希少中の希少チューニングモデル ブラバスのチューンナップしたメルセデスベンツT1物語
2021年3月8日
メルセデスベンツT1(1977年~1995年)をブラバスがチューニングしたトランスポーター、メルセデスベンツT1ブラバスの物語。ルーフなどと並んで、世界的に有名なチューナー、ブラバスがメルセデスT1(207D)をベースに40年以上前にチューンナップトランスポーターを作っていた。それは極々少数の希少なチューンナップT1だった。
このトランスポーターはブラバスの中でも希少なモデルだ。
80年代にブラバスのパーツが装着された伝説の「メルセデスベンツT1」はほんの一握りしか作られなかったからだ。
だからマーケットで目にすることはほとんどと言っていいほどない。
それは、独エッセン州の北の小都市、ボットロプ出身のチューナーである「ブラバス」が、のちにメルセデスベンツの有名な「スプリンター」や「ヴィアーノ」のコンバージョンを手掛けるよりもずっと以前の話だ。
歴史を辿ろう。
「メルセデスベンツT1」は1977年に発売され、1995年まで様々なバージョンで製造されたトランスポーター(バン)だ。
デザイナーのステファン ハイリガー(Stefan Heiliger)が描いたこのバンは、当初は単にTN(Transporter Neu)と呼ばれ、1984年までブレーメンの工場で製造されたあと、生産はデュッセルドルフに移された。
「メルセデスベンツT1」は、その18年間の生産期間に、ステーションワゴン、ミニバス、フラットベッド、パネルバン、ティッパー、またはベアシャーシとして、合計100万台近くが生産された人気モデルだった。
また、3.05メートルから3.70メートルまでの3種類のホイールベースで、多数のエンジンを搭載していた。
モデル名を表す数字は車両総重量と馬力に基づいていた。
「207D」~「407D」はすべて65馬力~72馬力の4気筒エンジン(OM 616)を搭載していたが、「209D」~「409D」と「210D」~「410D」は88馬力~98馬力の直列5 気筒エンジン(OM 602)を搭載していた。
ちなみに、「4シリーズ」は常にリアアクスルにデュアルタイヤが付いた状態で納品されていた。
フェンダーフレア、ボディカラーのホイールなど
短い歴史のレッスンの後は、「ブラバスT1」のストーリーへと戻ろう。
この小さなバンはあまりにも希少なため、ブラバスはチューニングパーツの価格や台数を聞いても一切情報を教えてくれなかった。
しかし、これは、「T1」用のパーツが別売りで、完全なコンバージョンではなかったことによる。
1988年から提供された、「メルセデスベンツ100D」同様、ブラバスは「T1」用にフォグランプ付きフロントスカートアタッチメントを提供していた。
さらに、当時のオリジナルのチューニングカタログによれば、フェンダーフレアやクロススポークホイールをボディカラーにペイントし、ワイドタイヤと今流行りのタイヤレタリングを装着したものも用意されていた。
他の乗用車とは異なり、ブラバスは「T1」のパワーこそ弱いものの、信頼性の高いエンジンをそのまま活用していた。
冷蔵庫とサウンドシステム付ブラバスT1
一方で、インテリアはリクエストに応じて豪華に装備されていた。
言うならば、「メルセデスベンツT1」は、のちの「メルセデスベンツ スプリンター」や「メルセデスベンツVクラス」をベースにした極めて人気の高い、ビジネス向けコンバージョンの「祖先モデル」と言ってもいいだろう。
1980年代にはホームシアターやiPad、コーヒーメーカーなどは設置されていなかったものの、冷蔵庫やサウンドシステム、アームレストを反対側に配置したアームチェアなどは用意されていて、上品なたたずまいとなっている。
長距離旅行用のモーターホームとしても快適に使えそうだ。
おそらく、このような特別な改造モデルは40年前には、恐ろしく高価だったと思われる。
最終的にブラバスの部品を使用して製作された「メルセデスベンツT1」がほんの一握りしか存在しなかった理由もこれで説明できるだろう。
ブラバス、と聞いて多くの人は「Sクラス」や「SEC」などをベースとしたチューニングカーを連想すると思うが、僕が最初に思い出すのは、「スマート ブラバス」である。ちゃんとメルセデスベンツのディーラーで売られていたあの高性能スマート、正直言うとちょっと欲しかった。
その理由は性能がチューニングによって向上していただけではなく、内装などもグレードアップされ、普通のスマートよりも高級な雰囲気を醸し出していたし、ブラバスというのはそういうチューナーなのだとその時思ったものである。
今回の「メルセデスベンツT1」もそういう路線の一台で、そもそもはちょっとした洒落を持った、大人の遊び心を持ったクルマなのである。価格はもちろん高いが、だからこそ存在意義があるともいえるし、他にもスポーツカーやしぶい実用車などいくつかの自動車所有する生活に余裕のある人が、一台ガレージに追加するそんなクルマなのだろう。シンプルながら快適そうなリアシートに座れた人が正直羨ましい。
Text: Jan Götze
加筆: 大林晃平
Photo: BRABUS GmbH