フェラリスタにとって懐かしいネーミングが復活した。「フェラーリ849テスタロッサ」の登場だ
2025年9月30日

去る9月24日、東京・高輪の会場にて、フェラーリ ジャパンは同社スポーツカーラインナップの旗艦モデルとなる「フェラーリ849テスタロッサ(Ferarri 849 Testarossa)」の発表会を催した。
まずはフェラーリ ジャパン代表取締役社長 ドナート ロマニエッロ氏が登壇。いつも通りスタッカートの効いた日本語で今日の主役を紹介する。「オットクワットロノーヴェ テスタロッサ」。氏がネイティブスピードで読み上げるモデル名は、それだけでロマンチックに響く。849テスタロッサはSF90ストラダーレの後継車。同社が放つ最新のプラグインハイブリッド ベルリネッタである。

「テスタロッサ」の名称は1955年マラネッロにて、ある整備士が余った赤い塗料で高性能エンジンのヘッドカバーをマーキングしたことに始まる。849テスタロッサのモデル名は、「テスタロッサ」を初めて名乗った500TR(1956年)を始めとする歴代名マシンのレガシーに根ざしていると同氏は説明する。なお、「849」の「8」は8気筒に、「49」は499ccの気筒当たり排気量に由来する。

次いでロマニエッロ氏の紹介を受けて、この日のために来日したプロダクト マーケティング マネージャーのマルコ スペソット氏が登壇、車両説明に移った。
冒頭スペソット氏は、先日発表になったアマルフィがエレガンスを前面に出したGTなのに対して、849テスタロッサはその対極にあり、一切の妥協を廃したパフォーマンス最優先のスーパースポーツカーだと位置づける。
エンジンは4リッターV8ツインターボ(社内呼称F154FC)。構成コンポーネントを全面的に見直し、SF90ストラダーレ比で50PS増しの最高出力830PSを達成した。さらにターボチャージャーに関してはコンプレッサー側とタービン側両方の素材と空力面を最適化することでターボラグを最小限に抑えている。

Photo: Ferrari
849テスタロッサでは、フロントに2つ、リヤに1つ、計3基のモーターをエンジンと組み合わされる。従って4WD(フェラーリでは「e4WD」と呼ぶ)であり、フロントモーターはトルクベクタリング機能を有する。バッテリー容量は7.45kWh、EV走行の航続距離は25kmだ。システム最高出力は1050PSを実現。動力性能は圧倒的で、最高速度330km/h以上、0-100km/h加速2.3秒以下、0-200km/h加速6.35秒を標榜する。

Photo:相原俊樹
「強力なパワーもコントロールできて初めて意味があります」。スペソット氏はそう前置きして、ビークルダイナミクスに話を進める。
この分野での注目はFerrari Integrated Vehicle Estimatorの頭文字を採った「FIVE」と呼ばれる推定システム。車速やヨーアングルなどを正確に推定することで(前者の推定誤差1km/h未満、後者の推定誤差1度未満)、トラクションコントロールや電子制御ディファレンシャルのマネジメント、e4WDの効果などを高める技術だ。
例えばブレーキを司るABS EVOはFIVEの推定値を使って4輪の目標スリップ量を特定、制動力を最適に分配する。これによりドライバーは自信をもってハードなレイトブレーキングを敢行できるという。
849テスタロッサほどの高性能車ではエアロダイナミクスは重要なデザイン要素で、冷却性能の最適化とダウンフォースの増強をおもな目標に据えた。総ダウンフォース量は車速250km/hで415kg。SF90ストラダーレから25kg増加した一方、冷却性能は15%向上している。
良好な空力特性を目指しながらも、マラネッロの技術陣は過去のデザイン要素をオマージュすることを忘れていない。その好例が1970年に登場したプロトタイプスポーツカー512Sからヒントを得たツインテールだ。リヤホイールアーチ上面を流れる気流を左右2つのウイングに導き、これだけでリヤダウンフォースの総量の10%を生む実効を上げている。

インテリアのマンマシンインタフェースでは、ステアリングホイール上にデジタルとアナログを融合させた点が特徴で、SF90で見られたエンジンスタートボタンを始めとして物理スイッチを残している。

デジタルとアナログを融合させたステアリングホイール。SF90で見られたエンジンスタートボタンを始めとして物理スイッチを残している。ステアリングホイールのすぐ横にはMTシフトゲートを模したスイッチが位置する。

Photo: Ferrari
なお、849テスタロッサにはスパイダーモデルもラインナップするとともに、オプションパックのアセットフィオラノが用意される。

Photo: Ferrari
実際に目の当たりにしたフェラーリ849テスタロッサは、写真で見るよりずっと美しく魅力的だった。フラヴィオ マンゾーニ率いるスタイリングセンターが生み出した外形は、なるほどフェラーリが言うように1970年代のスポーツプロトタイプをインスピレーションとしているようで、個人的にはノーズの形状が1970年登場の365GTB/4 後期型に一脈通じているように感じた。
急速に進歩する各種電子制御装置の統合制御に関するテクノロジーを充分吟味したうえで、最新技術の集大成を顧客に届けたいというマラネッロのプライドと良心を形にした力作――。この日、849テスタロッサを間近に見た感想だ。フェラーリのスポーツカーラインナップの旗艦モデル849テスタロッサ。フェラーリスタにとってはガレージに欠くことのできない1台がまた増えたことは間違いなさそうだ。
Text:相原俊樹
Photo:アウトビルトジャパン