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メルセデス・ベンツの社名の秘密 「メルセデス」はひとりのセールスマンから生まれた

2026年5月12日

メルセデス・ベンツと聞けば、「世界最古の自動車メーカー」「安全・高品質・技術の結晶」といった重厚なイメージがまず浮かぶ。ドイツ的な合理性と定義に裏打ちされた工業製品の代表格、そんな印象がある。

メルセデス・ベンツの社名のルーツは、意外にも社交界とひとりのセールスマンの活動にある。その人物こそ、オーストリア・ハンガリー帝国の領事にして実業家のエミール・イェリネック(Emil Jellinek)だ。

舞台はフランス・ニース。彼は社交界に出入りする名士たちと親交を持ち、富裕層の顧客層を熟知していた人物だった。ある日、彼はドイツの「ダイムラー」に出会う。まだ黎明期の自動車に魅せられた彼は、その将来性を見込み、自動車販売ビジネスに乗り出した。

しかし問題があった。「ダイムラー」という名前が、フランスの上流階級にはどうにも堅すぎる。

そこで彼は、自らの愛娘の名前「メルセデス」をクルマに与えることを考える。響きは柔らかく、エレガントな印象を持つ。さらに彼にとっては愛娘が幸運の象徴でもあった(各地で愛娘を伴い、ビジネスも順調に進んだ)。そして彼は、ダイムラー社にこう提案する。「36台まとめて買う。ただし名前はメルセデスにしてほしい」。いわばブランド戦略を伴う大量発注である。

メルセデス・イェリネック(Mercedes Jellinek)。

この提案は成功する

メルセデスの名を冠した車は、フランスのみならずヨーロッパ各地、さらにはアメリカでも人気を博し、やがて1902年、ダイムラー車の正式な商標として登録されるに至った。

エミール・イェリネックとメルセデス・イェリネック。どこへ行くにも自慢の愛娘を連れて行きビジネスもうまくいった。

つまり、今日の「メルセデス・ベンツ」というブランド名は、技術者ではなく、ひとりのセールスマンの発想から生まれたものなのだ。

なお1926年、ダイムラー社とベンツ社が合併し、「ダイムラー・ベンツ社」が誕生。車名には「メルセデス・ベンツ」が使われることとなった。重厚なブランドの背景には、このような人間味あるエピソードが存在する。

ダイムラー社とベンツ社が合併して「メルセデス・ベンツ」が誕生したことを示すポスター。

「まず自分を売り込め」というセールスの基本は、100年以上前から変わっていないのかもしれない。

Text:妻谷裕二
Photo:Mercedes-Benz Media

【筆者の紹介】
妻谷裕二(Hiroji Tsumatani)
1949年生まれ。幼少の頃から車に興味を持ち、1972年ヤナセに入社以来、40年間に亘り販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特に輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版カタログや販売教育資料等を制作。また、メルセデス・ベンツよもやま話全88話の執筆と安全性の独自講演会も実施。趣味はクラシックカーとプラモデル。現在は大阪日独協会会員。