【レトロな車】疑惑のBMW。幻のツーリングモデルが存在した?

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BMW7シリーズにワゴンモデルが?

スイスで80年代のBMW735iのツーリングが売りに出されている。カタログには存在していた記憶のないワゴンモデルが一体なぜ?

 BMWはステーションワゴンモデルをツーリングと名付けているのはみなさん御存知の通り。現在のラインナップをみてもこのツーリングは非常にメジャーな存在である。
 しかし、意外にもその歴史は浅く、最初のカタログモデルは1987年に発売された3シリーズ(E30型)のツーリングである。ここに端を発し、3シリーズだけでなく5シリーズにもツーリングモデルが追加され現在に至るが、今をもって7シリーズのツーリングは存在したことはない。

 その意味では、今回のスイスでの発見はなかなかショッキングである。しかも、最初のカタログモデルであるE30よりも前の時代、最初の7シリーズとなったE23型を元にしたもので、文字通り大変珍しい一台である。

 このファーグリーン(fir green)と呼ばれる緑のBMW735iツーリングは1983年3月に初めて登録されており、ご覧の通り、いくつかのディティールについては疑問が湧くものの、全体としては量産モデルと見紛う出来である。
 ちなみに、メルセデスのSクラスのような、フルサイズサルーンが存在しなかった当時のBMWにおいて、満を持してリリースした最初の大型サルーンが、この1977年デビューの7シリーズE23だ。その後86年まで以後10年にわたり生産が続けられたが、ツーリングモデルが存在したという記録はない。
 現在まで、BMWは7シリーズのステーションワゴンを公式にラインナップしたことはなく、そればかりか、ライバルのアウディやメルセデスであってもA8アバントやSクラスのTモデルを販売したという事実はない。

大きくリアゲートを開くBMW 7シリーズ。荷物室などの仕上げはなかなか良さそう。リアゲートに装備されているのは、オーディオのスピーカーだろう。

 もちろん、ブルネイのサルタン国王のために少量生産されたSクラスのステーションワゴンなど、ワンオフのスペシャルオーダーモデルこそ存在するものの、根本的にフルサイズサルーンの主戦場であるラグジュアリークラスと、いわゆるステーションワゴンは、お互い相容れない存在だということなのかもしれない。

アウディA8アバント? 2001年のIAA(フランクフルトモーターショー)で、アウディもアバントのコンセプトモデルを発表したが、残念ながらシリーズ化されることはなかった。全体のフォルムはなかなか流麗で悪くはない。 ©Audi MediaCenter

プロトモデルは存在するが…。

 では、このBMW 735iツーリングの歴史に迫ってみよう。
ネット上にはこの車に関する噂や憶測が飛び交っているが、とあるフォーラムでは、この車両は1980年のIAA(フランクフルトモーターショー)で発表された、BMW製の公式プロトタイプではないかという書き込みが散見されるが、我々の調査によれば、BMWが1980年のIAAで、7シリーズツーリングを発表した事実はない。
 厳密にはBMW確かにE23のステーションワゴンを作ったという記録はあるが、それはあくまでも社内でのプロトモデルとしてだったので、外部に漏れることは考えにくい。
 ちなみにネット上にはこのプロトモデルの写真があるようだが、それを見比べても、プロトモデルが傾斜したCピラーを持つのに対し、このスイスで販売されている735iツーリングはストレートなCピラーを備えているので、両者は別物と考えるのが妥当である。

疑惑の真相はイギリスに

 我々の得た情報によれば、この735iツーリングは、どうやらイギリスのクレイフォード社による改造というのが真相のようだ。ちなみに3台が生産された。そのクライアントは、現在も存在するBMWのカーディーラー「Euler」。
 インサイダー情報によれば、3台作られたうちの1台はドイツのコレクターの手に渡ったようだが、当時ドイツでは、このクルマのリアの構造変更(ワゴンモデルへのコンバート)が、検査基準をパスしなかったため、90年代にはアメリカに流出したとの情報もある。2台目の個体は行方不明。そして、今回のスイスの3台目が、いま様々なメディアで話題になっているというわけだ。

内装はよく整備されているようで、10,000マイルほどの走行距離と相まってベージュのベロアシートには摩耗の痕跡は見当たらない。リアシートにヘッドレストが見当たらないが、ヘッドレストはないのだろうか??

 また、この三台のうちの一台が2011年初頭に、ネットオークションのeBayで販売されていたともいわれているが、当時の記述によると、スピードメーターの数字は約10,000マイル(約16,000キロ)であり、ボディには錆の問題があるとされていたが、今回の車にはそうした部分が合致しない。写真のように内装はベージュのベロア、外装は「ファーグリーン」。少なくともサビや欠陥のない絶対的なトップコンディションだ。
 余談だがこの735iのリアライトはBMW 02(1973年~1975年)のものを流用している。

 今回の車を所有する、スイスのディーラー「Flückiger Automobile」は、この個体はとあるBMWのコレクターから直接購入たものだとコメントしている。

まだある疑問

 彼らの広告には、エンジン出力が204馬力と記載されているが、735iの3,430ccの直列6気筒エンジンは218馬力だったほずだ。もちろん、単なるタイプミスかもしれないが…。
 現時点での総走行距離は16,000km。前述のeBayで販売されていた2011年当時にも、同じ総走行距離の約10,000マイル(約16,000km)だったが、こちらはメーターの交換が噂されていた。

ややデザイン的には破綻がある。各部の仕上がりも工芸品というレベルではない。

果たしてお買い得物件か?

 なおこのBMW735iツーリングは、レストアものの疑惑もある。現時点での走行距離もレストア後のものという見方もある。

 気になる価格は、現在12万スイスフラン(約1,400万円)だという。この価格は希少性という意味では妥当な金額かもしれないが、サードパーティによる非公式な改造車という意味では妥当な金額と価値なのかは疑問である。
 ちなみに値引き交渉可能ということも付け加えておこう。

リアシートは可倒式ではないので、荷室のスペースはこのままだ。右のふくらみの中にはスペアタイヤが収まっているはずだが、その部分の仕上げと比較すると左の部分のパネルは「ビス止め」でちょっと「やっつけ仕上げ」的な感じがする。リアゲート周辺の仕上がりは悪くはなさそうな感じではあるが、ウエザーストリップなどの形状を見ると、雨漏りの心配もある。

Text: Jan Götze
加筆: 大林晃平
Photo: Happier cars