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「頑張れ!日産」の願いを込めて人気日産車をテストドライブ 「日産セレナe-POWERルキシオン」これなら長く付き合えるの巻

2025年7月4日

小学校の時に大好きだった車はスタンザとラングレー……という変な(?)人間ではあるが、とにかく日産の自動車が好きだった。

世の中には日産の自動車が大好きで熱狂的な愛好者も多いと僕は思っているし、日産にはもっともっと元気になって魅力的な自動車をこれからも生み出してほしい。そんな願いを込め、今あえて日産車の乗用車ラインナップの代表的な車種に乗ってみることにした。

基本的なルールは一週間ずつ、一切の忖度なしにレポートすること。まずは日産で一番売れているセレナからスタートしよう。

とある神奈川県内の日産の工場の前を、早朝に通過する機会がある。そんな折、「ニッサン」のロゴの入ったつなぎを着た工場の方々が、暑い日差しの中、一生懸命に道路のごみを拾っている光景を見るたびに胸が痛む。彼ら彼女たちは、どういう気持ちでテレビの報道などを見ているのだろうか。どういう気持ちを抱きながら、毎日一生懸命に工場で車を組み立てているのだろうか、と。

自動車を設計し、それを組み立てているのは(ロボットなどで省力化されているとはいえ)最終的には人間である。そしてそれを購入して乗るのも人間である。渦中の真っただ中にある日産のクルマとは、実際に乗ったらどういうものなのだろう。不振の原因はクルマそのものにあるのだろうか、それともほかの部分にあるのだろうか、何かわかるのではないか。そしてものすごく僭越ではあるが、少しでも何か応援できないだろうか、そんなことを額に汗をかきながら空き缶を拾っている工場方々の前で考えた。

だが今の日産に同情しながら日産の自動車に乗り、提灯記事のようなものを書いて絶賛することもしてはいけない、とも思った。なぜならば自動車を購入する普通の、一般的な人間は、汗水たらして働いたお金を貯金したり、数年間のローンを組んで自動車を購入し長期にわたって愛用することが一般的だからで、適当に褒めたレポートを書いてしまっては実に申し訳ない。そして何よりいい加減に一倡三嘆したインプレッションを記してしまっては、心をこめて自動車を作っている方々に失礼にあたる。普通に乗って気になる部分、なんとか改善してほしい箇所、今の時代に即していなと感じた部分などは、忖度せずに書こう、そう心に決めた。

僕は「自動車を設計したり製造することがまるでできない人間」ではあるが、自動車を作っている人たちが大好きで大好きで、心から尊敬している。数えきれないほどの人間が携わり、彼らの知恵と努力と愛があってこそ初めて自動車は世の中に生まれる。そして自動車がそこにあってくれるからこそ、私たちの生活には新しい可能性が生まれ、思い出が育まれ、より豊かな人生を歩むことができる、と信じている。これからも自動車が、一人でも多くの人を幸せに導いてくれることを願って。
さあ乗ってみよう。

まずはセレナからスタート

日産で一番売れている自動車は何か、と一般社団法人日本自動車販売協会連合会(長い)のデータで調べたところ、2025年4月の統計ではセレナが4,566台で1位。僅差でノートが4,470台で2位であった。

プロパイロット2.0を使いこなせば長距離ドライブは極めて楽になる。

そんなセレナを簡単に解説すると、純粋なガソリンエンジンモデルは2.0リッター4気筒で150PS/200Nmのエンジンを搭載し、2輪駆動と4輪駆動を選べる。一方、日産渾身のハイブリッドモデルであるe-POWERのモデルには3気筒1.4リッターの専用エンジンが163PS/315Nmを(もちろん)モーターで前輪を駆動し、車を走らせる。もちろんこちらにも4輪駆動モデルがあり、こちらはe-4ORCEと呼ばれ、前述のモーターが前輪を駆動するのに加え、リヤには82PS/195Nmモーターを搭載し、モーターとをブレーキをひとつのコンピューターで統合制御した4輪駆動ハイテクモデルとなる。

今回借り出したのは、2輪駆動のハイブリッドモデル、ということは「e-POWER」の、最上級のルキシオンと命名されたグレードである。

「日産セレナ e-POWER ルキシオン」にオプションのAWINエアロパーツをつけると3ナンバーになる。

ルキシオンは2輪駆動のみでe-4ORCE(ああややこしい)のモデルはないかわりに、日産ご自慢のプロパイロット2.0(キムタクがハンドルから手を放して指パッチンのあれだ)をはじめ、リモコンで操作可能なプロパイロットリモートパーキング、ヘッドアップディスプレイ、ニッサンコネクトナビゲーションシステム、ドライブレコーダー、さらにはETC2.0さえも標準装備されるハイテク満載最上級仕様となっている。

そこまでフル装備すれば価格も高いのは当たり前で、最上級グレードのルキシオンの本体価格は4,847,700円、そこに今回の試乗車は100V AC電源(55,000円)、ターコイズブルーの特別色(64,900円)、ホットプラスパッケージというシートヒーター、ステアリングヒーター、ワイパーデアイサーなどなどのパッケージ(99,000円)、後席専用モニター(125,400円)、ウインドウの撥水加工(14,850円)、フロアカーペット(69,300円)、そしてAWINという名のブランドのエアロパーツ一式(291,000円)が加算され 各種オプション装備も加わると総計で5,567,150円にもなる。

セレナのステアリング剛性は高く、平たん路での乗り心地は申し分ない。

ぐーーーっ、550万円のセレナかぁ、一瞬たじろぎながら乗り込みシートを調整しようとしてちょっと驚いたのはすべてのシートの調節が手動だったことだ。さらに重箱の隅をつつくとリヤゲートも手動である。グラス部分だけも開閉可能な、狭いところでも使いやすいデュアルバックドアは大いに賛成するが、せめてシートとリヤゲートは電動であってほしかった。なにせ500万円なのだから、こんな部分くらいケチるべきではない。

二分割リアゲートの使い勝手は良いが、左右のスライドドア同様に電動になればさらに良い。

こういう部分でニッサンは印象を損しちゃってるのではないか、と思いつつ走り始めると、記憶の中のe-POWERの制御とはえらく違って進化していることに驚いた。

僕の頭の中のe-POWERというのは初期のノートのものなのだが、常に車が走る場合にはエンジンがかかって発電していることが必須で、バッテリーだけでの走行は全く無理という代物だったのに、こちらはエンジンをできるだけかけずに走行しようと車が制御しているではないか。当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが、このバッテリーだけでも走行可能な状況が追加されているだけでもぜんぜん印象が違うし、最初からこうであるべきだったと思う。そんな好印象のまま、正確で安心感のあるステアリングフィールを操って狭い路地や街中を走っている限り、基本的には5ナンバー枠の扱いやすいボディサイズと相まって、セレナは大変扱いやすくスムーズで好印象である。

シンプルにまとめられた操作系は使いやすくレイアウトされている。

さらに、高速道路に乗り入れて流れの速い状況に遭遇してもパワーは十分。少なくとも日本で使っている以上、セレナにはこれ以上のパワーは不要だし、速さを追求するのであれば燃費の改善などに振るべきだと思う。ただ、燃費も悪くはなく、高速道路を淡々と流した場合、20km/L近い記録をメーターが表示することもあった。1.8トンの重さを考えれば十分以上だろう。

だが街中や路地裏での乗り心地の好印象も、中低速を超えた速度域で荒れた路面、道路の継ぎ目や大き目の凹凸などに遭遇すると、正直に乗員に伝える。またロードノイズなども決して小さくはなく、路面の変化にかなり正確に影響しているのがわかる。思えばセレナのプラットフォームはさかのぼること20年以上前のメガーヌと同じであったたことを思い出すと同時に、それを大切に進化させながら長年使い続けた開発陣は大変だっただろうな、と思わせる乗り味である。逆に言えばそれだけ基本的にすぐれた素質を持っていたプラットフォームであった、というべきかもしれないが、こういうちょっと時代を感じる部分には、もうそろそろ次のモデルでは完全新設計になってもいいかな、と悪態もついてしまう。

3列目シートからの眺め。折り畳み式テーブルの質感はいまひとつ。

それでもひと昔前のミニバンのような、どことなく雲をつかむような安心感にかけるようなステアリングフィールや直進性の欠如などは高速道路でも一切なく、むしろ正確でリラックスできる。こういうしっかりとした操舵感こそ、901運動(古い)を行っていた日産の面目躍如の部分だろう。

ミニバンで一番リラックスできるのは2列目シートだが、セレナの3列目シートの乗り心地は秀逸。シートの質感が高ければなお良いのだが。

一方、ルキシオンご自慢のプロパイロット2.0のスイッチは実にすぐれたADASで、東名高速の3区間をほとんど何もせずに走り切った。常に運転手はカメラの監視下にあるためもちろんスマートフォン操作などの悪さをすることはご法度だが、手をステアリングホイールから離し、車に運転を任せたまま100km/hで走っていると時代はかわったものだなぁ、と痛感する。僕はこういう装備が決して嫌いではなく積極的に活用する方なのだが、このプロパイロット2.0は性能面で最上位だと思う。

プロパイロット2.0のおかげで、前を見ているだけでドライバーがスロットル、ブレーキング、ステアリング操作をせずとも上手に走る。

さらに自動駐車システムも同種のものでは作動が遅かったり、セッティングが面倒くさかったりしてつい「自分でやっちゃう」ことが多いが、このセレナのものは実に簡単で的確であることを知ってからは、駐車はセレナ君に積極的に任せることにするほどの優れものであった。その方が自分で行うよりも、うっかりミスを防ぐことができて安心だからである。

結局、1週間ほど様々な使用条件でセレナ ルキシオンを使用させていただいたが、最後までどうしても馴染めなかった部分は、BMWなどにも多いセンターに戻ってしまうウインカーレバーと、妙に小さくわかりずらいハザードスイッチ(大きさを変えたり、ちょっと出っ張らせたり、スイッチの素材などを大きく他のスイッチと変えるべきだと思う)、触るたびに醜く手あかがつくだけではなくブラインドコントロールができないタッチ式のエアコンスイッチ、そしてわかりにくく扱いにくいシートレイアウトレバー、そして張りが強くて滑るしお尻が痛くなるシート生地くらいであった。

基本的には5ナンバー枠のサイズのボディはやはり日常で扱いやすかったし、本来の自動車として走る機能、という面において著しく劣ったり、これだけはどうしても困るという部分はなく、早くも訪れた酷暑の中、極めて強力で快適にエアコンを効かせながら総合で16.6km/lの燃費をさらっと出したe-Powerの性能にも不満はない。今後さらに熟成やバージョンアップが施されたならば、このシステムは魅力も増すだろうし、可能性はまだまだ大いにあると思う。

あえてわがままを言えば、もうそろそろ、まったく新しい風を感じさせるようなセレナが登場してきてもいいのではないだろうか。どこから見てもセレナであり、街中に多く走っている多くのセレナと同じアイデンティティーのデザインであることにはまったく反対しない。5ナンバー枠という限られたサイズと古いプラットフォームという、制限が多い中で精一杯新しさを入れようと努力している開発陣には頭が下がる。

ファミリーカーに最適な1台であることを再認識。売れている理由がわかった気がする。

だがそろそろ開発している(でしょう?きっと)はずの次期型セレナは、見た瞬間、購入して乗った途端に「これはすべてが新しい!」と、内外装すべての部分で、オーナーが心からウキウキするように新鮮で新時代の日産を直感的に感じさせる、「購入しやすく維持しやすい、乗る人に優しい自動車」であってほしい。

そう思いながら日産で2番目に売れている「日産ノート」に乗り換えることにした。(つづく)

Text:大林晃平
Photo:アウトビルトジャパン