【ショートストーリー】メルセデス・ベンツ ステーションワゴンのルーツ「メルセデス・ベンツ230S ユニバーサル(1966年)」
2026年8月14日
現在のメルセデス・ベンツ ステーションワゴンのルーツ
いまから60年前、メルセデス・ベンツは「ステーションワゴン」という新たな可能性に踏み出した。
1966年8月、メルセデス・ベンツは230S 「ユニバーサル(Universal)」と呼ばれるステーションワゴンをラインナップに加えた。ベースとなったのは、当時の高級セダンであるW111シリーズ。セダンの優雅さを保ちながら、レジャーやビジネスにも対応できる広い荷室を備えた、多用途なモデルであった。
興味深いのは、この「ユニバーサル」がメルセデス・ベンツ自身によって製造されたモデルではなかったことだ。
生産を担当したのは、ベルギー・リエージュに拠点を置くコーチビルダー、IMA社。メルセデス・ベンツのシャシーをベースにステーションワゴンへと仕立て上げ、メルセデス・ベンツの販売網を通じて市場に送り出されたのである。230S 「ユニバーサル」の生産は1968年まで続いた。

実は「ユニバーサル」は230Sだけではない。W110シリーズの「フィンテール」セダンをベースとした200D、200、230にも設定され、こちらの生産規模は230Sより大きかったという。技術的にもセダンとは異なる部分があり、IMA製のステーションワゴンでは13インチホイールを採用することで最低地上高を高めるなど、実用車としての使い勝手が考慮されていた。
そして、この230S 「ユニバーサル」が持つ最大の意味は、その後のメルセデス・ベンツのステーションワゴンの歴史を考えると、より鮮明になる。1977年、W123シリーズに本格的なステーションワゴン「Tモデル」が登場する。今日まで続くメルセデス・ベンツのステーションワゴン文化、その原点をたどっていくと、1966年に登場した230S 「ユニバーサル」に行き着くのである。
高級セダンをベースに、荷物を積むという実用性を加えた230S 「ユニバーサル」。それは単なる派生モデルではなく、メルセデス・ベンツが後のステーションワゴン「Tモデル」へと踏み出すための重要な一歩だった。

現在、この希少なW110シリーズの200D「ユニバーサル」は、メルセデス・ベンツ博物館に展示されている。約60年前に生まれた一台は、今日のメルセデス・ベンツステーションワゴンのルーツを静かに物語っている。
TEXT:妻谷裕二
【筆者の紹介】
妻谷裕二(Hiroji Tsumatani)
1949年生まれ。幼少の頃から車に興味を持ち、1972年ヤナセに入社以来、40年間に亘り販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特に輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版カタログや販売教育資料等を制作。また、メルセデス・ベンツよもやま話全88話の執筆と安全性の独自講演会も実施。趣味はクラシックカーとプラモデル。現在は大阪日独協会会員。

