従来の鉛バッテリーを余分に積まなくてもいいではないかという私の意見に対し、予備のバッテリーを載せていないことには、やはり不安が多いと彼は言う)には不安はあるし、彼の勤務する自動車メーカーの作っているBEVの方がまだ優れている部分はある、とも言っていた。
もちろんそのメーカーの生命線ともいえるスライドドアのハイトワゴンは今日も開発進行しているはずだし、これからリン酸鉄バッテリーだけではなく様々なバッテリーが出てくるのであろう。
最後に彼は「もちろん先手を打たれたことには悔しさもあるが、今の大騒ぎに左右されず、しっかりとした自動車を開発したいと思います」と極めて真面目な表情でラッコを降りた。その言葉を信じたい。

さて、そんなラッコを借りていた5日間の間に、1500台もの受注を受けた、というニュースがBYDから発表された。そのうちのどれだけの台数が我が国の自動車メーカーの元に納車されるのかは不明だが、いまこうしている間にも様々な研究所や開発グループの手によって、ラッコはばらされ、切り刻まれたり、解剖実験されデータをとられている姿を想像する。
私は少しもそういう事をおかしいとも恥だとも思わないし、かくいうラッコだって何台ものN-BOXやスペーシアやタントの検体を調べつくしたうえで生まれたのではなかろうか。そして今までも世界中の自動車メーカーは同じようにライバルを調べ、切磋琢磨しながら進化し歩み続けて来た。

これからBYDはどのような手を打ってくるのかも気になるし、それ以上に我が国の自動車メーカーが「こういう手があったか!」と嬉しくなるような技術とアイディアで、世の中で自動車を必需品として切望している人たちをもっともっと幸せにしてほしい。技術のケンカなら大歓迎である。

最後にBYDが発表した「ラッコ」の購入を決めた理由のトップ5を紹介しよう。
1.商品としてのしっかり感 (試乗後に印象が変わった)
2.価格を超える充実した装備 (全グレード車:スーパートール+両側電動スライドドア/300Premiumのさらに充実した装備
3.高い安全性(がっちりとしたボディ、高度運転支援システムなど)
4.駆動用バッテリー、高電圧部品関連などの長期保証と保証の内容
5.十分な走行距離
良いものは人の心を惹きつける。これからの「BYD ラッコ」の売れ行きがどうなるのか楽しみである。
Text:大林晃平
Photo:大林晃平/アウトビルトジャパン(Auto Bild Japan)

