メルセデス・ベンツ Cクラス W201(190)からW205まで  5世代約30年を振り返る

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メルセデスモデルヒストリー: W206発表を機に振り返る 一目でわかるCクラスの各世代とその歴史

190(W201)から最新世代W206へ: メルセデスCクラスの進化物語。商業的に大成功をおさめたメルセデスのCクラス。190から、ベンツのセダンは超近代的なテクノロジーの担い手へと進化した。初代からW205まで、世代別概要をレポートし、その歴史を振り返る。

堅牢性、信頼性、そして高い安全性がメルセデスCクラスの特徴だ。
錆びやすいモデルもあるなど、常に問題がないわけではないものの、Cクラスはその長い歴史を誇る。
事実、1982年登場の、「W201」以来、1,050万台以上が製造されている。
そして今回の新しいモデル(W206)は早や第6世代目となる。
Cクラスは、スリーポインテッドスターの付いたモデルの中でも、最も多く生産されているモデルのひとつだ。
生産はドイツのブレーメン、南アフリカ、中国で、世界中の顧客のために行われている。
メルセデスCクラスに欠かせない、3つのポイントは。
1: 凝縮されみっちり詰まったメルセデスベンツらしさを濃厚に感じさせる車であること
2: FRでステアリングが切れ、だれが乗っても使いやすいこと
3: やっぱりメルセデスベンツらしいクルマは、Cクラスからだね、と言われるような、安心して買える定番商品であること
以上の3点である。さてそんなことを踏まえながらCクラスの進化の歴史を振り返ってみよう。

メルセデス190(W201): Cクラスの物語はベビーベンツから始まる

シュトゥットガルトに本拠を置くメーカー、メルセデスベンツは、小型車の始まりをブランドの創業期にまでさかのぼる。
そのために、最初の小型ダイムラーは、「ポントン ベンツ」からと定義されている。
したがって、Cクラスの歴史は、本当に190(W 201)から始まった。
米国の潜在的な顧客から「ベビーベンツ」と呼ばれ、社内ではコンパクトと呼ばれていたメルセデスが1982年に発売されたとき、それはシュトゥットガルト‐ウンターテュルクハイム(ダイムラーAGの本社と工場所在地)に新しい時代の到来を告げることになった。
それまでの同ブランドの兄弟車に比べて、バロック調ではなく、スペースステアリングリアアクスルを備えたシャシーを備えた、より軽量で、より燃料効率が高く、メディア向けの初めての試乗会テストでは、多くのテスターたちに強く印象を与えた。

メルセデスにとってCクラスの歴史は、ベビーベンツ「190(W201)」から始まった。文字通りレジェンドだ。

不滅的な評判を持つ「190E 2.3-16」のようなホットなスポーツカー、DTMでの成功が、190に伝説の地位を与えた。
しかし、光があるところには影もある。
小さなメルセデスのスペースは、背の高い人のためのものでも、ビッグサイズの人のためのものでもなかったからだ。
また直進安定性なども最後まで課題として残った一台である。

※私の周りにはかつて「W201」を所有していたことのある人が、10名以上いる。彼らの多くは自動車のことに熟知した人たちで、とにかくプロの人やマニアの、自動車を良く知った人が選ぶ車、それがこの「W201」だった。当時の「Eクラス(W124)」は今でも名車と言われているが、実は本当に名車だったのは「W201」だったのではないか、という意見も多いし、このクルマがあったからこそ「W124」も誕生できたのではないかとも考えられる。
今見ると本当にコンパクトで使いやすいサイズと、最善か無か、で設計された、まごうかたなきメルセデスベンツのエッセンスがぎゅーッと詰まった一台、それがこの「W201」である。実際に40年近く(そんなに経つのである)経過した現在に乗っても、感心する部分は多々あるものの、落胆したり、時代遅れに感じたりする部分など皆無であり、逆にこのころの厚みやイイモノ感満載なのは、あきらかにこのころのクルマである。そして今のメルセデスベンツにはあまり感じられない、実直さと実用本位の雰囲気を濃く持っているのがこの時代のメルセデスベンツなのである。(大林晃平)

メルセデスCクラス(W202): Cクラスと呼ばれた最初のシリーズ

1993年に「W202」シリーズが登場し、正式名称はメルセデスCクラスとなった。
新しい命名法は、1972年以来、そう呼ばれている「Sクラス」に由来したものだ。
「W202」は、より多くのスペースを提供し、また、その先代モデルである「190(W201)」よりも快適だった。
Cの後ろの3桁の数字は、それぞれのモデルの排気量を示していた。
装備には、クラシック、エスプリ、エレガンス、スポーツがランナップされていた。
さらに、これにAMGのスタイリングパッケージが加わった。
1995年には、メルセデスが50年ぶりに市販乗用車にルーツブロワーを搭載した193馬力の「C230コンプレッサー」がセンセーションを巻き起こした。
また、1996年には、ステーションワゴンのエステートモデルが投入された。
さらに、1997年には、メルセデス初のコモンレール直噴を搭載した乗用車「C220 CDI」が発売された。
シリーズのトップモデルは、「C36 AMG(280馬力)」、「C43 AMG(306馬力)」、「C55 AMG(367馬力)」だった。
デビューしてしばらくして、サビ(錆)が「W202」の大敵であることが判明した。

Photo: Mercedes-Benz AG

※「W202」の特徴、それはなんといっても大幅にコストダウンされたことが、ものすごく明確に感じられるクルマだったということではないだろうか。「Eクラス」が「W124」から「W210」になった時に、これはメルセデスベンツじゃない!!、いったいどうした?!とユーザーとジャーナリストを憤慨させ落胆させたような事態がCクラスにも発生し、特に「W201」の魅力に憑りつかれたオーナーにとっては、「W202」は「お洒落になったり静かにはなったりはしたけれども、我々の好きなメルセデスベンツというのはこういうものではありません」と総スカンを食らった。
残念ながら大きくコンセプトを変えたことがあだとなり、「最善か無か」を失ったメルセデスベンツとして歴史と記憶に残ってしまうのが、「W210」であり、「W202」なのである。
もちろんそれでも他のライバル車よりも圧倒的に劣った部分はなかったが、圧倒的に勝った部分とメルセデスベンツらしさが薄味の普通のクルマ、それがこのころのメルセデスベンツだった。(大林晃平)

W202シリーズでCクラスという名前になった。AMGモデルとして、Cクラスはボンネットの下に最大367馬力を備え持っていた。

メルセデスCクラス(W203): 四つ目のCクラス

Cクラスシリーズの第3世代「W203」は2000年に発売された。
この世代で最も印象的なビジュアル的特徴は、4つのヘッドライトアイを備えた顔立ちだった。
新型Cクラスには、初めて3つのボディバージョンが用意された。
サルーン、エステート、クーペの3種類だ。
メルセデスのコンパクトクーペは、2007年に「Cクラス(W204)」へ世代交代が行われたものの、全面的なデザイン変更を経て、2010年までCLCクラスとして生産されたほどの人気を誇っていた。
「Cクラス(W203)」は、それ自体が典型的なメルセデスであることを証明し、モデルライフの最後まで、このクラスのテクノロジーの担い手としての役割を果たした。
とりわけ、ウィンドウバッグ、多機能ステアリングホイール、中央ディスプレーを市場セグメントに導入した。
また、3リンクフロントアクスルと高強度スチール製のクラッシュボックスを備えた簡単に交換可能なフロントモジュールも新たに導入された。

W203世代のCクラススポーツクーペは、2010年までCLCクラス(写真)として走っていたほど人気があった。

もちろん、メルセデスはこの世代のCクラスをAMGバージョンでもトップにした。
最もパワフルな「C55 AMG」は367馬力を発生させた。
しかし、このCクラスもまた、特にモデルアップデート前に生産された初期のモデルでは、錆びやすい傾向があった。
また、それらのいくつかは、電子的な問題も抱えていた。

※品質的に「W203」はあまり良いという話題を聞かないし、それは事実なのだろう、と思う。
特に初期の「W203」は正直に言って、「W202」の低コスト路線をさらに推し進めたようなモデルで、ヒョウタンのような形状のライトも、メルセデスベンツ史上最低といっていいようなメーターパネルのデザインや、なんだか妙に身体に合わないシートポジションなどなど、ちょっと落胆する部分が多かった。そして派生車種として、なんとも形容しがたい(失礼)クーペ風2ボックスモデルも登場するなど、ラインナップ自体もやや混迷していたといえる(その証拠に、Cクラススポーツクーペは、このモデル限りで消失してしまう)。
だが、実に驚くべきことに「W203」の後半に行われたマイナーチェンジで、いきなりメルセデスベンツは本気を出したのか、品質も走行性能も急上昇し、これなら!と今後の展開に期待を抱かせるような進化を遂げたのであった。そして実際に次モデルである「W204」はかなりメルセデスベンツらしさが、盛り返したCクラスとなるのであった。(大林晃平)

メルセデスCクラス(W204): 印象的なルックスに戻る

2007年型Cクラス(W204)のデビューにより、メルセデスは再び張りのあるラインと角度とエッジを取り戻した。
そして、初めて、顧客は2つの顔から選択することができた。
アバンギャルドとして、Cクラスはラジエーターグリルの中央にスターを配し、スポーティな印象を与えることを意図していた。
一方で、エレガントでクラシックなバージョンは、ボンネットに伝統的なスターが付いており、メーカーによると、快適性とエレガンスを意味するという。
2008年には、世界初のスプレーガイド式直噴ガソリンエンジンを搭載した「C350 CGIブルーエフィシャンシー」が登場した。
そして2011年には、おそらく史上最もイパフォーマンスなモデルが登場した。
それは、サーキット走行用に特別に設計された517馬力の「C63 AMGブラックシリーズクーペ」だ。

ちなみに、会計士用(ドイツではジョークのようにこう呼ばれる)の白い「C180コンプレッサー(W204)」は、50万キロ以上(!)の耐久テストカーとして、AUTO BILD編集部に今も存在し、今のところ深刻な弱点は見せていない。
文句のつけようのない信頼性に加えて、この車は、目的地にリラックスして到着するために必要な技術や装備がいかに少なくて済むかを思い出させてくれる。

AUTO BILD編集部に所属するW204シリーズのこのホワイトのC180コンプレッサーは編集記者たちのお気に入りで、50万kmという耐久テストに挑戦している。

※「W203」の大反省マイナーチェンジをひきつぐ格好で登場した「W204」は、大幅にその品質も向上し、特に最後期型は「まごうかたなきメルセデス」という、一度は耳にしたことのある有名なフレーズを「これなら、まあ使ってもいいかな」というレベルにまで復旧させた。大きさもかつてのEクラス並みではあったが、その性能も快適さも「Eクラス(W212)」に遜色ないほどで、Cクラス故に感じられるみっちり詰まった質感は相当なレベルにまで回復したといえよう。
さらにマイナーチェンジにも力が注がれ、後期モデルはさらにメルセデスベンツらしさが復活、安全や様々なエレクトロニクスデバイスも充実しはじめ、2014年に「W205」にバトンタッチすることになる。(大林晃平)

メルセデスCクラス(W205): バリエーションの膨大な選択肢

Cクラスの幅広いバリエーションは、ついに「W205シリーズ(2014年~)」で始まった。
レギュラーサイズのセダンに続いて、ロングホイールベースのセダン、エステート、そして最後にコンバーチブルとクーペが加わった。
116馬力から510馬力までの出力を持つエンジンのレンジには、いくつかのハイブリッドとプラグインハイブリッドバージョンも含まれていた。
高強度鋼とアルミニウムプロファイルを使用することで、ダイムラーは純鋼板構造と比較して50kgの軽量化を実現し、その結果、ボディ剛性が大幅に向上した。
さらに、エアマチックエアサスペンションシステムは、このクラスの車両で初めて採用された。
2018年のモデルアップデートでは、ウルトラレンジハイビームのマルチビームLEDライトやインテリジェントライトシステムなどが導入された。
AUTO BILDで行われた耐久テストでは、「W205シリーズ」のCクラスがその実力を発揮し、非常に良い評価を得た。
一方で、オーナーからの批判は細部に向けられていた。
例えば、高速道路では明らかに聞こえる風切り音にイライラするオーナーもいたし、リアシートは狭かった。
またデジタルインフォメーションディスプレーの使いにくさは評判が芳しくなかった。

※そんな「W205」も2021年に最新世代のCクラス(W206)にフルモデルチェンジした。
「W205」の特徴を一言で述べるなら、エレクトロニクスデバイス(アダプティブクルーズコントロールをはじめとする装備)満載ということと、Eクラス(W213)と見分けが本当につきにくい、ということではないだろうか。街で見かけてもトランクリッドのバッチを見なければ、それがEなのかCなのか判別できないほどそっくりだし、セダンもワゴンもCとEはほとんど同じ形で、大きさだけが違う、そんな2台となった。
もちろん乗ってみれば明らかにCとEとでは違うのだが、ルックス的には本当にCとEは瓜二つとなった。その反面?デザイン優先の部分も多く、狭いリアシートや明らかに見栄え優先のセンターコンソールデザイン、アンビエントライトに代表される過剰なまでの演出といった新世代のメルセデスベンツの流れに沿った車であり、実用本位のクルマというよりは、プレミアムコンパクト(というのにはいささか大きいが)メルセデスベンツセダンという位置づけのクルマである。
「W205」も途中で行われたマイナーチェンジにはかなりの力が注がれ、マイルドハイブリッドモデルも含め、かなりの完成度を図った。だが残念ながらフードマスコットのモデルは、(日本には)限定で導入されただけに終わり、本国でも少数派だったという。またエンジンの種類なども複雑なラインナップとなり、トランクリッドの数字を見て排気量を察する行為は、遠い昔のこととなってしまった。(大林晃平)

※最後に(蛇足ながら)先日発表された新型Cクラス(W206)の大きな特色を3つ挙げるならば…。
1: エクステリアデザインもインテリアデザインも新型「Sクラス」そっくり
2: さらに進化し充実した快適エレクトロニクスデバイスと安全装備の数々
3: 「W205」まで設定されていた、メルセデスベンツ フードスターマスコット(ボンネット上のマスコット)が廃止され、全部大きなグリルスターのデザインとなった
(個人的には3の、マスコットの廃止がなんとも残念で寂しい)
ハイブリッドシステムやリア操舵システムなど、自動車本来のハードウェアの完成度も気になるが、どれだけまごうかたなきメルセデス度があるのか、それがなによりも気になるのである。(大林晃平)

新型メルセデスCクラス公式発表の記事はこちらをどうぞ。

Text: Lars Hänsch-Petersen
加筆: 大林晃平
Photo: Olaf Itrich / AUTO BILD