豊かなロードスター「マツダ ロードスター RF」 マツダの市販乗用車イッキ乗り その10
2025年11月6日
マツダを心から応援したい!ここ20年ほどガレージには必ず一台マツダのクルマがある筆者が、今のマツダのクルマに乗って、心から「頑張れ!」と勝手に叫ぶ連載企画。10回目は「マツダ ロードスター RF」。
マツダRFを見るたびに、やっぱりマツダは偉いし、いい意味で変わっているメーカーだよなぁ、と失礼ながら思う。だって普通に考えたならば、ロードスターだけでも継続して作ってくれてありがたいのに、きっと台数は望めないはずのRFをわざわざ開発し、販売しているのだから……。マツダ一人応援団の筆者が今回一週間乗ることになったのは、ロードスターRF RSである。
ロードスターRFに関しての評価はだいたい2分しているように見受けられる。

「快適に、ゆとりを感じながら乗る、大人の自動車としていいじゃないか」というものと「ロードスターの王道は幌でフルオープンになるモデルに決まっているじゃないか。限られたパワーを使って乗る、軽さとバランスのよさこそロードスター」というものの2つだ。
僕の気持ちはどっちもアリで(逃げてずるいけど)、乗るたびにその意見の間を行ったり来たりする。とはいうものの、実は我が家には990Sが今あるので、やっぱり正直な気持ちを吐露すると、人生のあがりの一台として乗る自動車としては幌の普通のモデルで、日常の足に使ったりたまに快適に長距離を移動する用途なら2.0のエンジンを積んだRFというのがずるい回答となる。

さて今回一週間お借りしたRFはRSという硬派なモデルで足回りが専用チューニングされていることと、レカロなども備わるなかなかにレーシーなグレードである。もちろん6速マニュアルトランスミッションの車両だが、へそ曲がりな僕としてはRFをオートマティックトランスミッションのモデルで、ゆるゆるっとラグジュアリーにインプレッションするのもいいのになぁなどとバチが当たりそうなセリフが口をつく。その方が来週お借りするはずの幌のモデルよりも違いは鮮明になるはずで、せっかくRSをマニュアルトランスミッションで乗れるという機会なのに、マツダ広報からは飛び蹴りを食らいそうになりながらマツダ研究所をそそくさと後にすることにした。

走り始めると案の定かなりハードで硬派な乗り心地で、少なくとも慣れ親しんだフランス車のような乗り味の990Sなどとはまるで違うロードスターである。マニュアルトランスミッションのシフトフィールも手ごたえのある感覚だし、16000㎞余りを各ジャーナリストなどに酷使されたからかタイヤ(205/45R17 サイズのポテンザ)も賞味期限切れが近く、それも影響してか正直言って街中では、ざるそばを通ぶってつゆを付けずにすするようなやせ我慢感がある。
もちろん速度を上げ、快適な領域になってしまえば高速クルージングとしての魅力は幌のモデルよりも大きいし、RFに乗ると不思議なことにちょっとリッチで豊かな気持ちになる気がする。パワーがあるからなのか、ロールバーのようなピラーに守られていることがそう感じさせるのかは謎だが、とにかくこういう精神的な違いも明らかに感じられるのが自動車の不思議な魅力の一端といえよう。

またいつもRFに乗ってエンジンをかけて最初に感じることは、2.0リッターの184PS 205 Nmの出力を持つ直列4気筒エンジンが、これってひょっとしてスカイアクティブXだっけ?と思ってしまうような、ディーゼルエンジンみたいな音とちょっとしたバイブレーションがあることで、それは気筒直接噴射(DI )故に冷えていた時には感じられる触感なのかもしれない。もちろんエンジンが温まるにしたがってそのイメージは消えていくのだが、いっそのことものすごく特別なモデルとしてスカイアクティブXを積んだRFがあったとしたら、なかなか面白いなぁと余計な空想をしてしまう。
もちろん重量やスペースの関係などもあるだろうし、無茶で無責任な発言であることは間違えないが、それぐらいの思い切りもあっても良いのではないか。マツダには3ローターのコスモの前例もあるわけだし(笑)。徹底的に幌とRFを変え、特別名仕様を設定した方がよりお互いの魅力を引き出しあえるはずではある。
紹介が遅くなったが今回お借りしたエアログレーメタリック(ソリッドの灰色に見えるが、メタリックなのであった)という魅力的な色に塗られたロードスター RF のRSの価格は4,308,700円で一切のオプションを持たない仕様であった。400万円を超える価格を安易に安いと言ってはいけないが、その内容を考えた場合、特に世界的な視野から見ればこの価格は決して高価過ぎないとは思う。

結論としてRFは乗れば乗るほど、いいなぁ感が増す一台であった。確かに幌のロードスターと比較すれば解放感や軽さは劣るが、前者に関してはサイドウインドーを全開で前を向いて走れば幌のロードスターの85%くらいには近づける。残りの15%はルーフ(ロールバーのような安心感はある)残りがやはり目に入る時はあることと、後ろをぐるっと振り向いた時、やはり何もないという圧倒的な解放感という部分に関しては当たり前ながら幌にはかなわない。だが全天候型快速コミューターとしてはRFに軍配が上がるし、なによりもちょっとラグジュアリーな雰囲気になれるのはこっちである。

昔からポルシェ911でもっともラグジュアリーで本当に贅沢でおしゃれなのはタルガである、と一生買えないくせに勝手に決めつけている者としては、このRFはタルガの雰囲気に近いものを持っていると思う。あと10年くらいして、今所有している990Sが過走行となり、幌がみすぼらしく破けてきたら、乗り換える自動車としてそのころ70歳の僕はRF を迷わず選ぶと思う。
その時代にはもちろんNDではなくNEロードスターになっているはずで、その内容はまったく現段階ではまったく未知数。ハイブリッドなのかBEVなのか、あるいはもっと革新的な自動車なのかは想像もつかない。だがきっと運転して楽しく、毎日の生活に彩を描いてくれるような、僕のような薄給の者にも購入できる自動車としてロードスターがマツダのラインナップにあることはきっと間違えない、と信じたい。

本当にこんなに素晴らしい、世界に誇れる自動車にかける情熱と愛情が、マツダから消えてしまう日が来るなどと、想像するだけで悲しいではないか。
Text&Photo:大林晃平

