「ニッサン スカイライン」に愛はあったか?
2025年7月28日

日産車の乗用車ラインナップの代表的な車種に乗って試す本企画の4台目は「日産 スカイライン400R(Nissan Skyline 400R)」。ニッサンの象徴とも言える伝説の「スカイライン」は今でも通用するのか?
「僕らは、このドライブの経験からプリンス・スカイラインに対する従来からの愛好と信頼の念を益々深めた。高速における優れた走行安定、乗用車(スポーツカーではない)としては抜群のロードホールディング、確実なスティアリング等の諸点が、特に印象的であった」(モーターマガジン1958年10月号より 原文のまま。小林彰太郎著)
70年近くも前の記事を何をいまさら、と言われるのを覚悟で引用させていただいたが、別にそれは冗談でも悪乗りでもない。そもそもスカイラインというのは、今まで故事や歴史によって作られてきた自動車だと思っているし、恐れ多くも引用させていただいた(カーグラフィックを創刊する以前に、モーターマガジンに投降した)偉大なるモータージャーナリストである小林彰太郎さんのスカイラインの評は、今も最新の400Rに適合すると思ったからである。
日本の高度成長期と自動車の発展に大いに貢献してきた、あるいはともに歩んできたクルマと聞いてすぐに頭に浮かぶのは、現存する車種としてはカローラ、クラウン、そしてスカイラインなのではないだろうか。
特にスカイラインの場合、単にハードウエアだけの面ではなく、桜井真一郎さんとか、鈴鹿サーキットを(一周だけ)ポルシェの前を走った車、そして様々な時代を華やかなCMと共に彩ってきたイメージの強い自動車、そんな構図が頭に浮かぶ。

その結果、モデルチェンジのたびに「こんなのスカイラインじゃない」と愛好家に言われ続け、大きくなったり小さくなったり、ハードトップになったりセダンになったり、リヤランプが丸く点灯するようになったり、と紆余曲折を繰り返しながら今のV37 になって早10年以上、さて頃は巷では今もこの車はスカイラインとして認められているのだろうか、と思いながら今回お借りしたスカイラインの高性能モデルたる400Rに乗り込む。普通のGTモデルよりも約100馬力もパワーのある、史上最強のスカイラインである。
光の加減で黒にも緑にも紫にも見える400Rに乗り込んで思うことは、いい意味でも悪い意味でもやや時代遅れの部分が散見されることだ。久しぶりに出会った足踏み式のパーキングブレーキ、控えめながら用意されたCDスロット、今やスマートフォンと同じくらいのサイズのナビゲーションシステム、多くの物理式スイッチとメーター、そして明らかに灰皿設置部分として用意されたと思しき小物入れ部分……。


基本設計は10年、いや15年くらい前だったであろうことが推測されるし、その頃はこれが最新システムであったことは間違えない。だが2025年の現在、他車と見比べた場合、明らかに「他とは違う」ものであることも確かである。
だがそれを否定したり皮肉を言っているのではなく、実はそんな部分が懐かしくもちょっと好ましく、これこそがスカイラインらしさであると感じた。
機能面で本当に困るのは機械式のため自動的に保持することのないサイドブレーキと、プロパイロット2.0はおろか、普通のプロパイロットにも劣ってしまう(完全自動停止した後、止まっていることができない)クルーズコントロールくらいであろうか。とにかく、なんとなく蛮からで、ちょっと垢抜けないながらも使いやすい機能的な内装、その部分はやっぱりまごうかたなきスカイラインである。
10年選手として見劣りする部分は皆無だし、よく言えば成熟された感じさえするまろやかな乗り味が第一印象だった。
400馬力と聞くとつい身構えるが、街中で普通に乗っている場合、400Rはひたすら滑らかで、一切の気難しさを感じさせないまま快適に走るGTセダンである。普段は2500回転も使うことなく十分速いし、そういった乗り方の場合にはだいたい10km/lという燃費を記録した。400馬力サルーンとしては納得だと思う。(プレミアム燃料は要求されるが)

高速巡行においても、あるいはちょっと空いたワインディングロードなどで頑張ったとしても、一般路上ではその405ps/475Nmという強力なパワーを使い切ることなど到底無理だし、そもそもこれはガンガン攻撃的に乗るような車ではない。そもそも歴代のスカイラインもスポーツカーではなく、あくまでもGT=グランドツーリングカーなわけだし、心に余裕をもち、紳士的に乗るべきである。

そしてそんな乗り方をしていると、このちょっとおやじテイストな(笑)、旦那仕様ともいえる快適重視のセッティングの乗り味や、ちょっと遠くで実にいい感じで回っているエンジンの回転感が実に癒し感覚で心地よい。ステアリングがバイワイヤになっていようが、ブレーキキャリパーが赤く塗られていたとしても、そんな些末なことなど頭の中からいつの間にか消えてしまうし、この安楽だが自動車を運転する感覚がしっかり残っている感覚はなんともおじさんにはいい感じである。
正直な感想だが、たとえ10年選手の自動車とはいえ、こういう年齢を重ねた者が安心して身をゆだねることのできるセダンが日本にまだ存在していたことにちょっと安心した。やや大きいことと(とはいっても全幅は1820mmと今や決して大きすぎない)、245/40R19の扁平タイヤ、そしてやはりクルーズコントロールが時代に追い付いていないことだけは心配だが、それ以外はおじさん(おじいさん)が迷うことなく扱うことのできるセダンだと思う。そしてそれこそがスカイラインが、今まで長年歩み続けて来た道の上の、「今の姿」なのではないだろうか。

日本人のためにひたすら歩んできたクラウンが「あっち」のほうに行ってしまった今、スカイラインはこの浪花節路線ともいえる道を、日本のおじさん(おじいさん)たちのためにどうか最後まで迷わずに進んでいってほしい。そんなの売れないよ、と言われるかもしれないが、そもそも桜井真一朗や鈴鹿伝説を知っている年齢層の人たちだって永遠に生きているわけではないし、いつかはスカイラインの伝説を知っている人が皆無な日も来る。だがその日まで、スカイラインは日本のおじさんたちが、安心して購入して乗れるセダンとして歩んでいてほしい。欧州と比べてとかダサい、時代遅れなどと言われたっていいじゃないか。おじさんたちに愛のあるセダンをなくさないでおくれ。

そんなスカイライン400Rの価格は車両本体価格が5,899,300円。今回の広報車両にはBOSEプレミアムサウンドシステム(223,300円)、ブラウンインテリアパッケージ(100,100円)、ミッドナイトパープルのボディカラー(55,000円)、サンルーフ(121,000円)、ウインドウ撥水処理(11,935円)、日産(86,972円)、プレミアムフロアカーペット(58,080円)が加わり合計6,555,687円であった。決して安い価格ではないが、出自がインフィニティであると考えれば妥当な値段だし、ライバルのヨーロッパ車よりももはや割安にも思える値段設定といえる。
インプレッションの結びになんともおそれ多いが、敬愛する小林彰太郎氏が1958年にしたためた文章を再度引用させていただくことをお許しいただきたい。
この世の中で何が楽しいと云ったって、気の合う仲間3人、よい車で、交通の全くない山間の曲がりくねった道を、思いっきりブッとばす位愉快なことはないと思う。名所旧跡を訪ねるのでもなく、風光を愛でるのでもない。唯ドライブそれ自体を楽しむためにドライブするのだ。
そんな目的には最新のスカイライン400Rはぴったりでした、小林さん。
Text&Photo:大林晃平