75台しか作られなかったメルセデスSLRマクラーレン スターリング モスに試乗!文字通り、希少で貴重な体験!
2026年1月1日
メルセデスSLRマクラーレン スターリング モス(Mercedes SLR McLaren Stirling Moss):フェラーリやブガッティ、パガーニといった名だたるスーパーカーの中で、最も強烈な存在感を放つにはどうすればよいか?答えは、16年前のメルセデスだ!SLRマクラーレン スターリング モスの試乗レポート。
カメラやスマートフォンがそこらじゅうにある。これまでの人生で今日ほど頻繁に写真を撮られたことはなかった。まるでスターになった気分だ。しかし、スターは私ではなく、この車である。私は、75台しか製造されていない「メルセデスSLRマクラーレン スターリング モス」に乗り込み、ペブルビーチののどかな「17マイル ドライブ」を走っている。
この、絵のように美しい海岸道路では、時速25マイル(40km)という厳しい速度制限が課されており、アメリカの警察は冗談を言う気分ではないだろうから、私はこの制限速度を厳守したほうがいいだろう。特に「モントレー カーウィーク」の期間中はなおさらだ。
事前にサーキットで「スターリング モス」を走らせる機会があったのは、実に幸運だった。時を3時間巻き戻そう。私はラグナ セカ レースウェイのパドックに立ち、やや大きめのヘルメットを被り、「メルセデス300 SLR W196 Sに乗り込もうとしている。1955年のミッレ ミリアで、スターリング モスとデニス ジェンキンソンがまさにこの「SLR」で優勝し、現在に至るまで破られていない記録を打ち立てたのだ。

70年後の今、私は事実上“値段の付けようがない”シルバーアローの助手席に座るという特権を得た。ステアリングを握るのは、このクルマを知り尽くした数少ない人物のひとり、ウーヴェだ。彼は全長3.6kmのラグナ セカ サーキットで「300 SLR」を実に的確な流儀で走らせていく。そのドライビングには、きっとサー スターリング モスも太鼓判を押すに違いない。3リッターV8が放つ荒々しいサウンドと、耳に残る見事なアフターファイアに酔いしれているうちに、私たちはピットレーンへと戻ってきた。
オリジナルは、ほとんど値段が付けられない存在だ
そして今度は私がドライブする番である。もっとも、それは推定4,000万〜5,000万ユーロ(約70憶~87億5千万円)の価値を持つ「300 SLR」ではない。私が乗り込むのは、現在でも約400万ユーロ(約7億円)の価格が付く「SLRマクラーレン スターリング モス」だ。赤いバケットシートに身を沈め、細身のバタフライドアを閉め、シートベルトを締める。大ぶりなシフトセレクターを手前に引き、前を走るウーヴェが走り出すのを待つ。

次の瞬間にはウーヴェが「300 SLR」のアクセルを踏み込んだ。「SLRマクラーレン」の他の全モデルにも搭載される、5.4リッターのスーパーチャージドV8が生み出す最高出力650ps、最大トルク820Nmのおかげで、目の前を走る70年前のレーシングカー、「300 SLR」に食らいつくのは難しくない。
ピットレーンを離れた瞬間、この状況がいかに非現実的かを実感する。私は、わずか75台しか生産されなかった「メルセデスSLRマクラーレン スターリング モス」に乗り、1955年製の「300 SLR」を追いかけながらラグナ セカを走っているのだ。このサーキットは、これまでグランツーリスモというレースゲームの中でしか知らなかった場所である。しかも、観客席には何千人もの人々がいて、このデモンストレーション走行を見守っている。今の私は、これ以上ないほど幸福な男だ。
フロントミッドに搭載されるV8スーパーチャージドエンジン
スタート/フィニッシュストレートの終わりで、コースは「アンドレッティ ヘアピン」と呼ばれる急な左コーナーへと切れ込む。最初のターンインの時点で、どれほど希少なSLRであっても、これが純粋なレーシングカーではないことを思い知らされる。というのも、スーパーチャージドV8(M155)をフロントミッドに搭載しているとはいえ、車重1551kgのスターリング モスはタイトなコーナーではフロントヘビーで、アンダーステア傾向が強いのだ。わずか1コーナーを抜けただけで、私は次のことに気づいた。現代の「SLR」はカーブを攻める車ではないだろう、と。
とはいえ、ハンドルを握る楽しさはいささかも損なわれない。素晴らしいV8エンジンに加えて「SLRスターリング モス」ではドライバーも助手席も完全に外気にさらされていることが、その理由だ。2009年に登場した「SLRマクラーレン」の最終進化形であるこのモデルは、当時すでに時代を先取りしていた。現在のスーパーカー/ハイパーカー市場におけるバルケッタブーム(フェラーリ モンツァSP1/SP2、マクラーレン エルバ、アストンマーティン スピードスター)に先駆け、メルセデスとマクラーレンの協業は、ルーフ(ソフトトップすらない)もウインドシールドも持たないクルマを生み出したのである。これ以上にラディカルな存在は、そうそうない。
スターリング モスの価値は4倍に
現在の視点からすると、ベース価格892,500ユーロ(約1億5,618万円)で発売された75台の「SLRスターリング モス」が、当時は販売に苦戦していたという事実は信じがたい。およそ15年が経過した今、その価値はほぼ4倍に跳ね上がり、なお上昇傾向にある。
ステアリングを握りながら、少なくともヘルメットが小石や虫から身を守ってくれていることに安堵する。スタート/フィニッシュストレートで約200km/hに達したあたりから、きつく締めたはずのヘルメットが徐々に浮き上がるのを感じた瞬間、メルセデスが公表していた「SLRスターリング モス」の最高速度が350km/hであったことをふと思い出した。果たして、その最高速を実際に試したオーナーは存在するのだろうか。

とにかく、200km/h弱で私は完全に満足だ。ルーフもフロントガラスもないこの瞬間、むしろ300km/hにも感じられる。V8エンジンにはまだ十分な余力があることは、疑う余地もない。650馬力と820Nmのパワーは、穏やかな5Gトロニックでもその威力を発揮する。しかし、特徴的なコンプレッサーのサウンドは、私の前を走る 「300 SLR」の音に掻き消されて、まったく聞こえない。
名物「コークスクリュー」を最後にもう一度クリアする(胃の奥がきゅっとつかまれるような感覚だ!)と、私は左に曲がってピットに入った。ラグナ セカでの冒険は終わったが、次の体験が待っている。少し息をついた後、「メルセデス ベンツ クラシック」の所有車、「SLRマクラーレン スターリング モス」を、有名な「17マイルドライブ」で走らせることになった。
1メートルごとに素晴らしい体験が待っている
メルセデスのチームからは親切な助言もあったが、公道ではヘルメットを着用しないことに決めた。サングラスで十分だ。何しろ、「SLRスターリング モス」の感覚を余すところなく味わいたかった。時速70km/h程度まではまったく問題ない。それ以上になると風がやや不快になってくるが、そんなことはすぐに些細な問題になる。果てしなく伸びるボンネットの眺めと、はっきりと耳に届くV8の重低音が、多少の風など十分に補って余りある。そもそも、これは自分で選んだ走り方なのだ。
おかしなことだが、「SLRスターリング モス」では、渋滞に巻き込まれているときでさえ、すべてが特別な体験に感じられる。約25kmの道のりで、この車は何度も撮影されたが、それは、「17マイル ドライブ」で選んだ撮影スポットで待ち受けていた光景に比べれば大したことではない。海岸沿いの道路には、カメラやスマートフォンを構えるカースポッターたちが至る所に立っていた。通常なら、私もその一人だが、今日は何もかもが“普通”ではなかった。

「スターリング モス」を駐車してから30秒も経たないうちに、恐らく100人以上の人々がこのスーパーカーを取り囲んだ。事情を知らなければ、この大騒ぎは演出されたものだと思ったに違いない。しかし、メルセデス クラシックのチームも私と同様に驚いていた。16年前のクルマが、これほどの騒動を巻き起こすとはにわかに信じがたい。まさに驚異的だ。
スターリング モスは“場を止める”存在
この光景で何より素晴らしいのは、そこに並ぶのが笑顔ばかりだということだ。私がクルマから降りる最中でさえ、見ず知らずの人々が「間近でスターリング モスを見せてくれてありがとう」と声を掛けてくる。「スターリング モス」こそがモントレー カー ウィーク最大のハイライトだ、という言葉を一度ならず耳にした。ブガッティやケーニグセグ、パガーニといったハイパーカーが集結する中で、これは極めて高い評価と言っていい。
予定していた写真撮影は、私が「SLRスターリング モス」で最後のドライブに出発するまで、まさに一大イベントとなった。唯一の中断は、「SLRスターリング モス」で最後のドライブに出発する時だけだ。締めくくりは17マイル ドライブでの走行撮影。制限速度は40km/hに過ぎないが、このドライブは一生忘れられない記憶として刻まれるだろう。駐車場へ戻る直前、限定50台のみが生産された「レクサスLFA ニュルブルクリンク エディション」とすれ違い、互いにほぼ同時にサムズアップを交わした。

Photo: Keno Zache
やがて「SLRスターリング モス」を停め、キーを回し、しばし余韻に浸る。細身のバタフライドアを最後にもう一度開く―それ自体が一つの見せ場である―できるだけ優雅に降り立とうと努め、簡素なキーをメルセデス ベンツ ヘリテージのフランクに手渡す。「スターリング モス」と過ごした時間はここで終わるが、記憶は永遠に残り、風になびいた髪だけは今夜までだ。今の私は、心から幸せである。
Text: Jan Götze
Photo: Mercedes-Benz AG

