1. ホーム
  2. EV
  3. 迎撃ののろし スズキの新型軽EV「e SKY」登場

迎撃ののろし スズキの新型軽EV「e SKY」登場

2026年8月24日

富士スピードウェイでBYDが「ラッコ(RACCO)」の試乗会を行った翌日、千葉の袖ヶ浦スピードウェイではスズキの新しいBEVである「e SKY」のプロトタイプ試乗会が開催された。果して偶然か、それとも何かを意識してのことなのか。大林晃平がレポートする。

本当に単なる偶然なのか、あるいは相手を意識しての設定なのか、さすがに聞いてはいないので真相はわからないのだが、ライバルになることは避けて通れない二台、というか2つのメーカーが試乗会を開催した。個人的な推測ではラッコの試乗会を知ったスズキがそれにぶつけるように設定した日程と場所なのではないかと思うが、ほぼ同時に開催されたことは興味深い。

スズキは、まだあくまでもプロタイプであることを断っての試乗会ではあったが、最終的な市販車に限りなく近いこの「e SKY」はスズキのこれからの軽自動車のBEV化の最初のモデルである。発売は今秋の予定だ。

昨年11月のJapan Mobility Show 2025において「ビジョン e SKY」として公開された車が今回の一台であり、やや所帯じみたディテールになったものの(笑)、ほぼコンセプトモデルのまま出てきた。「e SKY」はスズキの湖西工場で生産される。

グリルレスのフロントマスク。ショルダーラインはスズライトを想起させる。
リアビューはいわゆる“スズキの軽”を踏襲している。

スズキ自ら「いつもの軽から、無理なくEVへ」と言うとおり、「e SKY」の成り立ちや特徴にはBEVらしい、あるいはBEVならではのココ一発勝負的なものは少なく、あくまでも普段の軽自動車らしい使い方の中で、違和感なく内燃機関のクルマから乗り換えることのできる性格であることを強調する。

リン酸鉄バッテリー(FDB製)を床下に置き、航続距離は310㎞。車重は1010㎏(いずれもプロトタイプ)で車高だけは1625㎜とやや高い。写真で見るよりも、(どの色も)やや地味な色調の青や黄色、オレンジに塗られた現車を見て感じるのは確かにこれならばガソリンエンジンの軽自動車から乗り換えても違和感はないだろう、と思うような普通の感じと、そこそこに未来的な新しさを微妙にブレンドした自動車である、というバランス感である。

明るく落ち着いた心地よい空間を演出。素材感も申し分ない。シートの掛け心地はとても良い。

前後席とも十分以上に広い室内だが、特筆したいのは運転席のシートのソフトな座り心地で、軽自動車のシートでこんなお尻が喜ぶいい感じのシートに座るのは稀にみる心地よさである。

身長170㎝のドライバーのシートポジションでこれだけの足元空間が生まれる。
テクニカルデータスズキ e SKY(プロトタイプ)
駆動2WD
電池容量26kWh
全長/全幅/全高3395/1475/1625mm
ホイールベース2460mm
トレッド 前/後1285/1295mm
最小回転半径4.4m
最低地上高140mm
車両重量1030kg
タイヤ165/65 R14 ダンロップ e.ENASAVE
後席足元の広さを確保しながら荷室容量もしっかり確保している。

室内のほかの部分も安っぽさは皆無だし、ステアリングヒーター、シートヒーターをはじめ、全車速対応の自動追尾式クルーズコントロール、電動パーキングブレーキ、10.1インチのディスプレイオーディオシステムなど装備に不足はない。

問題のシフトセレクターとセンターコンソール。ベージュの部分は陶器を模したリサイクルPETのカラーMIX樹脂によるポケット付きトレイ。

そんな中、唯一違和感を覚えたのは昔ながらの形状と位置のセレクターレバーで、まるでオートマチックトランスミッションがついていますと言わんばかりの形状と大きさで、その下のセンターコンソールと合わせえて、ドライバーの左足のスペースをかなり狭いものとしてしまっている。せっかくこの部分の形状やスペースなどどうにでもなるはずのBEVだというのに、これはなんとももったいない。おそらくこの部分も内燃機関の自動車から違和感なく乗り変えることへの配慮かと推測するが、せめてアルトラパンくらいの形状と大きさだったら、左足元スペースに余裕ができたはずなのでとても残念である。

今回はサーキットという限られた場所と時間であったため、試乗の条件としてはかなり偏ったものではあるが、走行において「e SKY」にケチをつけるような部分は見当たらなかった。それよりも、酷暑の中寒いほどエアコンを効かせながら滑らかな走りを堪能していると、一度内燃機関の軽自動車からBEVに乗り換えてしまうと、元に戻れないのではないかとさえ思う。

軽EV専用のプラットフォーム「HEARTECT」が低重心化によるハンドリングの良さを実現。

ガソリンスタンドの減少などの問題も考えると、地方においての生活を支える軽自動車の姿を考えると、今後は軽EVの重要性はますまず高まるだろうし、日本においては軽自動車からBEVは浸透するのではないかと思う。

結局この日の試乗で感じた残念な部分は①前述のセレクターレバー周辺の形状②補器類のためにエンジンルーム内に残っている従来型の鉛バッテリー③シートバックポケットがないこと④防眩ではないミラー⑤なんだか細かいホコリがついているようにしか見えない(笑)リサイクルPET素材のダッシュボードのトレイくらいだろうか。

鉛バッテリーはあくまで補器類用。

②のバッテリー問題に関しては開発者に疑問をぶつけたところ、内燃機関の自動車の機構や装備などをベースに作っているため現段階では必要であり、今後は一つにする方向も考えたい、とのことであった。

僕などの指摘するまでもないことではあるが、せっかくのBEVなのにメンテ、交換が必要な鉛バッテリーは非効率だし、なければ1030㎏の車重もちょっと減って1トンを切れるかもしれない。もう一方で「e SKY」のコンセプトにある「少ない電気でたくさん走る!」を実現するには補器類など走りのパート以外は鉛バッテリーを使わざるを得なかったとも推測できる。いずれにいしろ今後の展開に期待である。

今回「e SKY」試乗前の説明でエンジニアの「加速や航続距離などで(過度に)競争するわけではありません」という言葉が個人的には特に気に入った。購入しやすく、耐久性に優れ、日々の生活に気持ちよく適合する家族のような自動車、僕は大好きである。

車重は1030kgでアルトより300kgほど重いことになるが、その分落ち着いた走りを見せる。限界走行は許されなかったものの、ちょっと攻めたくらいでは顎を出さない。

「e SKY」につづいて、これから発表される(はず)のスライドドアの軽自動車や、キャリー、エブリイ(eエブリイ)といった商用車の開発を、どうか頑張ってほしい!本当に誇張でもなんでもなく、わが国の日々の生活を支えているのは軽自動車であり、この分野で負けたら我が国はオシマイであるといって良いと思う。どうか生活にしっかり根付いた軽自動車が、これからも末永く多くの人に便益と夢を与え続けてくれることを、心から願っている。

Text:大林晃平
Photo:アウトビルトジャパン(Auto Bild Japan)