【稀代の天才デザイナー】時代を超越した美しいデザイン パトリック ル ケモンのデザインした芸術品「無意味さの美しさ」ルノー アヴァンタイム物語
2025年8月2日

いずれにせよ、「アヴァンタイム」は、生前は失敗作とされたが、クラシックカーとしてAUTO BILD誌のランキングや他の歴史書にその地位を確立した大胆なデザインのマシンの一つに数えられる。例えば、「BMW Z3クーペ」、「スズキ ヴィターラ」、「NSU Ro 80」、「トライアンフTR7」、「フォード スコルピオIII」などだ。ただし、これらの中で、「アヴァンタイム」ほど、快適で上品なモデルは存在しない。

Photo: Ingo Barenschee / AUTO BILD
歴史
1999年:ルノーは3月のジュネーブモーターショーで「アヴァンタイム」というコンセプトカーを発表。同年開催のIAA(フランクフルトモーターショー)では量産車として披露された。市場投入は2001年秋に延期され、当初は3.0リッターV6エンジン(207馬力)のみが設定された。日産製の3.5リッターエンジンは、両ブランドの提携にもかかわらず、「アヴァンタイム」には採用されなかった。2002年4月には4つのニューモデルが追加された: V6オートマチック、0.6バールの過給圧と163馬力の2.0ターボ、150馬力の2.2リッターディーゼル、およびベースモデル「エクスプレッション」。2003年春、約8,550台の販売で生産終了となった。そのうち4,396台がフランス、1,114台がドイツ、447台が右ハンドル仕様でイギリスに輸出された。
プラス/マイナス
4つのエアバッグと530リットルのトランクを備えたデザインクラシックは多くない。それ以外では、「アヴァンタイム」の利点は主に感情的なものだ。主な欠点は、信頼性が低い点だ。V6エンジンでは、後部の3つの点火コイルが過熱で頻繁に故障する。

Photo: Matthias Brügge / AUTO BILD
自動変速機の発進時のガクガクした動きには、ソフトウェア更新が効果的だったという報告がある。さらに、ホイールベアリングの問題、スライドサンルーフのきしむ音(毎年グリースを塗布する必要あり!)、シートヒーター(シート部分に膝をつかないように!)、ソフト塗装、ルーフピラーとドアのシルバー塗装に関する問題がある。V6モデルでは、タイミングベルトの交換に11時間かかり、費用が高額だ。
市場状況
「ルノー アヴァンタイム」の価格は依然として低迷している。走行距離の多い車は5,000ユーロ(約85万円)前後で、フランスではさらに安く売り出されている。10,000ユーロ(約170万円)程度から、走行距離の少ない「アヴァンタイム」が購入可能だ。ドイツではAT車はほとんど見当たらず、ディーゼル車はさらに希少だ。
車を探している人は、Facebookの「アヴァンタイムクラブ オブ ザ ワールド(Avantime Club of the World)」や「Renault Satis & Avantime Schweiz」などの複数のグループに登録するとよいだろう。当然のことながら、フランスの供給は特に多く、「leboncoin.fr」では、販売されている「アヴァンタイム」の約2台に1台がディーゼル車だ。
スペアパーツ
良い点:「アヴァンタイム」は、「JE」シリーズの「エスパス」および「ラグナII」から多くの技術部品を採用している。
悪い点: インテリア部品やリヤライトの一部は非常に高価で、フランスの独立系ディーラーが対応してくれる場合もある。
推奨
「アヴァンタイム」をただ見るだけでなく、日常的に運転したい人は、2002年半ばまでに製造された、仕上げの粗悪なモデルは避けるべきだ。製造番号「2800」以降(助手席のカーペットの下に記載)から、品質が許容範囲になった。また、希少な2リッターターボエンジン(163馬力)はV6エンジンに匹敵する加速性能を持ち、内装も完璧な状態だ。

Photo: Ingo Barenschee / AUTO BILD
ベースモデル「エクスプレッション」はシンプルな金属製ルーフを採用しているが、他のモデルは開閉可能なガラスルーフを採用し、バンクーペをほぼカブリオレセダンに変身させる。つまり、バンカブリオレのようなものだ。または、それに近いものと言える。
技術仕様: ルノー アヴァンタイム3.0 V6
V6、フロント横置き •DOHC • マルチポイント噴射 • 排気量: 2,946c • 出力: 207PS@6,000rpm • 最大トルク: 285Nm@3,750rpm • 前輪駆動 • 6速MT(オプションで5速AT) • 前輪独立懸架、マクファーソンストラット、クロスリンク、後輪トーションバーアクスル • ホイールベース: 2,702mm • 全長/全幅/全高: 4,642/1,835/1,627mm • 0–100 km/h加速: 8.6 秒 • 最高速度: 220km/h • 新車価格(2001年): 69,823マルク(約600万円)。
大林晃平(AUTO BILD JAPAN):
好きな自動車デザイナーを3人上げろと言われたら、考えた挙句、ガンディーニ、ブルーノ サッコ、そしてパトリック ル ケモンを選ぶ僕だが(ジュージアーロは別格枠 笑)、その中のパトリック ル ケモンだけが今この世にいる人となった。

それでもやはりパトリック ル ケモンと言えば、ルノーのデザイナーとしてトゥインゴ、メガーヌ、セニック、ヴェルサティス(懐かしい)、カングー、ラグナ、エスパス(ってことはルノー全車種)を手がけ、スポールスピダーは企画からデザインまで担当していた、そんなお方であった。その魅力は、革新的でありながら、どこか優しくふんわりフランスらしいところで、とにかく当時のルノーといえば、おしゃれで、先進的で、とにかくフランスらしかった。
そんな中でもフランスらしく、もう二度とこんな車は出てこないというのが今回のアヴァンタイムである。2ドアの大きなSUV風モノスペースボディをまとった、どういうジャンルのクルマなのかは表現しにくいが、とにかく究極のおしゃれなスペシャリティーカーなのではないかと僕は思う。特にメガーヌとも共通するリヤゲート周辺のデザインは超絶魅力的な部分だし、最近の、どのクルマよりも、内装などはおしゃれなのではないだろうか。決して華美やハイテクではないが、その分、美しさとシンプルさがギュッと詰まった魅力、そして世の中のほかのクルマとはどこも似ていないこと、天賦の才というのはこういうことであると思う。
当時はとても購入する勇気も資金もなかったのだが、2025年現在、アヴァンタイムは日本市場において(だいたい)距離や程度をあまり気にしなければ、100万円付近から見つけることができる。程度がよかったり、走行距離が極端に少ない場合には、300万円近くしたり、「応談」の場合もあるが、100万円くらいで見つけることはできよう。だが安いからと言って迂闊に手を出すと、まずはオートマチックトランスミッション、エアコンといったこのころのヨーロッパ車の故障の洗礼から始まり、細かい電子部分や魅力的なピラーレスのウィンドウ部分のトラブルも多いと聞く。そしてそうなった場合、パーツはもはや簡単には見つからないだろうから、維持にはそれ相応の愛情とエネルギーが必要なことは言うまでもない。
それでも、こういう原稿を書いていると、心のどこかに、アヴァンタイム欲しいなぁ、いいなぁ、買っちゃおうかな、とささやくようなイケナイ悪魔が出てきてしまうのは、やはりパトリック ル ケモンの生み出したアヴァンタイムが本当に何物にも似ていない、もう二度と生まれない超絶格好いい自動車だからである。誕生から20年以上経過したが、アヴァンタイムよりも古臭く陳腐だったり、うねうねとデザイナーにこねくり回されて醜い「2025年最新モデル」が世の中には溢れているし、こういうデザインはもう生まれてこないのだろうか、と寂しくもなる。
そういえば当時の日産に中村史郎さんを力強くリコメンドしたものパトリック ル ケモンであった、と聞いたこともある。デザインだけではなく、人を見る目もあったようで、そういう意味でも時代を力強く牽引した洒落者、それがパトリック ル ケモンだと思う。
マルセイユに生まれた(ああ、いかにもそれっぽい)、パトリック ル ケモンは、今年でちょうど80歳になるはずである。ずいぶん前に引退してしまったが、きっと超絶おしゃれなジジイとして、毎日ブイブイ言わせながら人生を謳歌しているのではないか、と勝手に推測している。
Text: Frank B. Meyer