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初物のスイカは高い スカイアクティブX搭載の「マツダ 3」 マツダの市販乗用車イッキ乗り その7

2025年10月16日

硬い乗り心地

さて、走り始めてみて一番に感じたのはスポーツカーのように乗り心地が固いことで、少なくともゴルフ8.5(の普通のモデル)とかプジョー308のような走り始めた瞬間に感じる滑らかさやしなやかさとは違う感覚である。

とは言え、先ほどまで乗っていたCX-3に比べると路面のざらつきをそのまま伝えてくるわけでなく、なんとなく浅い底づき感、バタバタ感は皆無で、1クラス上であることを明確に感じた。その印象はややペースを速めると顕著で、少々荒れた路面をいい感じのペースで走ってもサスペンションがしっかりとショックを吸収していなしてくれるので不快感はなかった。ボディの剛性感や安心感はCX-3とは別次元だし、基本設計がしっかりしていることがわかる。

リアハッチが寝ていることがよくわかる。マツダが“ファストバック”というのはその通りで“ハッチバック”と呼べるクルマたちとは違う。超短い“シューティングブレーク”?

ハンドリングに関してもステアリングフィールや重さなどは絶妙で、個人的にはCX-30よりも好みだ。ただし、スカイアクティブXは、スーパーチャージャーや24Vのハイブリッドシステムなどによってパワートレインがかなり重いため、軽快な感じはしない。その代わりとは言っては何だが、車重が重い分重厚な乗り味になっている。

またドライバーとして、積極的に運転している限りマツダ 3は乗り心地もハンドリングも納得できるものを持っているとは思うが、パッセンジャーとして受動的に乗っているとやや不満点も出てくる。前にも述べた通りライバルのゴルフ8.5やプジョー308は、どのような路面であってもしなやかにショックを吸収する足回りを持っていることを考えると、あともう少し洗練されると大切な同乗者にも優しいクルマになるのではないかと思う。

e-SKYACTIVE Xは特別なエンジン

さて、注目のスカイアクティブXだが、このエンジンは量産ガソリンエンジンとしては世界初となる、ガソリンエンジンでありながらディーゼルエンジンのような圧縮着火燃焼を制御する火花点火制御圧縮着火燃焼(SPCCI)方式の燃焼制御技術を採用しており、全国発明表彰の「日本弁理士会会長賞」を受賞した誉れ高きエンジンなのだ。

ディーゼルエンジンのいいところをガソリンエンジンに持ってきた「スカイアクティブ-X」内燃機はまだまだ改良の余地があるということか。

まさにディーゼルエンジンのような感覚のするガソリンエンジンだ。ディーゼルエンジンのような感じがするのはイグニッションオンの瞬間と低速走行中くらいだが、ディーゼルエンジン好きの筆者としては好きになれるガソリンエンジンである。アイドリングはものすごく静かで、エンジンがかかっていることを忘れてしまうほどだし、6,000回転くらいまでの回り方も実に滑らかで心地よい。発進時などの低回転の領域や、低い速度からの粘り強さは頼もしいものがある。そこに24ボルトのマイルドハイブリッドシステム(ISG)が有効に作用してスムースな走りをもたらす。

高応答エアサプライ(スーパーチャージャー)は高圧な空気を短時間にシリンダー内へ送り込むために搭載されており、マツダも「今は過給機として使わず、送風機として使っている」と述べている。そんなこんなで、普通に走っている限り今自分が乗っているのは世界唯一のSPCCI(火花点火制御圧縮着火燃焼)の特別なエンジンであるということを実感できる部分はないのだが、実はディスプレイにエンジンの「現在の点火状況」を表示することができるのであった。深い階層までいかなければ表示できないのはもったいないので、メーター内に小さくとも表示してくれるようなインジケーターでもあったら、オーナーが今自分が乗っているのはスカイアクティブXだと嬉しくなるような満足度と優越感はさらに高まると思うのだが、そのそっけなさと控えめな感じがやはりマツダなのであった。

エンジンのそのものは特に低回転域の力強さは十分満足するものであったし、1000回転くらいからあえて高いギヤに入れても実に粘り強く加速する。あえてエンジンを回さなくとも十分以上に力強いが、きちんと(?)適宜シフトしながら走ると、SPCCIだなんだと小難しいことを言わなくとも、本当に扱いやすく自然でいいエンジンであると感じた。

ソウルレッドクリスタルメタリックは「マツダ 3」にも良く似合う。

だからこそ普通のガソリンエンジンモデルに20万円程度足したくらいで(ということはディーゼルエンジンくらいのコストアップで)、レギュラーガソリンを使って走ることができるSPCCIが出て来た時、開発陣の思い描いた夢が初めて開花するのではないかと思う。2027年に発表されるスカイアクティブZは、きっとそういうエンジンなのだろう、と勝手に期待し、発表を心待ちにしていたい。

あらためて考えてみればこのSPCCIそのものも、内燃機関の存続と究極を追求して開発したものであって、わざわざ特別感のあるエンジンを作ろうと思っていたわけではない、と思う。おそらくスーパーチャージャーもマイルドハイブリッドも開発途上で追加された部分かもしれないし、そもそもはプラグを使わないディーゼルエンジンの良さとガソリンエンジンのいいとこどりの夢のエンジンを開発しよう、というところが出発点だったのではないか。そういう意味では、このSPCCIがごく普通のエンジンとして普及し、多くのマツダのモデルで選べる時が来た時点が目標達成ポイントであったのであろう。とびきりの価格の高さも含め、現状は出たばかりの初物のスイカやマツタケのようなものと考えた方がよい。
 
今回は都会の渋滞路から高速道路、かなり長い山岳路などを走って14.2km/lと悪くはない燃費だったが、SPCCIだからと特筆すべき数値の燃費ではなかったし、高価なハイオクガソリンを入れなくてはいけないという現状では、ちょっとこのエンジンの有効性に小さく疑問符はついてしまう。だが本当に世界初の技術を持つエンジンとして、最初からこれだけ自然で、だれが乗っても違和感のないものに仕上がっていることと、これからも内燃機関の可能性と希望を追い求めたという志の崇高さが実にマツダらしいし、うれしく思う。

次に乗る「マツダ 3 セダン」の全長はファストバックの20cm増し。乗り心地にどう影響するのか?

さてそんな今は特別なスカイアクティブXを搭載したマツダ3ファストバックから、ごく普通のエンジンを搭載したマツダ3のセダンに乗りかえる時間となった。個人的には今回一番楽しみにしていた一台である。乞うご期待。

Text&Photo:大林晃平