君はデミオ、デミオだろう?「マツダ 2 」 マツダの市販乗用車イッキ乗り その9
2025年10月30日
マツダ一人応援団の筆者が今のマツダのクルマに一週間ずつイッキ乗りする無茶ぶり企画。今回はデミオ……ではなくマツダ2である。
3世代目のデミオを5年間所有していたことがある。イメージカラーのグリーンに塗られた初期のモデルで、グレードは13CV。ミラーサイクルエンジンにCVTが組み合わされたそれは、僕よりも主に家族が本当に重宝して愛用した一台だった。初期のカングーを下取りに出して購入したのだが、なにしろ1トンを切る車重の軽さが印象的で、重いコートを脱いで軽いカシミアのニット一枚で軽快に街に繰り出す、そんな心地よさを乗るたびに感じた愛すべき一台だった。どこに行くのにも気軽に乗っていったことを思い出す。
そんな3代目が現行のマツダ2、もちろん当時はデミオと呼ばれていた4代目にフルモデルチェンジしたのは11年前の2014年のこと。かなりプレミアム寄りのフルモデルチェンジで、品質感などは大幅に良くなったかわりに、なんとなく切れ味は穏やかになったように当時は感じたものだった。
その代わりと言ってはなんだが、ディーゼルエンジンのモデルが用意されたことはディーゼルフェチには大きなトピックで、こりゃ買わなくっちゃいけないな、と思いつつ、つい車高とカッコよさに目がくらんでCX-3を当時購入したというのは以前に記した通りである。
「格好は良いんだけどねぇ「マツダ CX-3」 マツダの市販乗用車イッキ乗り その6」:https://autobild.jp/57885/
デミオからマツダ2に名前が変わって6年目、今でもやっぱりその姿を見るたびにデミオ、と呼んでしまうのは未練がありすぎるだろうか。もちろんグローバルに考えたり日本での販売戦略の関係上、デミオがいきなり2になることはやむを得なかったのかもしれないが、なんとなく馴染んだように感じるマツダ3(アクセラ)に比べると、やはりマツダ2というのはどこかにいまだに馴染めない部分がある。
ちなみに今、ヨーロッパにおいてマツダ2と呼ばれているのは、トヨタ ヤリスのOEM版、ということはバッチをマツダに変えた車で、このマツダのエンブレムがついたヤリスをヨーロッパの街中で見かけた時の、なんだかやるせない違和感が忘れられない。自分的には「クライスラー イプシロン」級の違和感で、今でもマツダのブランドイメージを下げちゃっているのではないかと心配する自分である。
というお話はともかく、今回乗ることになったマツダ2は11年目の最新モデルで、もはや大好きだったディーゼルがラインナップから無くなってしまったため、普通の1.5リッターのスカイアクティブG、つまりロードスターと基本的に同じ110PS 142Nmの4気筒ガソリンエンジンモデルに6速オートマティックトランスミッションの組み合わされたモデル「マツダ 2 15 BD i Selection」である。
いつも心優しく広報車を準備してくださっているマツダ横浜R&Dの方が「なんだかガルフカラーみたいで派手ですいません」と笑顔でキーを渡してくださったのだが、確かに「エアストリームブルーメタリック」というポルシェ917みたいな色使いで(笑)、還暦の僕には、無理に流行りのハイテクスニーカーを履くようでちょっとこっぱずかしい気もする。でも乗ってしまえば関係ないから、と乗り込むと内装もちゃんとカラーコーディネートされて外装色と同じようなしつらえであった。

実はこのカラーコーディネートはショップオプションでその価格は172,590円(ボディデカールやリアスポイラー、ドアミラーガーニッシュ、ホイールキャップなどなど)でそのオプションを加えた今回の車両価格は2,244,990円。

それらの派手なオプションはないものとして算出すると2,072,400円が車両価格となるがそこにはマツダコネクトパッケージ(115,500円)、360度セーフティーパッケージ(60,500円)、セーフティクルーズパッケージ(66,000円)、地上デジタルTVチューナー(22,000円)、ルーフフィルム(55,000円)、ホイールキャップレス(24,200円の減額)が加わっている。
個人的に白い屋根以外は必須と思われるオプションなのだが、そうすると(屋根を白くしなければ)2,017,400円となる計算で、これはなかなかお買い得なのではないか、という気持ちになる値段といえる。

その代わりこの価格を実現するための徹底ぶりはなかなかのものである。荷室のトノカバーがオプションなのはいたしかたないが、今回エンジンルームを撮影しようとして驚いたのはエンジンカバーがなかったことだ。これはどこかに置き忘れたのかも、と余計な詮索をしながらあとで広報の方に聞いたところ、マツダ2では4年前からエンジンカバーが廃止されたとのこと。これはコストダウンのためだろうが、ポテトチップの内容量が毎年減っていったり、板チョコの重さが減少し続けているようなやや寂しい現状を見るような気持ちになった。
とはいってもエンジンカバーがなくて困ることは一切なかったし、そもそも今の一般的なユーザーはエンジンを拝むことはめったにないはずで、そういう意味ではいたしかたない措置といえる。一方、荷室のトノカバーのほうは遮音に影響するだろうし、盗難防止にも有効だろうと思う。

さらに今回の試乗で気が付いたことは、夜間運転中にブレーキを踏むと、どこからか漏れたブレーキランプの光でカーゴルームが真っ赤に染まることで、この部分だけは馴染めなかった。
ちなみにCX-30 はタイからの輸入車であったが、マツダ2には誇らしくメイドインジャパンのプレートが張られている。てっきりマツダ2も、もはや日本で作っていなかったのかもと心配していた自分を恥じながら走り始める。
まず最初に感じるのはコンパクトなサイズのありがたさで、決して広くないマツダ横浜研究所近辺の路上では5ナンバー枠の大切さを改めて思い知らされた。
またアクセルもブレーキもハンドリングもすべて自然でなにも迷わずに、直感的に操作できるし、本当に普通に自動車を心地よく運転しているというこの感じ……それはマツダ ロードスターに近い、と改めて思う。
4気筒1.5リッターのエンジンは言うまでもなく基本的に共通だし、かちっと固く心地よい革巻きステアリングなども990Sロードスターなどに用いられていたものと基本的に同じだが、そういう部品の共通かどうかというポイントはともかく、自動車全体の醸し出している雰囲気がなんとなくロードスター的なのであった。

CX-3ではちょっとドタドタと乗り越える路面を、マツダ2はトントン、と軽やかに乗り越える違いが印象的である。この違いは上屋の重さ(CX-30 の車重はこのシャシーにはきつかったのかもしれぬ)の違いでもあるとは思うが、マツダ2の履いている185/65 R15 という実にホッとするサイズと扁平率のタイヤも大きく貢献しているはずである。生来、カッコ優先の高扁平率タイヤやむやみなインチアップも苦手なため、このタイヤだけでなんだか嬉しくなるし、ユーザーにとっても交換の際に懐を痛めなくて済むではないか。
ロードノイズなどをはじめ静粛性にはやや欠けるものの、そんなゼロデシベル空間を小型車に求めることは個人的に反対で、それよりも軽さを選んだというマツダの考え方に賛同したい。
さて今回の一週間の試乗中には、MX-30の時にご一緒いただいた、JAMSTECで有人潜水調査船「しんかい6500」の元パイロットを長年務めていた田代省三さんにも一緒に乗っていただいた。なぜなら田代さんは長年デミオのディーゼルを所有され、長距離ドライブなどが大好きなこともあってかその走行距離はすでに11万キロを達成しているほどの愛用ぶりだからだ。まずは乗り込む前にデミオとマツダ2との違いを確認しながら三浦半島をぐるっと回ってみた。田代さんの感想を以下にまとめる。

「オートマティックトランスミッションの制御などが実に緻密になっていることと、乗り心地がすごくよくなっていることが印象的でした。でも他はあまり変わってないかな(笑)。もちろんエンジンが違うのでその部分は印象も異なりますが、いずれにしても運転して楽しく、小さなドライバーズカーとして魅力的なことに変わりはありません。えっ?ディーゼルエンジンのモデルはラインナップからなくなっちゃったのですか?それは残念です。デミオを買った一番の理由はディーゼルエンジンだったからで、じゃあ買い替える必要はなくなったかな(笑)。今回新しいのがものすごく良くなっていて欲しくなっちゃったらどうしようか、とか思っていましたので」
基本に忠実で誠実に、そして運転して楽しいという小型車が本来持っているべき要素をクリアした小型車というのが実は今少ない。個人的には日本の小型車で購入するのならばこのマツダ2かスイフト(スポーツではなく、普通の)あるいはフィットかジムニー(これは小型車ではないが)と決めていて、その中でもマツダ2は最右翼だし、今でも決してライバルに決定的に劣るような部分は見当たらない。

だが正直を言えばもうそろそろデミオ時代から数えれば11年経過したし、そろそろ新鮮さを全身で表現したようなフルモデルチェンジを敢行されても良いのではないか。そしてそんなマツダの小粋なクルマを待ち望んでいるデミオ/マツダ2オーナーは全国に多くいると考えられる。きっと田代さんもそういうユーザーの一人だろう。

キャロル、ファミリア、フェスティバ、デミオ……マツダには代々、洒落ていてみんなの生活を彩り、多くの思い出を作ってきた小型車が多く存在し続けて来た。どうかそんな素敵な小さな自動車がこれからも絶えることなく、私たちの生活を潤してくれることを願って。
と書いてから、ジャパンモビリティショー2025に行ったら、おそらく時期新型マツダ2と思われる1台が華々しく展示されていた。

Text&Photo:大林晃平

