やっぱりこれが一番!「マツダCX-5」 マツダの市販乗用車イッキ乗り その5
2025年10月2日

だがこのもうじき販売が終了してしまう今のCX-5に魅力がないかというと、まったくそんなことはなく、むしろ今あえて購入することをお勧めしたい一台である。正直言って「今一番お勧めしたいマツダのクルマ」と言う台詞さえ頭に浮かぶ。
なにより今回の試乗車であるレトロスポーツエディション(2輪駆動)というグレードは助手席には電動パワーシートもつかない簡素なお買い得モデル(?)なのだが、それでも考えられる装備品はすべてついた状態でオプションなしの価格は3,745,500円で、さっきまで一週間乗っていたCX-30(1.8のディーゼルエンジンのこちらは4輪駆動でオプション込みなので3,876,791円となる)との価格差逆転現象にちょっと驚いた。

後席の居住性は申し分ない。
言うまでもなく現行CX-5はモデル末期状態なため、特別仕様車やなんとかパッケージや、なんたらエディションなどなど、そのグレード展開などが実に混迷を極めた複雑なものになっており非常にわかりづらい状態なのだが、これをベーシックなディーゼルエンジンのグレードという尺度で2車を比較するとCX-30(XD S PACKAGE)が3,034,900円(2駆)、3,271,400円(4駆)、一方の CX-5(XD I SELECTION)が3,129,500円(2駆)、3,360,500円(4駆)という価格差になる。いずれも税込み価格だが、差額はざっと9万円といったところだろうか。
これだけのクラスの違い、乗って感じる各部の厚さ、そしてパワーユニットの圧倒的な大差を感じながら、CX-30とこれだけの差額しかないのか、と思うとやっぱりCX-5は売れるわけだよなぁとも思う。
そして、今のマツダのラインナップの中でコストパフォーマンスに優れているのはこのCX-5とロードスターなのではないか、とも考えてしまう。売れるべくして売れるものには、やはり理由があるし、特に日本のユーザーは本当に目が肥えていて正しい価値観を持っている、ということも事実であろう。
だからこそ、本当にくどくなってしまうが、そうであるからこそ、ディーゼルエンジンの設定を廃止してしまったり、事情によっては車庫証明が新たにとれないユーザーを生んでしまうようなボディの拡大や、使いやすいコマンダー式のスイッチの廃止など、安易に今のユーザーを切り捨てるようなことをしてはあまりにもったいない。
CX-5には乗る者のことを考えているとしみじみ痛感する、本当に気の利いたディテールがいくつもある。センターコンソールの部分には小さい溝がついているのだが、それがセンターコンソールの内部にあるUSBソケットにつないだコードを、蓋を閉めた状態でも逃がすことのできる溝、であるということは使ってみて初めて分かる溝である。地味でトリセツにも記されてはいないが、こういう部分こそ設計者の優しさと愛を実感できる部分なのではないだろうか。

センターコンソールの蓋を閉じてもこの溝のおかげでコードは潰れない。
リヤシートに座った子どもとリヤゲートの荷物を取り出す際にも顔を見ることのできる、一部ネットになったトノカバー、荷物に遮られず足元部分まで照らすことのできるリヤゲートに設置されたカーゴスペースの照明……どれも乗る人のことを考えた細かく地味な配慮だが、そういう積み重ねこそが開発者の愛であり、それらの気遣いがあってCX-5はここまで多くの人に支持され愛用されているのだと思う。
だからこそ……次のCX-5にも今のモデルから何も失わず、より一層の魅力のある自動車になってほしい。近い将来に新型CX-5が発表された時、「ちゃんと日本市場向けには全幅を抑え、ディーゼルエンジンモデルも残しておきました~」、そんなマツダの優しいサプライズを心待ちにしていたい。

一週間つきあって「「やっぱりこれが一番」と感じるほど、なんとも懐が深く魅力溢れる、熟々な現行CX-5から去りがたい気持ちを抱きながら、発表から10年が経過したCX-3に乗り換えた。
Text&Photo:大林晃平