“パゴダ”の愛称で知られる「メルセデス・ベンツ SL /W113」は快適で安全性の高いスポーツカー!
2026年2月16日
クラシックカーマーケットで高い人気を誇るのが「メルセデス・ベンツ SL/W113」だ。なぜW113が人気なのか?メルセデスのオープンスポーツカーが誕生した背景から生産終了までW113を紐解いていく。
筆者が現役の頃、メルセデス・ベンツのクラシックカー好きである支店長がよく週末の展示会には、敢えてこの280SL/W113 「パゴダ」を自らショールーム玄関口に並べていたことを思い出す。つまり、このエレガントでモダンなクラシックでもメンテナンス作業をきちんとすれば、事実、このように粋に乗りこなせることをPRするためであった!
メルセデス・ベンツの快適なスポーツカー230SL/W113誕生
メルセデス・ベンツは1963年3月14日から24日まで開催されたジュネーブモーターショーで230 SL/W113を発表した。230 SLは1963年で生産を終えた初代の300 SLロードスター/W198(1957-1963年)と190 SL/W121(1955-1963年)という2つのモデルの役割を1台で兼ね備える第2世代のSLとして観客の期待は大いに高まった。。

Photo:Mercedes-Benz Media
SL/W113はモダン・クラシックの名作(1963-1971年)
今や230 SL、250 SL、そして280 SLは誰もが憧れるメルセデス・ベンツのクラシックカーであり、コレクターズアイテムであるが、これは、W113シリーズの取引価格からも明らかである。Classic Dataによる2022/2023年の相場価格は、最高のコンディション/グレード1の230 SLが128,000ユーロ(約2,300万円)、280 SLが156,000ユーロ(約2,880万円)になっていた。

Photo:妻谷コレクション
ドイツにおけるSL/W113「パゴダ」のオーナーの多くは、メルセデス・ベンツの高品質クラシックカーを支える独自の専門知識を持つフェルバッハのメルセデス・ベンツ・クラシックセンターの顧客である。
スタイルのアイコン「パゴダ」
1963年、230 SLは快適性と高性能を兼ね備えた2シーターツーリングカーとして強い印象を残した。デザインは開発責任者であるフリードリッヒ ガイガー(Friedrich Geiger)の指揮下で手掛けられ、フランス出身のポール ブラック(Paul Bracq)がデザインしたことでも有名だ(1957年に24歳の若さでメルセデス・ベンツ開発部門のチーフデザイナーに迎えられた)。

Photo:妻谷コレクション
ラジエーターグリル中央の大きなスターとSLのクラシックなスタイルとクリーンなラインが見事に融合した傑作である。ハードトップは内側に湾曲したルーフ面がアジアの寺院建築を想起させる特徴的なデザインであることから、「パゴダ」というニックネームで呼ばれた。

Photo:Mercedes-Benz Media
取り外し可能なこのクーペルーフはドイツのゆるぎないテクノロジーにフランスのエスプリをデザインにプラスした。数十年も経過した今でも、ポール ブラックはW113のデザインを「完璧」と評している。メルセデス・ベンツに在籍した1967年までに600/W100や250S~300SEL6.3/W108といった縦目世代の多くの作品を残した。また、彼は自動車以外では地元フランス高速鉄道(TGV)の内外装等を手掛けた。
スポーツカーの先駆的な安全性
W113の安全性は、当時のスポーツカーにとって画期的であった。230 SLのフレームフロアシステムは220SEb/W111「フィンテール」のセダンから流用された。特筆は、230 SLのフレームフロアシステムが220SEb「フィンテール」より短縮され、強化されたことにある。事実、20SEb/W111「フィンテール」はメルセデス・ベンツの安全性のパイオニアであるベラ バレニによって開発された世界初の安全ボディを備えた乗用車であった。つまり、この230SL「パゴダ」は前後のクラッシャブルゾーンを備え、頑丈なパッセンジャーセルの原理を採用した最初のスポーツカーであった。

Photo:Mercedes-Benz Media
これに加えて、220SEb/W111「フィンテール」セダンから採用されたシャシーの高い走行安全性も備えていた。これはロードスターの要求に合わせて調整されたからだ。サスペンションは硬めでありながら、1960年代のスポーツカーとしては異例ともいえるほど快適である。初めて4速オートマチックトランスミッションがオプション設定された。230 SLには、既に前輪にディスクブレーキが装備されていたが、1967年に発表された250 SLから後輪にもディスク ブレーキが装備された。それから1年も経たないうちに280SLは170HPを発揮するさらに強力で安全なモデルとなった。
3種類の異なるエンジンを搭載
メルセデス・ベンツは、8年間の開発期間中、このSLに3種類の異なる2.3L、2.5L、2.8Lエンジンを順次搭載した。これが先代の300 SLや190 SLと差別化を図った要因であった。1954年に発表されたSLの伝統を受け継ぐ2代目である最初の230SL/250SLの量産スポーツカーエンジンは、1963年まで実質的に変更されなかった。

Photo:Mercedes-Benz Media
230 SLのスポーティな6気筒M127エンジンは220 SEのM180エンジンをベースに開発された。230SL用に排気量が2,306ccに拡大されたこのエンジンは150HPを発揮し、最高速度は200km/h、停止状態から100km/hまで11.1秒で加速した。さらに、1967年には250SLが発表され、2.5 Lエンジンを搭載し、150HPと230SLと変わりないが、トルクが向上した。その後1年も経たないうちに280SLが発表され、2.8 Lエンジンを搭載し、170HPを発揮する最強のW113モデルとなった。
「カリフォルニア」バージョンと優れた加速
1966年末、250SLが登場した。直列6気筒M129エンジンの排気量は2,496ccとなった。出力は150HPと最高速度200km/hは230SLと同等であった。しかし、トルクの向上により、0-100km/h加速タイムは1.1秒短縮された。さらに、250SLには前輪、後輪ともにディスクブレーキが装備された。
もう一つの違いは、250 SLにはオプションでクーペルーフとリアベンチシートが備わる「カリフォルニア」バージョンが用意されていた。メルセデス・ベンツはこのリアベンチシート付きバージョンを1967年3月のジュネーブショウで初めて公開した。さらに、この「カリフォルニア」バージョンには後部に大人1名が横向きに着席する3座、前向きにチャイルドシート2座を備えたもの、さらに、ソフトトップの収納部ごと取り去り、代わりに折り畳み式リアシートを装備した2+2のロードスターもあった。

Photo:Mercedes-Benz Media
280SLは2,778cc、直列6気筒M130エンジンを搭載し、1968年に登場した。これはW113シリーズで最も成功したバージョンであった。出力は170HPに向上した。280 SLは0から100 km/hまで9秒で加速。最高速度は200km/hに達した。このように年を追うごとに排気量を拡大していったのは、巡航速度より加速感を重視する北米市場特有の要求に応えるためであったとされている。1971年3月、W113は合計48,912台が製造された後、生産終了となった。その内訳は230 SLが19,831台、250 SLが5,196台、280 SLが23,885台である。
230SL/W113がパーソナルカー的イメージを強くしたのは4速ATとパワーステアリングがオプションで設定され、多くのユーザーが好んで両装備を選択したことが要因である。特に女性ユーザーからの支持を得て順調に販売を伸ばしていった。ちなみに、あのジャニス ジョプリンが歌った「ベンツが欲しい (Mercedes Benz)」の歌詞にある「神様、私にメルセデス・ベンツを買ってください」の車両は正にSL/W113である。

Photo:妻谷コレクション
またパゴダルーフにはスキー用のラックがあり冬にはスキーを楽しめる。手元にある280SLのカタログに目を通すと、表紙は赤をベースに、赤いSLの運転席には女性が着座している、そしてパゴダルーフにスキーラックをつけてスキーを載せた赤いSLの画像がある。しかし、女性とスキーはW113が硬派の300SLの後継車と考えると、驚異的な事である。
モータースポーツで成功

メルセデス・ベンツは230SLでもモータースポーツでの成功を収めた。1963年8月27日から31日にかけて行われた5,500kmという過酷なスパ ソフィア リエージュ マラソンラリーにおいて、オイゲン ベーリンガーとクラウス カイザー組が成し遂げた勝利は、まさに驚異的なものであった。翌年、2人のドライバーは230SLでこの長距離ラリーでも3位を獲得した。オイゲン ベーリンガーはこのスポーツカーを「ダンサー」と呼んだ。つまり、ホイールベースが短いため、セダンよりも操縦性に優れており、コーナーをひらりひらりとハイスピードでクリアしたからだ!
Photo:Mercedes-Benz Media
メルセデス・ベンツミュージアムに展示
この名車230 SL/W113は、「先駆車達(1960-1980年)」でメルセデス・ベンツミュージアムの「Legend Room 5」で展示されたのは周知の通りである。

Photo:Mercedes-Benz Media
スポーティな走り、高い安全性、快適性、そして時代を越えたエレガンスを兼ね備えたこのSL/W113シリーズが、今でもマニアの間で憧憬を集めるモダン・クラシックモデルであることが理解できるであろう!

撮影協力:メルセデス・ベンツ ベテランクラブ オブ ジャパン(MVCJ)
Photo:アウトビルトジャパン
Text:妻谷裕二
【筆者の紹介】
妻谷裕二(Hiroji Tsumatani)
1949年生まれ。幼少の頃から車に興味を持ち、1972年ヤナセに入社以来、40年間に亘り販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特に輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版カタログや販売教育資料等を制作。また、メルセデス・ベンツよもやま話全88話の執筆と安全性の独自講演会も実施。趣味はクラシックカーとプラモデル。現在は大阪日独協会会員。

