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ヨーロッパで最も権威のある自動車賞「ゴールデン ステアリングホイール2025(DAS GOLDENE LENKRAD 2025)」名誉ステアリングホイール賞─ハンドルを握る経営者、豊田章男へ

2025年11月19日

名誉ステアリングホイール(Honorary Steering Wheel)世界の自動車産業において、豊田章男ほど“クルマという文化”を体現するリーダーはそう多くない。創業者・豊田喜一郎の孫としてトヨタを率いた彼は、経営者である前に一人のドライバーであり、クルマ好きであり、そして何よりも「走り」を愛する人だ。今年の名誉ステアリングホイールにトヨタ自動車会長の豊田章男氏が選出された。

トヨタを単なる巨大企業から、“魂を持つメーカー”へと変えた男。その中心にあったのは、数字ではなく人、そしてクルマそのものへの敬意だった。経営者としての冷静さと、ハンドルを握る者の情熱。その二つを併せ持つ稀有な存在である。

法学部出身の「ドライバー社長」

慶應義塾大学で法学を学び、米国バブソン大学でマネジメントを修めた彼は、1984年にトヨタへ入社。生産、開発、マーケティング、販売──すべての現場を歩き、クルマ作りの“路面の荒れ”まで自らの目と手で確かめた。「いいクルマは、深く理解してこそ生まれる」
その信念のもと、彼はサーキットを攻めるように企業を学び、トヨタを再び“走りの現場”へ引き戻した。

「モリゾウ」というもうひとつの顔

2000年代初頭、豊田章男は“モリゾウ”という名で耐久レースに参戦した。ニュルブルクリンク24時間、そして数々の国内テスト。その仮名は次第に象徴へと変わり、いまでは特別仕様車「GRカローラ・モリゾウ・エディション」にまで刻まれている。“経営者が自ら走る”ということ。それはトヨタが掲げる「Making ever-better cars(もっといいクルマをつくろう)」という理念の最も純粋な実践にほかならない。

ふたつの顔。スーツ姿でトヨタの“ボス”としての豊田章男氏(上写真)——そしてレーシングスーツに身を包み、“モリゾウ”として情熱的に走るドライバーの顔。

マスタードライバーが教えたもの

豊田を鍛えたのは、伝説のテストドライバー、成瀬弘氏──「マスタードライバー」として知られる存在だった。成瀬は彼に、サーキットでも公道でも「限界」を知ることの意味を叩き込んだ。その教えのひとつが、今も豊田の心に刻まれている。

「運転を知らない者が、クルマを語るべきではない。」

以来、彼は走り続けている。社用車のセンチュリーでさえガズーレーシングが手を加えたGRMN仕様。ラグジュアリー、クラフトマンシップ、モータースポーツ──トヨタの“もうひとつの顔”を、その一台が体現している。

クルマを超えて、人を動かす

しかし豊田章男は、単なる“走り屋経営者”ではない。パラスポーツ支援など、誰もが自由に移動できる社会をめざす活動を長年続けてきた。それは企業のイメージ戦略ではなく、「技術は人を動かすためにある」という信念の表れである。

豊田章男氏は、日本の「トモダチステッカー」風のステッカーを配っている。これは、地元のカーガイ(クルマ好き)シーンで連帯の証として交換される“友だちステッカー”だ。

クルマづくりを通じて人を動かし、人を通じて社会を前に進める。そこに、彼のモビリティ哲学がある。

ステアリングを握るリーダー

いま、豊田章男は特異な存在として立っている。経営者でありながら、真のカーガイ。伝統を重んじながら、未来を見据えるビジョナリー。ハンドルを握り続ける会長。

AUTO BILD編集長、ロビン・ホルニヒ(Robin Hornig)はこう讃える。
「親愛なる章男さん、そしてモリゾウさん。指揮するだけでなく、自らハンドルを握る姿を示してくれてありがとう。心からの祝福と、深い敬意を込めて。」

Text:Robin Hornig
Photo:Picture-Alliance/dpa