これはいいぞ!激しく進化した「日産 ノート」はコンパクトカーの白眉
2025年7月17日

最新型の日産代表車を一週間単位で貸していただき、忖度なく感想を記すという不躾な企画。今回は最新型「日産 ノート X FOUR 4WD」に乗ってみた。
今回最新型のノートに試乗するに先立ち、僕の近しい方が新車から愛用しているノートをお借りして乗ってみることにした。亡くなったお父様が生前に買ってくれたというノートは、9年間愛され、家族の一員として日々酷使されてはきたが、とにかく大切に使われてきた、ということは車が醸し出している雰囲気からはっきりとわかる。
まずは新車から9年間、11万キロを愛用した2016年式「日産 ノート e-Power メダリスト(HE12)」のオーナーの生の言葉を記したい。
「ハンドルがどうのとか、乗り心地がどうの、という自動車の性能のことは全くわかりませんが、とにかく3本目の足として今日まで走ってくれて、心からありがとうの言葉しかありません。困るところですか?とにかく冬場、冷えている朝とか暖房が全く効かなくて、いつまでも寒い、本当に寒いので毛布を積んでおいて包まりながら、震えながら運転しています。新しいのはその点、なんとかなっているのか、それだけが気になります」続けて「でもとにかく日産は地元だし、工場もなくなるのではないかと聞くと寂しいです。ノートの前はステージアでしたし、その前はエクストレイルでした。祖父はハコスカってのに乗ってたって言ってましたし(笑)、父も親戚もみんな日産のクルマばかりで……どれもいっぱい思い出を作ってくれた大切な日産の自動車でしたから」とのこと。
ちなみに初代ノートに備わっていたワンペダルドライブは10年間、そういう装備がついていることも今日まで知らずに乗り続け、一回も使わないままとのこと。(担当セールスの方からも、そんな仕組みのことがついていることは聞いたことがない、という)
以上のコメントが日産本社に伝わるといいですね、とオーナーに伝えてキーをお返しした。
きもちいいインテリア
さて、最新型ノートのカタログを見て恥ずかしながら初めて知ったというか、軽くショックを受けたことは、ノートはもはやモノグレードだったことだ。2輪駆動と4輪駆動(four)の二種類が存在しているにせよ、いずれも「X」というワングレードのみ。
今回貸していただいたのは「日産 ノート X FOUR 4WD」(2,580,600円)に、ターコイズ・ダークメタルグレーの2トーンカラー(71,500円)、アダプティブLEDライト(66,000円)、LEDフォグランプ(26,400円)、クリアビューパッケージ(25,300円)、プロパイロット、アラウンドビューモニター、ETC2.0 、ナビゲーションシステムなどがセットオプションとなったパッケージオプション(462,000円)、ウインドウ撥水処理(13,255円)、日産オリジナルドライブレコーダー(84,574円)、フロアカーペット(30,800円)、トノカバー(26,400円)が加わり、3,386,829円のクルマであった。特に、トノカバーが決して安くはないオプションであることにちょっとびっくりした。

日産本社の地下駐車場で対面した、鮮やかなターコイズブルーに塗られたノートのドアを開けた瞬間、とても嬉しい気持ちになった。なぜならばそこには薄いベージュに彩られたファブリックのシートと明るいインテリアがあったからで、もうこれだけで自動車の印象がぜんぜんちがう。馬鹿の一つ覚えみたいに、本革シートばかり礼賛している自動車メーカーの風潮には辟易しているので、こういうファブリックのふんわりしたノートのシートに座れただけでとにかく嬉しい。
セレナのシートよりも明らかにふんわり心地よいシートに座りコントロール類を確認するが、エアコンのコントロール類がちゃんとダイヤル・スイッチ式になっていて使いやすいこと、ボリュームなども回転つまみで使いやすいこと、さらにはセレナでは中立位置にもどってしまうウインカーレバーが機械式だったことに心底ほっとする。

そういう部分に安心してしまうのは還暦を迎えた古い人間だから故なのかもしれないが、とにかく自動車としての基本的な操作性として正しいのは、ブラインドタッチできずに、イライラすることの多いタッチスイッチではなく、機械式で「古い」こちらの方なのではないだろうかと改めて思うし、ドイツのアウトビルト編集スタッフもリアルスイッチの方がいいと言っている。

フランス車のようなやさしさ
走り始めてもシートのふんわりした好印象はそのまま続き、なんとなく古いフランス車のような印象さえ抱きながら酷暑の中、エアコンを寒いほど効かせてノートは横浜の街を行く。特に低速領域において、荒れた路面では落ち着かない乗り心地の時もあるが、速度を上げると気にならなくなり、やはりふんわりした好印象のままだ。この感じはたとえて言えば、シトロエンZX シュペールみたいな感じ……とはあまりにたとえが古くて申し訳ない(笑)。
一方、先ほどまで乗っていたセレナと大きく異なるのはエンジンからの音が顕著に入ってくることで、セレナがいつエンジンが始動し止まったのかがわかりにくかったのに対し、こちらは明らかにエンジンの存在感が大きい。回生ブレーキの時の音や電動ファンなどの始動も明確にわかるし、同じe-Powerシステムなのに、セレナとはまるで違う感覚であるが、僕はこれでいいと思う。少なくとも日産のベーシックモデルという位置づけのクルマなのだし、小型車にまでロールスロイス感を求めても仕方ないではないか。
黒子に徹した制御系のすばらしさ
性能に関しても、もうこれで十分以上でこれ以上の速さや俊敏さは必要ないと個人的には思う。緻密に制御された4輪駆動システムは(きっと)ものすごく複雑に制御しながら車を走らせているに違いないが、極めてその動作は自然だし、すいた山坂道などを走ると、4輪で駆動している感覚が気持ちよいと思えるほどの印象である。日本の路上で使う限り、これ以上の速さは不要だと思うし、これ以上の性能はもったいないと言えるレベルだと思う。
燃費に関しては渋滞交じりの街中で使用している時が一番よく20km/lに迫ることもある反面、空いた高速道路やワインディングロード(笑)をいいペースで行くと悪化する傾向にある。結局トータルでは17km/lほどの記録にとどまったが、これは四輪駆動システムの心地よさを満喫してしまった代償かもしれない。

冒頭に述べた旧型ノートとの比較であるが、もうこれは全くの別物と言ってもよい進化で、新しいノートはすべての面で旧型ノートよりも良い車になっていると断言してもよい。愛用されている方々には申し訳ないが、正直言って旧型ノートは妙につかみどころのない自動車という印象が強く、e-Powerの旧型ノートはそのシステムの完成度なども、(何しろ最初のe-Powerなのだから致し方ないが)未完成な部分も多かったと思う。見違えるほどのクルマに成長したノートを、青い空にぽっかり浮かぶ白い雲の下で運転しながら、僕が心から敬愛するモータージャーナリスト故川上完さんの言葉と笑顔を思い出した。
「新しくなった自動車が良くなっているって、そんなの当たり前じゃない。新しくなって使いにくくなってたり、悪くなってたら困るよね」。
いつもの優しい声でそんな言葉を聞いたのは、W222メルセデスベンツSクラスのアメリカでの試乗会から完さんが帰国された直後のことで、それはもう12年も前のことになってしまった。
良くできているだけに気になる
最後に、これだけは生理的に合わなかったという不満がこの最新式ノートにはある。日産の関係者の方、とくにデザイナーの方々には説教くらうことを承知で記させていただくが、それはこのマイナーチェンジ後の妙な顔つきである。猫のヒゲとでも表現したらいいのか、とにかくなんだか馴染めないあのメッキパーツ部分がなんとも好きになれない。なんであんな顔つきにしてしまったのだろう。ノートも馴染めないが、ノートオーラの顔つきに至ってはさらに理解できない。実は僕の周囲にもそういう意見の方が多く、小学校の同級生のオオノ君に至っては「あのノートオーラの顔、生理的にダメなんだ、日産の人に言っといてよ、妙に気持ち悪いんだよ」とのこと。
デザインなんて人それぞれだと言われればそれまでだし、自動車を日夜一生懸命にデザインしている方々が芸大とか美大を出身された偉い方々であることも理解している。(それに比べて、僕は絵の一枚も満足に描けない)。でもノートとノートオーラのフロントデザインに関しては、マイナーチェンジ前のほうが、すっきりと精悍な二枚目でずっと良くなかっただろうか?(その反面?リヤランプのデザインなどは妙にスマートで格好良いから余計に困る)
目がちかちかするようなホイールカバーも含め、マイナーチェンジ前のノートのほうが男前でイケてるように思えるのは僕だけでしょうか?せっかく安くないお金を投資して行ったマイナーチェンジが、ノートの売り上げをどこかでマイナス方向に引っ張ってしまっているのだとしたら、せっかく基本的に優れた多くの部分が、本当にもったいないと思ってしまうのである。
さてそろそろノートからノートオーラに乗り換える時間である。(つづく)
Text&Photo:大林晃平