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【JAIA試乗会】レンジローバー・スポーツSV 夢はB級道路をかけ廻る

2026年2月25日

重厚な車体、荘厳なエンジン、繊細なステアリング。これが高級英国車の世界。

神奈川県大磯市でレンジローバー・スポーツSVを試乗していたら、少し長めの赤信号に捕まってしまった。上等なレザーが醸し出す何とも言えない高級な香りに包まれつつ、手持ち無沙汰の時間を過ごすうちに、イギリスの田舎を駆け巡った2年前の旅行のことを思い出し始めた。

早朝のヒースロー空港に降り立ち、レンタカーを借り、コベントリーに向けてモーターウェイを走り始めたのは2024年の秋のことだった。イギリス中部の都市コベントリーは、かつて「イギリスのデトロイト」と称された自動車産業の中心地であり、ロータスなどレーシングカーのエンジンで成功を収めたコベントリー・クライマックスの名でも有名な街である。

そして御存知の通り、ジャガー・ランドローバーが本社を構える街でもある。

しばらく走ってモーターウェイを下り、F1のレッドブル・レーシングが拠点を置くミルトンキーンズやシルバーストーンに立ち寄りつつ、今度は下道のA級道路を北に向かう。一部地方を除いてイギリスに高い山はなく、広い空のもと、ゆるやかな丘と木立が延々と続く夢のような景色である。こんな環境で見るイギリス車のなんと力強く精悍なことだろう。例えば、東京都心で見るレンジローバーは富裕層のアクセサリーという印象だが、本場で見るともっと生活に根ざした使われ方をしているように映る。佇まいが実直なのである。これがレンジローバーの本当の姿なんだ、そんなことを思いながら、コベントリーの前にゲイドンという街に寄り道した。

ゲイドンにあるBritish Motor Museumには旧ブリティッシュ・レイランドの名車が所蔵されており、ランドローバーの量産試作の第1号車や、初代レンジローバーの生産第1号車、チャールズ国王が愛車にしていた初代レンジローバーなどが展示されているのだ。

ランドローバー レンジローバー・スポーツSV EDITION TWO P635(税込2474万円)今回の試乗車は、EDITION TWOと呼ばれる限定導入の特別仕様車。2026年モデルから通常販売されるグレードは「SV」「SV BLACK」「SV CARBON」の3種類となる。

環境活動家もひれ伏すV8

信号が青に変わり、現実に引き戻された。

レンジローバー・スポーツは、その名の通り、基準車のレンジローバーよりもスポーツ性を強調したモデルである。3代目となる現行型のプラットフォームは基準車と共通だが、僅かに小さく、僅かに軽いのが特徴だ。今回試乗したSVは最上級に位置づけられる高性能グレードであり、4.4リッターV8ツインターボのマイルドハイブリッドのパワートレーンが与えられている。最高出力は635PS、最大トルクは750Nm。2560kgの巨体にも関わらず、0-100km/hの加速タイムは3.9秒と規格外の俊足を誇る。2025年モデルまでは、日本ではSVは特別仕様車としての限定導入だったが、2026年モデルから通常の販売ラインナップに加えられた。

つまり、限定では対応できないくらいの人気があったのだろう。乗るとそれも納得である。

たとえ筋金入りの環境活動家であったとしても、一度でもレンジローバー・スポーツSVでV8サウンドを響かせてしまったら、きっとこのクルマの前に跪いてV8を称えるだろう。このV8は21世紀の洗練と、20世紀のアナログ感を同居させているだけでなく、どこか大英帝国らしい荘厳な雰囲気すら漂わせている。エンジンそのものが発する音が他の(90度クランクの)V8と大きく変わるとは思わないが、室内に届くサウンドには特別な上質感が備わっている。これは遮音の工夫や、気持ちのよい音域のみを室内に届ける作り込みがなされているためだと思う。エンジン単体でなく、車体側でのチューニングを組みわせることで、レンジローバーらしい世界観が構築されているのだ。

SUVに高性能エンジンを組み合わせることに批判的な人もいる。2トン超えの重量級の車体に大排気量のエンジンを搭載するよりも、軽い車体に小排気量のエンジンを載せた方が効率が良いという正論である。しかし、このクルマに乗ると、そんな小市民的な良識はどうでもよいと思ってしまう。大きく重い車体が溢れ出すトルクで一気に加速する時のフィーリングは、例えて言うなら高級レストランで美食と美酒に耽溺するのと同種の快楽があり、つまるところ背徳の味に溢れている。清く正しく生きられないところにも人間の本質はあり、レンジローバー・スポーツSVは、そんな人間性のどうしようもない弱さに甘い誘惑をささやくクルマなのである。

酸いも甘いも噛み分ける英国紳士が作った、実に官能的なクルマだと思った。

British Motor Museumの一角。向かって右がランドローバーの量産試作の第1号車、中央が(オースティンでなく)モーリスのバッジが付けられたミニの量産1号車、左はRRシルバー・シャドウ。数百台の所蔵車があり、2021年に閉鎖されたホンダのスウィンドン工場で生産されたシビック・タイプR(FK8)もあった。工場で働いていた数百人のサイン入り。
SVはSpecial Vehicleの略。グレード名のP635は635PSを表す。V8は欲しいが、それほどパワーは要らない方にはP530という530PSの控えめなグレードもある。無論、全く控えめな数字ではないが。
端正なデザインのインテリア。3代目レンジローバー(L322)以降、インテリアのデザインはレンジローバーの大きな魅力のひとつ。着座位置が高く、ボンネットの左右の端が見えるため比較的乗りやすい。
コベントリー中心部にある市議会の建造物。1917年に完成。チョコレートのGODIVAのシンボルである馬に乗った女性は、実は11世紀にコベントリーに住んでいた伯爵夫人のレディ・ゴディバの伝説に由来している。市内には馬に乗った夫人の銅像がある。ついゴディバと発音してしまうが、正しくは「ゴダイヴァ」

B級道路を舞う

ゲイドンのBritish Motor Museumを訪問した後、コベントリー中心部にあるCoventry Transport Museumを見学し、その日はコベントリーに投宿した。

翌朝、早起きしてレンタカーに荷物を放り込み、イギリス屈指の風光明媚な丘陵地帯であるコッツウォルズに向かう。特にこれと言って見たいものがあるわけではないが、イギリスの自動車雑誌Evoを創刊したハリー・メトカーフさんが、自身のYouTubeチャンネルでクルマを走らせている試乗ルートは一度自分で走ってみたいと思っていた。コッツウォルズの某所に、ハリーさんがハンドリング評価を行う有名なコーナー、通称「Harry’s Corner」があるのだ。

手入れの行き届いた穀物畑がどこまでも続くコッツウォルズにやって来ると、たくさんのB級道路が丘と丘を結んでいた。イギリスの道路は、日本の高速道路に相当するモーターウェイ、比較的大きな幹線道路のA級道路、そして一般道のB級道路の3種類に区分されているが、走って楽しいのは断然、B級道路である。絵葉書のように美しい丘を越えるアップダウン、木立の中を右に左にゆるやかに曲がるコーナー、イギリスのB級道路ではそんなシーンが果てしなく続く。下道でも制限速度は60マイル(96km/h)。信号もほとんどない。免許の取得以来、これほど運転に夢中になったことはなかった。

レンタカー(ダチア)から見たコッツウォルズの風景。Harry’s Cornerは「B4437」というB級道路にある。今回は旅程の都合で行けなかったが、ジェレミー・クラークソンの農場やアルピーヌF1のファクトリーも近隣にある。

大磯でレンジローバー・スポーツSVに乗りながら夢想していたのは、このクルマでコッツウォルズのB級道路を走る自分の姿である。

車体やエンジンが与える重厚で荘厳な印象とは対照的に、レンジローバー・スポーツSVのステアリングは繊細なタッチを持っている。メルセデスAMGのSUVでは、重めの操舵力と、がっしりした剛性感にドイツ車らしさを感じたものだが、このクルマはやや軽めの操舵力と柔らかいフィールが、同門のジャガーを思い出させた。以前乗ったジャガーXJR(X351型)は、全長5m、幅1.9m、車重2トンという大型車だが、ワインディングでは走り込むほどに車体がカローラやシビックのように小さく感じられ、その軽快かつ正確なハンドリングは901運動の頃の日産車のようだった。今回はワインディングを存分に走り回る機会には恵まれなかったが、いくつかのコーナーを走った感触からすると、ジャガーXJRのようにサイズや重量を忘れさせ、夢中でワインディングを走れるクルマではないかと思った。

考えてみれば、イギリス車はイギリスの道を走って開発されているのだから、B級道路のようなワインディングを得意とするのは当然なのである。小型軽量のライトウェイト・スポーツカーから重量級のSUVまで、イギリスの道がイギリス車の走りの個性を作っているのだ。

途中で道を間違えながら、やっと辿り着いたHarry’s Cornerは、YouTubeで見るよりも遥かにアップダウンがきつかった。下りの右、上りの左とコーナーが連続するが、ふたつ目の左が難しい。前輪荷重が足りず、アンダーステアを出しかけてしまった。次に走る時にはもっと上手くやりたいと思うし、その時のクルマがレンジローバー・スポーツSVだったら最高だ。

B級道路をいつまでも走り続けたくなる官能のSUV、それがレンジローバー・スポーツSVである。

今回の試乗車のEDITION TWOは全長4970mm、全幅2025mm、全高1815mm、車重2570kg。
試乗車にはCFRP製のボンネットが装備されていた。エンジンの写真を撮ろうとボンネットを開けたら、裏側がCFRPで驚き、思わず写真を撮ってしまった。

Text & photo: アウトビルトジャパン(Auto Bild Japan)