初テスト 正式発表されたVW ID.3 (EV版ゴルフ)に早速試乗
2021年3月19日
新型VW ID.3: ベースモデルは150馬力で351kmの航続距離を備える その他のモデルは?
VWのEVであるID.3は、完全にデジタル化されたインテリアと最大549キロの航続距離を持っている。最大のバッテリーを搭載したこのモデルは、5人乗りも用意されている。全ての情報をレポートする。
➤ 価格
➤ サイズとデザイン
➤ インテリア
➤ テスト
➤ バッテリー、航続距離とモーター
➤ 装備(アップデート!)
価格: ID.3 プロは34,995ユーロ(約455万円)から
「VW ID.3」のエントリーレベルは、31,495ユーロ(約410万円)から利用可能で、150馬力(110kW)と45kWhのバッテリーは、351kmという航続距離を備えている。しかし、このエントリーレベルのモデルの装備は非常に簡素なもので、唯一50kWの電力でしか充電はできない。次に大きいバッテリーは、「ID.3プロ」の装備で利用可能となる。34,995ユーロ(約455万円)からという価格で、59kWのバッテリーで航続距離426キロまでの電気を蓄えることができるようになっている。さらに追加料金を支払えば、弱い145馬力(107kW)の電動モーターを204馬力(150kW)のパフォーマンスバージョンに交換することができるようにもなっている。「ID.3プロS」の最もパワフルなバージョンには、より強力な204馬力の電動モーターが搭載されており、77kWhの大容量バッテリーが最大航続距離549km走行可能な電力を供給する。
価格は41,995ユーロ(約545万円)からとなっていて、その金額には、標準装備として、マトリックスLEDヘッドライトと19インチホイールを始めとする、多くのものが含まれている。「VW ID.3」のすべてのバージョンには当然環境ボーナスが適用され、リスト価格からその分が控除されるがそれでも高価なことに変わりない。
サイズとデザイン
「ID.3」は、VWの「MEB」電動プラットフォームを採用した最初のモデルだ。ゴルフのEVバージョンと言ってもいい「ID.3」は、基本的には「ゴルフ」のシルエットを踏襲し、じゃっかん変更され、空力的に最適化されている。例えば、ラジエーターグリルはフロントからなくなっている。その代わりに、装備が充実したモデルでは、ヘッドライトから始まる2本のLEDストリップが、左右のVWロゴを縁取っている。ヘッドライト自体はマトリックスLEDで構成されている。サイドビューでは、Cピラーの菱形の模様が目立つ。充電ポートは、従来のVWモデルの燃料キャップの位置に備わっている。リアでは、ダークコントラストのガラス製テールゲートが特に目を惹く。テールゲートは三方を空力要素で囲み、下部の照明デザインはフロントと似たようなものになっている。こちらも、ライトからロゴに向かって2本のライトストリップが出ているが、フロントよりは短い。
ゴルフを彷彿とさせるサイズ:
● 全長: 4260mm
● 全幅: 1810mm
● 全高: 1550mm
● ホイールベース: 2770mm
● トランク容量: 385リットル
内部では、ID.3はほとんどボタンなしで管理する
「ID.3」のインテリアは、ほとんどボタンなしで管理される。パワーウィンドウとハザード警告灯のコントロールを除いて、VWは従来のコントロールユニットをすべてタッチサーフェイスに置き換えた。ステアリングホイールの後ろの景色は、「BMW i3」を彷彿とさせる。ダッシュボード上にデジタルスピードメーター付きスクリーンを配置し、ギアセレクターをディスプレー側面に集約した。運転席に面した10インチのセンターディスプレーもダッシュボードに搭載されていて、タッチや、多くのコントロールを音声コマンドでも操作できるようになっている。
そして、ダッシュボードにある、いわゆる「ID.Light」と呼ばれる光の帯は、現在車が運転者に反応しているのか、助手席に反応しているのかを示している。ライトの点灯やフロントガラスの暖房の切り替えは、ダッシュボード内のステアリングホイールの左側に別の小さなタッチコントロールユニットを介しておこなわれる。オプションで、車内用に拡張現実感のあるヘッドアップディスプレーを用意することができ、例えば、車の前方3~10メートルの道路上にナビゲーションコマンドを視覚的に「敷設」することができるようになっている。「ID.3」では、通常センタートンネルのスペースを、ストレージ、カップホルダー、オプションのスマートフォン用誘導充電ステーションのために活用している。
ID.3、長距離走行テストで納得
我々の「ID.3」の最初のテストの結果は良い点と悪い点のミックスだった。長距離走行では、優れたシャシーとステアリングの貢献もあって、とても説得力のある良好なドライビングインプレッションを得た。このことは、最初の総合テストでも確認されている。「ID.3」は路面でしっかりとしたグリップ力を持ち、良い感じの手応えを得、後輪駆動と効果的な重量配分のおかげで、コンパクトな電気自動車は急カーブでも目立たずスムーズに駆け抜けていく。インテリアでは、硬いプラスチックの表面が多く、シートバックの無愛想に縫い付けられた布張りや、フレームの中で数ミリずれているフロントガラスが目立った。ゴルフとの比較では、「ID.3」は(まだ)VWのベストセラーを王座から引き下ろすことはできなかった。コネクティビティチェックの結果も良悪混在したものだった。最新のタッチコントロールは過不足なく実用的だったものの、誤作動認識の多い音声コントロールは気に入らなかった。
ID.3のバッテリー容量は最大77kWh
「ID.3」は、リアアクスル上の恒久的に励起されたシンクロナス(同期)モーターによって駆動される。3つのバージョンは、107kW(145馬力)と275Nm、110kW(150馬力)と310Nm、または150kW(204馬力)と310Nmをそれぞれ出力する。インプット(入力)ギアボックスが後輪を介してパワーを道路に伝達する。VWは、電気自動車用に、航続距離の異なる3種類のバッテリーパッケージを提供していて、航続距離352kmまでの45kWhバッテリーがエントリーレベルで、58kWh の中型バージョンは426kmの航続距離が可能とされている。最大のバッテリーは77kWhのバッテリーを搭載し、最大549kmの航続距離を実現する。また多くのEVがそうであるように、最高速度は制限されており、「ID.3」も160km/hとなっている。急速充電技術(100 キロワットの充電電力)のおかげで、290km分の電力を30分で充電することができるようになっている。VWは、「ID.3」のバッテリーで、駆動8年、または160,000kmの保証を提供している。
装備: 5シーターに大容量バッテリー
5シーターに最大のバッテリーというモデルは今までは存在しなかったが今回追加された。それを可能にする新しい装備オプションが「ID.3」のコンフィギュレーターに登場した。それは「ツアー5(Tour 5)」と呼ばれ、リアベンチにもう1つシートを提供し、77kWhの大型バッテリーと204馬力の最も強力なエンジンを備えた「プロS」構成となっている。YouTuberの「Battery Life」によれば、最大のバッテリーを搭載した「ID.3」がこれまで4人乗りしかなかったのは、その重さが原因だという。現時点では、VWはが追加の座席をインストールするために何をどう変更したのかは不明だ。考えられるのは、変更されたバッテリーセルまたは他の場所での軽量化であろう。第5席は、航続距離に大きな影響を与えることはないとされている。それは544kmというもので、4人乗りよりもわずか5km少ないだけだ。しかし、重たいパノラマガラスルーフは、77kWhのバッテリーと組み合わせて注文することはまだできない。
VW ID.3には、自律走行に備えた多くのアシストシステムが用意されている。これらには、緊急ブレーキ機能とマルチコリジョンブレーキ機能を備えたフロントアシスト、レーンキーピングアシストとレーンチェンジアシスト、バックカメラ付きパーキングアシスト、操縦ブレーキ機能を備えたパーキングアシストなどがある。オプションのリストには、より重い自転車や電動アシスト自転車の運搬を可能にする75kgの荷重能力を備えた専用ヒッチも含まれている。また、VWは独自のウォールボックス「ID.Charger」を、充電容量の異なる2つのバージョンで提供している。オプションで、ウォールボックスをインターネットに接続して遠隔操作したり、電力メーターを装備したりすることもできるようにもなっている。
といったように詳細を報告したところで総評だが、ゴルフのEVとしてはやはり高い価格と、価格よりも安く感じられてしまう内装はこの車のウイークポイントであろうと思う。装備も走行性能もかなり改善されたとはいえ、まだまだEVは過渡期の商品であることを忘れることはできない。そしてID.3の半分の金額で、十分魅力的な普通の内燃機関のフォルクスワーゲンゴルフが買えるということも、なかなか難しい問題である。まだしばらくはどのメーカーも同じように、混沌とした状況が続くだろうが、いつの日かやってくる完全EVの時代までには乗り越えなくてはいけない課題が数々あり、それをひとつひとつクリアすることが必須となろう。ID.3もそんな狭間に生まれたモデルであり、日々進化している過程の商品であるということを理解しなくてはいけないだろう。
Text: Katharina Berndt, Andreas Huber and Tom Drechsler
加筆: 大林晃平
Photo: Volkswagen AG