「マツダ ロードスター」ずっと路上に輝く星のように マツダの市販乗用車イッキ乗り その11
2025年11月14日
一人マツダ応援団長の筆者が現在のマツダのラインナップすべてに乗るという無茶ぶり企画も今回が最終回。最後に乗る自動車はやはりこれ、マツダ ロードスター Sである。
ここ数年、多くのメディアで語られた「マツダ ロードスター」に関しての評価をまとめると「世界に誇らしい、日本の宝ともいえるオープンツーシーターで、こんな純粋内燃機関で格好いい自動車を買えるのは今のうち。買うなら今だ。人生最後の一台にしたっていいのだから」という感じの絶賛記事になると思う。

そもそもこの春に寄稿した「【自動車大好き倶楽部の入会証】祝35周年&ND10周年記念企画「マツダ ロードスター」4台一気乗り!」https://autobild.jp/49885/にも記したが、オープンカーはとってもずるい存在で、どんなボロいポンコツオープンカーだって、気持ちの良いお天気の下で、空いた道路を走れば気持ちいいに決まっているし、それは絶対的な速度である必要はなく、自分がその景色と一体になって風と移動することを感じられれば満点。ということにつきるのだから。
ハンドリングがどうしたこうした、絶対的な性能がどうたらこうたらと語るのはロードスター(オープンカー)には無粋な評価なのである。なので、「ロードスター」は良い車だなぁ。で終えて、ロードインプレッションは「今回ナシでいいじゃんねぇ?」とは思ったが、本当に温情溢れる優しいマツダの広報のご担当が、1600キロしか走っていない「ロードスター S Leather Package V Selection」を用意してくださったので、それにはしっかりこちらも応じなければ失礼にあたるので「ロードスター RF」に続いて「ロードスター」を嬉しく一週間お借りすることと相成った次第。

一週間の間に本当に多くの方から異口同音に何回も「素敵な色ですね」とおそらくお世辞抜きに言われ続けた、深い紺メタリック(ディープブルークリスタルマイカ)に塗られた「ロードスター S」に乗り込みエンジンをかけ、発進しようとしてクラッチを踏み込みギヤを一速に入れようとして気が付いた……今回お借りしたロードスターはオートマティックトランスミッションだったのだ。

大変恥ずかしながらこのクラッチのつもりでフットレストを思い切り左足で踏み込みながらオートマティックトランスミッションのセレクターをローに入れようと右側に押し込もうとする愚行は、このあとも信号待ちの度に演じてしまい、そのたびに自分のボケっぷりに苦笑するという情けなさではあったが、それだけ自分の脳裏には「ロードスター」といえばマニュアルトランスミッションという刷り込みがなされているのだと思う(ことにした)。

という情けない体験談を別にすればオートマティックトランスミッションの「ロードスター」は、とても快適で楽しい自動車であることに間違えはない。実は幌モデルのオートマティックトランスミッション仕様には今回初めて接したのだが、前述の愚行はともかく、幌をあげて走り始めるといつもの気持ちよく爽やかな「ロードスター」がそこには変わりなく存在してくれている。

クローズドボディのクルマに乗っている時よりも、ふんわりのんびり風を感じながら走っていると、とても幸せな気持ちになれる、その一点に関してはどのようなトランスミッションの「ロードスター」でもまったく同じである。
だが自動車と積極的に関わり、より濃密な運転を楽しむのであれば、やはりマニュアルトランスミッションのモデルに限るかなとも思う。なぜならばせっかくの純内燃機関の、比較的プリミティブで簡潔な構成の新車で買える自動車と触れ合えるのは「今だけ」かもしれないし、より直接的にその感覚を身体にしみこませるのであればやはりマニュアルトランスミッションのモデルのほうがふさわしいからである。

だからといって僕はオートマティックトランスミッションの「ロードスター」を否定する気は全くなく、これからもマニュアルトランスミッションともども共存して欲しいと願ってもいる。なぜならばオートマティックトランスミッションの「ロードスター」が存在してくれていることで、一人でも多くの人がオープンカーの魅力に触れ、自動車で自由に移動することの喜びを享受できるのであれば、それはとっても素晴らしいことだからである。
マツダの広報ご担当によれば「ロードスター」でオートマティックトランスミッションを選ぶ方は(日本では)2割程度、「ロードスター RF」では約半数と聞くが、それだけの人がツーペダルで乗る自動車の愉しさを満喫できているのであれば嬉しい限りである。
でも蛇足ながら、自動車と親密な関係を持ちながら移動することにも喜び感じることができる自動車、「人馬一体」という概念を追求し続けているのがマツダというメーカーの本筋であるという観点から考えれば、その頂点に旗艦としての任務を任されているはずの「ロードスター」には、やはりマニュアルトランスミッションのモデルがよりピュアで相応しいといえよう。

さんざん言われていることだが、こんなに純粋な自然吸気の内燃機関にマニュアルミッションが組み合わされた自動車を、新車で購入できる時間はいつまでも続くわけではないのだから。
今回、気持ちよく幌を上げて走っていると、何回も対向車線から走ってくる「ロードスター」から挨拶された。一番多かったのはNDだったがNAもNBもNCとすれ違っても、ひょいっと手を挙げて挨拶されることが多かった。
そのたびに痛感する。本当に多くの人に「ロードスター」は愛されているのだと。こんなに多くの人に愛される自動車をラインナップに持っているという財産、それは本当にかけがえのないマツダの宝物だし、絶対にTVCMや広告で作られるイメージ戦略で成立するような話では絶対にない。
もちろんこれほど多くの人に愛される自動車になり得たのには、もちろんマツダで自動車を作っている、数えきれないほど多くの方々の努力の賜物である。35年以上も継続し、純度を高めながら今も魅力を持ち続けていられる商品を生み出すことは、どれほどの汗と努力と情熱が必要なのだろう。そんなことを思いながらロードスターを返却するために、横浜のマツダR&Dに向かう。
現在のマツダのラインナップに一週間ずつ全部試乗するという、このわがままで無茶な企画を快く(たぶん内心は呆れながらも)受け入れてくださり、開始したのは酷暑で水銀柱もうなぎのぼりの8月だった。

すっかり風が冷たく感じられるようになった11月のスーパームーンの日が最終日となったが、優しく気持ちよく車を貸してくださったマツダのご担当には、心から感謝したい。本当に本当にありがとうございました。

どうかこれからも、幌を開けて爽やかに走る路上に輝くスターのように、自動車を愛する人がつい笑顔になってしまうような自動車が、たくさん広島から世界に旅立つことを願って。
Text&Photo:大林晃平

