VW ティグアン TDI―電動化時代における“完成度の高いディーゼルSUV”の現在地
2025年12月22日
宮崎県日南市。太平洋に沿って伸びる海岸道路は、速度域こそ高くないものの、緩やかなアップダウンと連続するコーナー、そして信号の少ない流れのよさが特徴だ。この道は、絶対的なパワーよりも「どの回転域で、どれだけ自然に力を使えるか」を試す格好の舞台である。そこでハンドルを握ったのが、VW ティグアン TDIだった。
電動化の潮流が加速する一方で、内燃機関、とりわけディーゼルエンジンは着実な進化を続けているのはご存じだろうか。その代表例のひとつが、フォルクスワーゲン ティグアンに搭載されるTDIエンジンだ。単なる燃費性能やトルク特性にとどまらず、排出ガス処理技術、NVH対策、車両全体との統合設計に至るまで、現在考え得るディーゼル技術の到達点が凝縮されている。
2.0 TDIエンジンの技術的骨格
ティグアン TDIに搭載されるのは、EA288 evo系に属する2.0リッター直列4気筒ディーゼルターボ。アルミ製シリンダーブロックを採用し、軽量化と熱効率の最適化を図っている点が特徴だ。
燃料噴射には、最大2,000bar超の高圧コモンレール式インジェクションを採用。多段噴射制御により、燃焼初期の圧力上昇を穏やかにし、ディーゼル特有の燃焼音や振動を抑制する。これにより、アイドリングから低中速域にかけての静粛性は、ひと昔前のディーゼル像を明確に過去のものとする。

過給系には可変ジオメトリーターボ(VGT)を組み合わせ、低回転域から過給圧を立ち上げることで、実用域でのトルクレスポンスを重視。最大トルクは1,600~2,750rpmという極めて日常的な回転域で発生し、SUVとして求められる余裕ある加速と扱いやすさを支えている。
排出ガス対策が示す“ポスト・ディーゼルゲート”の成熟
現行TDIを語るうえで欠かせないのが、排出ガス処理技術の高度化だ。
・酸化触媒(DOC)
・ディーゼル微粒子捕集フィルター(DPF)
・SCR触媒(尿素SCR)
を組み合わせた多段式後処理システムを採用する。
特にSCRについては、排気温度や走行状況に応じてAdBlue噴射量を緻密に制御し、従来より最大で80%NOxを低減するツインドージングシステムと燃費性能のバランスを高次元で両立。実走行時排出(RDE)を強く意識した設計思想が色濃く反映されており、規制対応のための“付加装置”ではなく、パワートレインの一部として最初から統合されている点に完成度の高さがある。
シャシーと一体で成立するTDIの価値
ティグアンはMQBプラットフォームを採用するが、TDIモデルではエンジン重量やトルク特性を前提としたシャシーセッティングが施されている。特に前後重量配分とサスペンションの減衰設定は、低回転域から厚みのあるトルクを発生するディーゼルとの相性を重視。

まだ暖かい宮崎でティグアン TDIを堪能
前置きが長くなってしまったが、フォルクスワーゲンが用意してくれたのは、日中は24度前後と快適で、最高のロケーションである宮崎県の日南エリアでのドライブだ。寒い羽田を出発し、ほんのり暖かい宮崎につくと空港の一室でブリーフィングを受けた我々は、野生の馬「御崎馬(みさきうま)」がいるという都井岬に向けてハンドルを握った。
日南の海岸線が浮かび上がらせた、TDIの“実用トルク”
市街地を抜け、海が視界いっぱいに広がる海岸道路へ。速度域は60~80km/hが中心となるが、この領域こそTDIの真骨頂だ。7速DSGは頻繁なシフトダウンを行わず、2,000rpm前後をキープしたまま滑らかに巡航する。

緩やかな上り勾配でもアクセルを少し踏み足すだけで、トルクが即座に応答し、速度を自然に上乗せしていく。この「踏み足しに対する遅れのなさ」は、可変ジオメトリーターボとディーゼル燃焼の組み合わせならでは。ドライバーはパワートレーンの存在を意識することなく、風景とリズムに集中できる。
終始快適
シプレッシーノグリーンメタリックという上品なボディーカラーを纏ったティグアン TDIのインテリアは、グレー基調の明るい室内、掛け心地の良いファブリックシートによって乗り始めから最後まで快適であった。フロントのスポーツシートは適度な張り出しで上半身をサポート、ドライビングポジションも合わせやすい。リアシートもしっかりとホールドしてくれて、背もたれの角度もいい具合なのでリラックスしてドライブを楽しめる。

まだ慣れを要するものの、インフォテイメント、特にナビゲーションは大きく改善されている。ヘッドアップディスプレイも見やすく便利だ。フロントシートはせめてドライバーシートだけでも電動調整式にしてほしいところだ。




| VW ティグアン TDI 4MOTION R-Line | |
| 全長/全幅/全高(mm) | 4,540/1,860/1,655 |
| ホイールベース(mm) | 2,680 |
| 車両重量(kg) | 1,750 |
| 燃料消費率(WLTCモード) | 15.1km/L |
| エンジン(ディーゼルエンジン) | 直列4気筒DOHCインタークーラー付きターボ |
| 排気量(cc) | 1,968 |
| 最高出力 | 142kw(193ps)/3,500-4,200rpm |
| 最大トルク | 400Nm(40.8kgm)/1,750-3,250rpm |
| 燃料タンク(L) | 61 |
| トランスミッション | 7速DSG |
| タイヤサイズ | 255/40 R20 |
| 車両本体価格 | 6,532,000円 |
コーナリング:重量を感じさせないシャシーとの協調
海岸線には、半径の大きなコーナーが連続する区間も多い。フロントに重量物を抱えるディーゼルSUVでありながら、ティグアン TDIは鼻先の重さを意識させない。MQBプラットフォーム由来の剛性感に加え、トルクの立ち上がりが穏やかなため、コーナー出口での姿勢変化が極めて自然だ。

高回転まで引っ張らずとも必要な加速が得られるため、コーナリング中に無理なアクセル操作を強いられない。ダイレクトなハンドリングと相まって、DCCが的確な仕事をしてくれるので、車体は常に安定した姿勢を保ち、ドライバーは安心してラインをトレースできる。
高速巡航:ディーゼルの“距離適性”
馬たちと戯れた後は東九州自動車道を使って帰路につく。高速道路では、2,000rpm前後での巡航が可能となり、エンジン回転数を抑えた静かなクルージングを実現。一方で、追い越し加速ではアクセルを踏み込むだけで即座にトルクが立ち上がり、シフトダウンを多用せずとも余裕ある加速を見せる。この特性は、長距離移動や積載時といったSUV本来の用途でこそ真価を発揮する。
燃費計を見れば、15km/l前後を表示していた。ディーゼルならではの効率の高さが淡々と数字に表れるが、それ以上に印象的なのは「走らせていて楽」ではなく「走り続けて楽」な性格であることだ。

総括:風景に溶け込むパワートレーン
日南市の海岸道路を走って強く感じたのは、ティグアン TDIのエンジンが決して前に出しゃばらないという点だ。トルク、静粛性、応答性―そのすべてが過不足なく調律され、ドライバーの操作と風景を自然につなぐ。
約200kmの工程もあっという間に終盤。宮崎の中心街へ向かうと交通量も多くなり、ストップ&ゴーが続く。アクセルをわずかに踏み込むだけで、1,500rpm前後から車体を前に押し出すトルクが立ち上がる感覚は、ガソリンモデルとは明確に異なる。回転数を上げる必要がなく、エンジンは常に余力を残したまま淡々と仕事をこなす。
注目すべきは、その静粛性だ。ディーゼル特有のノック音は巧みに抑え込まれ、キャビンに届くのは低く整ったエンジン音のみ。多段噴射制御と遮音設計の積み重ねが、日常域での上質さを支えていることがよく分かる。

いち早くティグアンの総合評価を行ったAuto Bildスタッフも新型ティグアンの飛躍的進化にフォルクスワーゲンの意地を見たと言っていた。
「第3世代「フォルクスワーゲン ティグアン」は更に良くなった?ベストセラーSUVを徹底的にテスト&評価」:https://autobild.jp/37236/
2月のJAIA主催の輸入車試乗会で乗ったテスターはティグアンの進化とコスパの高さを評価している。
「【第44回JAIA輸入車試乗会】待ちに待った、新型「虎+イグアナ」を試す!「VW ティグアン TDI 4モーション Rライン」のドライビングインプレッション」:https://autobild.jp/48825/

電動化時代におけるTDIの存在意義
電動化が進む現在においても、こうした完成度の高いディーゼルエンジンが持つ価値は明確だ。ティグアン TDIは、移動そのものを快適に、そして誠実に支える“道具としてのエンジン”の理想形を、日南の海とともに静かに示してくれた。

ティグアン TDIは、単に「燃費の良いディーゼルSUV」ではない。高効率燃焼、洗練された排出ガス後処理、そして車両全体との高度な統合によって成立する、ひとつの完成形といえる。フル電動化へと向かう過渡期において、航続距離、燃料費、豊かな実用トルクというディーゼルならではの価値を、現代的なクリーンさと洗練度で再定義した存在。それが、ティグアン TDIの本質だ。
Text&Photo:アウトビルトジャパン

