これはまさに獣だ「メルセデスAMG GT ブラックシリーズ」ニュル最強のAMGをサーキットでテスト
2020年12月13日
911の影に隠れて6年、メルセデスAMG GTにとっては辛く厳しい時代だった。しかし今、メルセデスAMG GTは何ものをも、そして誰も恐れない、トラックツールへと成長した。
AMGスポーツカーシリーズのフラッグシップモデルにはレース仕様のテクノロジーが搭載されている。最新型AMG GTブラックシリーズは、ボンネットの下に730馬力、ワイドボディのスケートボードのような低空飛行姿勢、そしてそびえ立つ2段式のリアウィングを兼ね備え、いかにもあなたの近くのサーキットを制覇しようとうずうずしているように見える。
フロントエンドの接地感を高めるために、ブラックシリーズはさらにカーボンファイバー製のアンダートレイをグリルに取り付けた。ざっと見ても、ディフレクター、ウイングレット、スラット、フィン、ディフューザー、フラップ、ダクト、ルーバーなど、数えきれないほどの装備を見ることができる。これらのデバイスは、最大500キロものダウンフォースを生み出すと言われており、これは競合他車にとっては驚異的な数字だ。
走りやすさを追求してツインターボV8は変更された
AMGは、より優れた出力性能を得るために、エンジンの特性を完全に改良した。ボンネットの下に備わったV8ツインターボユニットは、6700~6900rpmの回転域で、730馬力の最高出力を発揮し、カーボンファイバー製のボディを揺らす。0から100km/hまでは3.2秒、0から200km/hまでは8.9秒、そして0から300km/hまでは25.4秒という加速タイムとそのパワフルな推進力はまさに弾丸的なものだ。部分的に再設計された4.0リッターV8と、素材の変更による約50kgの軽量化、低重心化、極限のエアロダイナミクスと相まって、GTブラックシリーズはスーパーカーからハイパーカーへと昇格したと言える。
AMGはこのことを実現するための努力を惜しまず、ブラックシリーズのために2種類のタイヤコンパウンドを用意した。ミシュランのよりソフトなMO 1Aが標準で装着されているが、ホットなレーストラックデイ用に、MO 2(つまりメルセデスオリジナルタイヤ)を注文することもできる。285/35 ZR19と335/30 ZR20の4本のミシュランカップタイヤによる強力なトラクション、ロードホールディング、コーナリンググリップによって、見事なコーナリング性能を発揮する。中でも10点満点中10点というスコアは、驚異的な制動力を備えた巨大なカーボンセラミックブレーキに与えられる。
レーストラックでブラックシリーズが発揮するパフォーマンス
AMG GTブラックシリーズのレーストラックにおけるステアリングの正確さと横方向のコントロールは、スタート直後から、まるで別の惑星から来たようなもののように感じた。高性能のタイヤに加えて、調整可能なフロントスプリッターと機械的に調整可能なリアウィングを兼ね備えた、洗練されたエアロダイナミクスも助けとなっている。その結果、最高の高速安定性を実現している。高速コーナーを、フロントではグリップのあるタイヤが1.5トンのボディを見事に維持し、リアでは優れたエアロダイナミクスが効果的にオーバーステアを防止しながら、寸分の狂いなくクリアする。コーナーから起ち上がるやいなや、730馬力は再び最もホットなメルセデスAMG GTブラックシリーズを猛烈なパワーで加速し始める。この日、ブラックシリーズがストレートで記録した最高速度は、272km/h、データシートには、326km/hまで可能と記載されており、信じられないほどの速さだ。そして、これだけの重量、質量、慣性にもかかわらず、各コーナーでは驚くほど安定しており、常にラインをキープし、あらゆるコーナーをターボマッスルで駆け抜けていく。
テクニカルデータ: メルセデスAMG GT ブラックシリーズ
● エンジン: V8ツインターボ、ミドルフロント縦置き ● 排気量: 3982cc ● 最高出力: 730PS@6700~6900rpm ● 最大トルク: 800Nm@2000~6000rpm ● 駆動方式: 後輪駆動、7速デュアルクラッチ • 乾燥重量: 1540kg ● 0-100km/h加速: 3.2秒 ● 0-200km/h加速: 9秒 ● 最高速度: 325km/h ● 平均燃費: 7.8km/ℓ ● CO2排出量: 292g/km ● 価格: 335,240ユーロ(約4,190万円)より
結論: これはまさに獣だ。
6台目のブラックシリーズは、すべての超絶技巧を炸裂させる。それは信じがたいレベルでのダイナミクスを備え持ち、高速ラップのために完璧に設計されているにもかかわらず、アマチュアでも決して焦る必要のないコントロール操作が可能だ。ブラックシリーズが、公道レーサーに生まれ変わったのは、いったい何があったからなのだろうか?決め手のひとつは、拡張された適合性の高さであり、部分的に再設計された軽量シャシーは、強固なアルミ製マウントとブッシュを介してボディに取り付けられるようになった。これらの措置により、ボディとシャシーの一体的な剛性が強化され、結果的には、より正確なステアリング、強力なロードホールディング、そして最も重要なことに、本当に記憶に残るドライビングプレジャーを実現している。ここで一つだけ疑問を呈するならば、この派手なテクノロジーパック、驚異的なパフォーマンスは、果たしてこのような莫大な価格を正当化するものなのだろうか?その答えはノーだ。もしそれが無為に公道で一生を過ごすのであれば、である。しかし、折に触れてサーキット走行を楽しむのであれば、社会的に受け入れられるかどうかの問題はさておき、オーナーにとっては正当化されるのではないだろうか。
AUTO BILDテストスコア: 1-
すでに何回か報告してきたように、メルセデスAMG GTブラックシリーズは、AMG GTをさらに過激なスペックにした「辛口」バージョンである。辛口といっても昔のクルマではないから、エアコンもオーディオもナビシステムなどもそのままで、そういう部分での快適さは持っているのが21世紀である(かえって、そういう装備のないクルマを新たに作る方が厄介で面倒くさいことなのだろうと思う)。
本文中にもあるように、これだけの性能を持っている車となると、サーキット、それもかなり大規模なサーキットでなければ実力など出すことができないまま終わってしまうだろうし、公道で踏み込んだ日には周囲に迷惑をかけてしまうような突き出た性能の持ち主である。
だからサーキットも走れる一般車なのか、公道も走れるレーサーなのかは判断がつきにくいが、このとびきり低い車高だと段差の関係で入れるガソリンスタンドも制限されるだろうし、リアウィングの形状を考えると後方視界はかなり厳しいものであろう。そう考えるとサーキットが主戦場なのかもしれないが、いずれにしろ毎日使うというクルマではなく、ハレの日のためのハイパフォーマンスな一台というのがブラックシリーズの立ち位置なのだと思う。
Text: Alexander Bernt
加筆:大林晃平
Photo: Daimler AG