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アランドロンに乗ってほしかった「マツダ 3 セダン 20Sツーリング e-SKYACTIVE G 2.0」 マツダの市販乗用車イッキ乗り その8

2025年10月24日

マツダ一人応援団の筆者が、マツダ車イッキ乗りを敢行する無茶ぶり企画。8回目となる今回はマツダのラインナップでは唯一のセダン、ソウルレッドクリスタルに負けず劣らず素敵な色のマシーングレープレミアムを纏った「マツダ 3 セダン」ある。

自虐ネタでもなんでもなく、今回の「マツダ車イッキ乗り」という無茶ぶり企画を、心優しいマツダの広報部が許してくださったとき、実はものすごく楽しみだったのがマツダ3のセダンであった。もはや希少になってしまった3ボックスのセダン、自動車好きだったら楽しみに決まっているではないか!

「ユーノス500」、「ユーノス800」、あるいは「ルーチェ レガート」など個人的に好きなマツダのセダンは多いが、なかでも初めてFFになった「カペラ」は印象的で、少年時代の僕の心に刺さった。布施明の歌う「たまらなくテイスティー」をバックに、赤いブルゾンを着たアランドロンがマグナムエンジンつきの赤いカペラのセダンに乗り込み、実に楽しそうに森の木立の中をスラロームするCM。(ほかにもシトロエンHトラックの荷台から枯草の束が次々と落下し、それをスラロームするバージョンとか、道路工事の水たまりをスラロームするバージョンなどもあった。いずれにしてもハンドリングの良さをアピールしたかったのであろうと思う)

あのイメージが今でも胸の奥深くに残っているせいか、マツダのセダンはかっこよくスマートで二枚目、という先入観が今でもしっかりとある。残念ながらいつか購入しようと画策していたマツダ 6(アテンザですね)は日本市場から消え去ってしまい、今マツダのセダンの座布団に座るのは今回のマツダ 3(アクセラですな)のみになってしまったが、改めて見直しても実にいい感じのスタイリッシュな3ボックスセダンである。

現行のマツダ 3が発表された2019年頃が「コドウデザイン(魂動デザイン)」の完成した時期だと個人的に思っていて、その中でもマツダ 3のファストバックとセダンは文句なくいい感じのデザインを持つ自動車であるといえよう。そんな魅力的なセダンに今回は一週間乗せていただけることになった。ボディカラーは渋いけれどこれまた地味過ぎない絶妙なマシーングレープレミアムメタリック(55,000円のオプション)。決してビジネスライクになりすぎず、絶妙にお洒落な配色である。

リラックスできるインテリアデザイン。奇をてらったところがないのでドライバーは運転に集中できる。

内装がこれまたいい感じなのは喜ばしい限りだ。豪華絢爛の痛いようなアンビエントライトやデコレーションとは無縁で、だからといって殺風景すぎることもなく、整然と使いやすく、張りの強い丈夫そうなファブリックのシートと相まって好印象である。全盛期のアウディを抜いたかのような各部のチリのち密さといい、全体の質感を見ると、今回の試乗車の価格2,891,900円(前述のボディカラーのオプション含む)はかなりの出血サービス価格にも思える。

張りのあるファブリックを採用したシートも乗り心地は良好。むしろ1年中快適なのはこちらかも。

ディーゼルエンジン大好きな僕としてはe-SKYACTIVE G2.0 のガソリンエンジンよりも1.8ディーゼルエンジンを搭載した同グレードのXDツーリングを選択したいが、それだと3,111,900円となってしまい300万円突破だが、今回のSツーリングというモデルではなく、Sパッケージという若干装備などが簡略化されたグレードならば2,577,300円(e-SKYACTIVE 2.0 G)と2,852,300円(1.8ディーゼルエンジン)と、かなり魅力的な価格となる(ともに二輪駆動)。先ごろ、さらに魅力を増した、ブラックがアクセントの「XD Drive Edition」が追加された。

この値段でこの内容は、軽自動車のハイトワゴンでもあっという間に200万円を突破してしまう昨今、がんばってるなぁと上質なしつらえのドアを開けて乗り込むことにする。

欧州車寄りのチューニング

そんな好印象を持って走り始めた僕が最初に感じたのは、かなり固めの乗り心地だった。20km/hとか30km/hといった低速では、215/45 R18という扁平率高めのタイヤの空気圧が高すぎるかのようにポンポン跳ねるような感じでちょっと落ち着きに欠ける。もう少し扁平率の優しい55で17インチくらいの、ちょっと良いタイヤを履いてみたい。

ワールド・カー・デザイン・オブ・ザ・イヤーを受賞したマツダ3は世界が認めたスタイリッシュセダンだ。

しかし、それが60、80と速度が上がるにつれて急に改善されていき、徐々に気にならなくなるどころかかなり路面の荒れた状況下でも不快感なく安心して通過できるのは、ボディの剛性感が高いからであろう。前述のようにシートは固めのファブリック張りなのだが、決して不快な振動は伝えてこない。

2.0リッター4気筒に24ボルトのマイルドハイブリッド(6.9PS 49Nmの交流モーターを持つ)が組み合わされたスカイアクティブG2.0エンジン(156PS 199Nm)に6速オートマティックトランスミッションが組み合わされ、1380㎏の車体を引っ張るのだから、その運動性はごく普通ではあるし、ブーっといったあまり魅力的とは言えない直噴エンジンの音も大き目ではあるが、300万円以下で購入できる日常の実用車ということを考えればこれで十分以上だと個人的には思う。

マツダ 3 セダンに1.5リッターエンジン搭載車は用意されない。重量は嵩むが排気量は大きい方がゆとりを感じる。

スポーティーバージョンとか高性能に無茶に進むことなく、ごく普通の”ホッとできる”お茶漬けのようなモデルというのは実は探すとなかなかないものなのだから。さすがにファストバックには設定のある1.5リッターのガソリンエンジンモデルだとアンダーパワーかもしれないが、今回2.0リッターのマイルドハイブリッドガソリンエンジンモデルにかなり大柄な男性4人が乗るという状況でも過不足なく、様々な交通状況下で15㎞/l定程度の好燃費性能をたたき出した。

今一つ頼りない感じのブレーキタッチ(先週まで乗っていた、ファストバックのマツダ3 スカイアクティブXでは感じなかったので、個体差だろうか)や、低速でややポンポン落ち着かない感じの乗り心地、タイヤのせいかかなり大きなロードノイズなどが改良されたならば、この「3」のセダンは小さな高級車になれる素質が高い。全体的にうまくまとまったパッケージングと、剛性感あふれる美しいボディは大きな武器になるだろう。僕のような野暮ったいおじいさん予備軍には、スタイリッシュ過ぎて気後れしそうなデザインのファストバックの「3」よりも、定番のブレザーのようなセダンの方がなんだか妙に安心できた。

ルーフラインがきれいな円孤を描いているマツダ3セダン。ファストバックに比べて全長は20cm長く、それはトランクルームの前後長に活かされている。

わが国だけではなく世界的にも希少になりつつある適度な大きさのセダン。決してオジサンくさくなく、最後まで二枚目であり続けたアランドロンのような格好いい小型セダンが、いつまでもお洒落でいたい市井のオジサン・お爺さんのために存在し続けてくれたらいいな、と思う。

最後に一つ。Aピラーの角度がもう少し立っていると運転席からの視界もすっきりよくなると思うし、乗降性が楽になるのではないだろうか。かつて故三本和彦先生は、こういうAピラーの寝た車を「リンボーダンスするみたいに”よっこらしょっと”乗るような車はいけねぇや」と言っていたことを思い出す。全国のおじさんたちと、もちろんアランドロンにリンボーダンスをさせちゃいけません。

ちょっと格好のいい、折り目正しいセダンが、いつまでもわが国に残りますように。

Text&Photo:大林晃平