マラネロが生み出した「マニュアル」復活の秘密 フェラーリが「フェラーリ 12チリンドリ マニュアーレ(Ferrari 12Cilindri Manuale)」でマニュアルトランスミッションの復活を宣言
2026年7月25日
フェラーリは「12Cilindri Manuale」でマニュアルトランスミッションの復活を果たした。しかし、マラネロで新たに開発されたこの変速システムは、従来のマニュアルトランスミッションとはまったく異なる仕組みを採用している。
フェラーリは、まだ我々を驚かせることができるブランドだ。ブランド初のEV「ルーチェ」がスポーツカー界で賛否両論を巻き起こしたあと、イタリアの名門は「12Cilindri Manuale」で再び内燃機関を愛するファンへと舵を切った。
車名の由来でもある6.5リッター自然吸気V12エンジンは、最高出力830psを発生し、標準モデルの12Cilindriから変更はない。一方で新たに採用されたマニュアルトランスミッションは、その仕組みが従来の常識とは大きく異なっている。
そのシステムの名称は「マニュアーレ バイ ワイヤ(Manuale By-Wire)」。ドライバーはクラッチペダルを踏み、アルミ削り出しのシンプルなシフトノブをオープンゲートで操作する。しかし、その操作は機械的に直接トランスミッションへ伝達されるわけではない。すべての操作はまず電子信号へと変換される。

Photo:Ferrari
その電子信号が制御するのは、標準の12Cilindriにも搭載される8速デュアルクラッチトランスミッション(DCT)だ。
興味深いことに、ドライバーがマニュアル操作を行う際のシフトパターンは伝統的な6速レイアウトとなる一方、自動変速モードでは8速DCTとして機能する。
そのため、最高速度340km/h超、0-100km/h加速2.9秒というパフォーマンスは標準モデルと変わらない。必要な場面では、疲れを知らない電子制御システムが従来どおり最適な変速を行うからだ。
独自の作動原理を採用したシフト機構
コクピットに備わるシフトメカニズムは、2つの独立した回転機構で構成されている。一方がギアを選択し、もう一方がギアを「入れる」動作を担当する。
特に特徴的なのはギアを噛み合わせる際のフィーリングだ。特殊なカム形状を持つ回転ドラムとプリロード(予荷重)された機構が連動し、最初に適度な抵抗を生み出したあと、一気に解放する。その瞬間に生じる「カチッ」というクリック感が、シフトノブを通じてダイレクトに手へ伝わる仕組みとなっている。
狙いは、実際にはDCTが変速しているにもかかわらず、本物の機械式マニュアルトランスミッションを操作しているような感覚を忠実に再現することだ。さらに、オープンゲート式シフト特有の金属音まで細部にわたって再現されているという。
往年のフェラーリを思わせるシフトフィール
クラッチペダルにも特別な工夫が施されている。こちらもワイヤー制御(By-Wire)となっているが、プリロードスプリング、カム、ローラーで構成されるパッシブメカニズムによって、クラッチ特有の踏力変化や抵抗感を再現している。
フェラーリは、この12Cilindri Manualeのシフトフィールについて、「本物のマニュアルトランスミッション」を搭載していた往年のフェラーリを思わせる操作感を実現したと説明している。

Photo:Ferrari
かつてのフェラーリでは、発進時にエンストを避けるため繊細なクラッチワークが求められることもあった。12Cilindri Manualeでは、そうした操作も再現可能だ。さらに、スポーティな走りを楽しみたいドライバーのために、ブレーキングと同時に回転数を合わせながらシフトダウンする「ヒール&トゥ」も行うことができる。
もちろん、変速をフェラーリに任せたい場合は、ボタンひとつでオートマチックモードへ切り替えられる。その際はDCTがすべての変速を自動で行う。
2012年以来となるマラネロ製マニュアルモデル
フェラーリが提示した新しいマニュアルトランスミッションの解釈には、早くも賛否両論が巻き起こっている。
一部の純粋主義者は、「Manual By-Wire」は本物のマニュアルトランスミッションではないと考えている。一方で、フェラーリが久しぶりに「本物のシフトレバー」を備えたモデルを投入したことを歓迎する声も少なくない。
フェラーリのラインアップからマニュアルトランスミッションが姿を消したのは、2012年に生産終了となったカリフォルニア以来となる。
12Cilindri Manualeに魅力を感じたなら、決断は早いほうがよさそうだ。生産台数は1,499台限定となる。この数字は、1947年に登場したフェラーリ初のV12エンジンを搭載した「125 S」の排気量1,499ccに由来しており、ブランドの歴史へ敬意を表したものだ。
価格は59万ユーロ(約1億1,210万円)から。これは8速デュアルクラッチトランスミッションを搭載する標準の12Cilindriと比べて20万8,000ユーロ(約3,950万円)も高額となる。
Text: Maurus Elias Moritz
Photo: Ferrari
編集部コメント
マニュアルトランスミッション復活と聞けば、多くのエンスージアストは機械的にギアを操作する従来型MTを想像するだろう。しかし12Cilindri Manualeが目指したのは「構造」ではなく「体験」の再現だった。ドライバーが感じる抵抗感やクリック感、金属音まで電子制御で忠実に再現しながら、変速そのものは最新のDCTが担当する。この「アナログな感覚をデジタルで再現する」という発想は、マラネロらしい大胆なアプローチと言える。果たしてフェラーリファンは、この新しい「マニュアル」を受け入れるだろうか。(Auto Bild Japan)

