アルファロメオらしさとは?ついに日本上陸を果たした新型「アルファロメオ ジュニア」をテストドライブ
2025年6月28日

わが国で発表されたばかりのアルファロメオ ジュニア(Alfa Romeo Junior)に早くも試乗する機会がやってきた。新型コンパクトSUVモデルは「アルファロメオらしかったのだろうか?」
「アルファロメオらしさとは、いったいどういうものなのだろう?」全身にアルファロメオのマークとロゴがこれでもかと散りばめられたアルファロメオ ジュニア(Alfa Romeo Junior)に乗りながらそんなことばかり考えていた。
ステランティスジャパンから発表・発売が開始されたアルファロメオ ジュニアに関しては高名なライターである相原氏が解説をしてくださっているので、今回は改めて説明しないが、ごくごく簡単に試乗したクルマのことを解説しておくと、3気筒1.2リットルターボの「イブリダ(Ibrida)」と呼ばれるハイブリッドモデルと、「エレットリカ(Elettrica)」と呼ばれるBEVの二つに大別され、今回は「イブリダ」のみに試乗した。

イブリダにはコアと呼ばれるベーシックモデルとプレミアムと呼ばれる上級モデル、さらにスペチアーレという名のローンチエディションの3つがあるが、今回我々に割り当てられたのはコア(420万円)である。コアとプレミアムの大きな差異はタイヤサイズ(コアが17インチ、プレミアムとスペチアーレが18インチ)、シート生地等の違いが大きな部分なのだが、個人的にはこういう一番ベーシックモデルこそ本質がわかると思うので、実に嬉しい。

215/60/R17という久しぶりに安心するタイヤサイズを確認し、走り始めるとまずは比較的コンパクトなサイズ(4195×1780mm)で運転しやすくボディがしっかりしていて、混みあった都内の路上でも扱いやすいことに気が付く。走行距離が1000㎞にも満たないパリッパリの新車なのでまだ十分に足回りが動いていないかのような、糊の効きすぎたシーツみたいな感じの乗り心地も決して不快には感じず、ちょっと昔のヨーロッパ車のような感じがする。それが具体的にどのヨーロッパ車なのかは言い表せないが、とにかく最新のVW ゴルフ8.5などとはまったく違った乗り味である。

普通に都内の街中やちょっとだけ流れの速い幹線道路を走っている限り、ジュニアには気になる問題点はない。当日は蒸し暑い日であったがエアコンはちゃんと効くし、流れを積極的にリードしながらキビキビと走ることができる。走行状態を表示するモニターを見ていると細かくハイブリッドのモードを巧みに切り替えているのがわかるが不自然な点はない。ただ、3つの走行モードをいずれにしてもやや回生が強く、これまたVW ゴルフのような滑るような滑走感は得られない。
だが、乾いた感覚が気持ちいい乗り心地と、1330㎏という比較的軽い車重が効いているのかシステム最高出力145psの走りは、昔のアルファロメオを知っている身としては懐かしさを感じることさえあった。さらに、驚くほど最小回転半径が小さいので、細い路地や街中でも不満はない。高めのアイポイントと相まって、おしゃれな買い物などには好適なのではないかと思う。

角度が立ち気味でアシストグリップさえ備わらない(ドアにもグリップなどがない)リヤシートだけはちょっと冷遇されているが(リヤのドア内装なども実にそっけないが、窓だけは全開する)、これが2人のためのデートカー(死語か)として使われていたならば、素敵な良いカップルに見えることは間違えない。
なにしろ試乗車のジュニアはブラックに塗られたモデルだったが、アルファロメオのロゴもブラック、グリルもブラック、そして実に15か所以上も散りばめられたアルファロメオのマークもすべてクールなモノトーン(つまり、もはやあのアルファロメオのカラーのエンブレムはボディのどこにも装備されていない)で、とにかくスタイリッシュである。洋服でここまでのコーディネートをするのは至難の業というほどの格好良さで、この格好の良さでジュニアをチョイスする人は多いと思われる。

だが、このジュニアがアルファロメオらしいかと言われると答えに窮する。そもそもアルファロメオらしいってどういうことなのか、という冒頭の自問自答に話は戻ってしまうのだが、この車ならではのよく言えば特徴・特性というか、悪く言えば癖のようなものは今回の試乗では感じ取ることができなかった。同じCMPプラットフォームを持つプジョー2008、フィアット600e、そしてジープ アベンジャーなどと、目隠しで座らされ比較試乗したらおそらく見分けがつかないし、エンブレムを外されて運転したら判別は困難だと思う。

だからこそジュニアには15個以上ものアルファロメオのロゴマークがいたるところに散りばめられ、昔のアルファロメオのモチーフが様々な箇所に施され、全身全霊で自分がアルファロメオであることを自己顕示しているのではないだろうか。エアアウトレットのつまみにさえ“ビシォーネ(ヘビ)”が施され、しかもそれは赤くライトアップされるという凝りようだ。トンネルの中や夜間でさえ、あなたの乗っているのはアルファロメオですよ、と語りかけてくるのである。


もしアルファロメオらしさが、「小粋でちょっとイカシタデザインで、乗っている自分が格好いいんじゃないか」と錯覚させてくれる自動車、ということであればジュニアはなかなか良い小型車だと思う。それは皮肉でもなんでもない。実は僕も、スタイリッシュでクールだなぁ、と各部の処理に蠱惑されてしまったからである。

あなたの考える「アルファロメオらしさ」とはなんですか?
Text:大林晃平
Photo:アウトビルトジャパン