伝説の300SLを彷彿させる「メルセデス・ベンツ SLS AMG」 後編
2025年6月16日

SLS AMGは何がすごいのか?
「M159」AMGはエンジン屋
「63 AMG」シリーズに搭載されていた「M156」エンジンをベースにSLS用に開発された「M159」は、アルミニウムのクランクケース、マグネシウムのインテーク、鍛造ピストンなど120以上のパーツが新設計された。

ドライサンプ方式を採用したメリットは、車体にどのような方向からのGがかかってもエンジンの潤滑ができることである。つまり、前後/左右/上下のGに対して航空機のようにエンジンを上下逆さまの状態で回転させてもオイル切れを起すことがない。非常に強い前後&橫Gのかかるレーシングカーやサーキット走行を想定したスポーツカーには非常に有効な方式である。因みに、当時のポルシェやニッサンGT-Rは、ドライサンプとは言え、オイルパンを残しているが、SLS AMGは完全なドライサンプ方式を採用しているのでオイルパンがない。
どこに開発コストをかけているのか?
今まで記述してきた通り、このSLSAMGは、スーパースポーツカーに相応しい、能動的安全性の基本である「走る性能・曲がる性能・止まる性能」や受動的安全性を確保するために最新の安全技術とコストが惜しみなく導入され、トータルバランスのとれた高性能車に仕上がっている。
AMGが3年の歳月をかけて開発したエンジンは言うまでもないが、エンジン以外にアルミニユウム・スペースフレーム、トランスアクスル・レイアウト、カ-ボン製のドライブシャフト、ブレーキシステムなどにも惜しみなく、最新の安全技術とコストが投入されている。
さらに、ボディ骨格がアルミニウムで構成されていることにより、骨格部分の重量が241kgと極めて軽量なこと、また、軽量にもかかわらず、メルセデス・ベンツならではの高い安全性・強度・耐久性を誇っており、Aピラーには超高強度スチール・極超高張力鋼が採用されている。
電気自動車のSLS AMG E-CELL

当時のライバル(筆者調べ)
メルセデス・ベンツ SLS AMG

アルミニウム・スペースフレーム、フロントミッドシップ+トランスアクスル、ガルウィングドアといった強烈な個性によって、従来の顧客に加えたフェラーリ、ランボルギーニ、アストンマーティン等の顧客をターゲットとした。スポーツカー愛好家やコレクターには、SLS AMGのレーシングテクノロジーに基づくパフォーマンスや個性的なデザインが大いに感動を与えたと言える。
全長/全幅/全高(mm) | 4638/1939/1262 |
ホイールベース(mm) | 2680 |
車両重量(kg) | 1620 |
乗車定員(名) | 2 |
エンジン | V型8気筒DOHC |
排気量(cc) | 6208 |
最高出力(PS)最大トルク(kgm) | 571/6800rpm 66.3/4750rpm |
ミッション形式 | AMGスピードシフトDCT7速 |
駆動方式 | FR |
パワーウェイトレシオ(kg/ps) | 2.84 |
日本国内新車価格(2010年6月発表) | ¥24,300,000 |
※上記は欧州仕様値。日本仕様では全長4.640mm、全幅1.940mm、全高1.265mm
フェラーリ 458 イタリア

Photo:autobild.de
車名の458は、4500ccで8気筒の意味。フェラーリのミッドシップV8モデルとして、初の直噴エンジンを採用し、高い加速性能とハンドリングを誇る。シャーシにアルミ素材やさまざまな合金を採用することで車両重量はF430よりも70kgも軽い1.380kgとなり、パワーウェイトレシオは2.42kg/psを達成。やや後方寄りにミッドシップされる4499ccのV型8気筒は新設計で、フェラーリ製ロードカーとしては初めてとなる最高回転数9.000rpmを実現。
全長/全幅/全高(mm) | 4527/1937/1213 |
ホイールベース(mm) | 2650 |
車両重量(kg) | 1380 |
乗車定員(名) | 2 |
エンジン | V型8気筒DOHC直噴 |
排気量(cc) | 4499 |
最高出力(PS)最大トルク(kgm) | 570/9.000rpm 55.1kgm/6000rpm |
ミッション形式 | 7速F1デュアルクラッチ |
駆動方式 | MR |
パワーウェイトレシオ(kg/ps) | 2.42 |
日本国内新車価格(2009年7月発表) | ¥28,300,000 |
ランボルギーニ ガヤルド LP560-4

Photo:autobild.de
ガヤルドとは、スペインの闘牛飼育家の名前。LPとは、イタリア語で「Longitudinale Posteriore」(縦置き後部)を意味し、560-4は最高出力560PSと4WDに由来。アルミボディやパワートレインの軽量化で、従来よりも約20kgの軽量化に成功。チューニングにより最高出力、最大トルクともに向上し、驚異的な加速力と美しいデザインを誇る。6速シーケンシャルのe-gearシステムの他、6速MTも用意された。
全長/全幅/全高(mm) | 4345/1900/1165 |
ホイールベース(mm) | 2560 |
車両重量(kg) | 1500 |
乗車定員(名) | 2 |
エンジン | V型10気筒DOHC |
排気量(cc) | 5204 |
最高出力(PS)最大トルク(kgm) | 560/8.000rpm 55.1kgm/6500rpm |
ミッション形式 | 6速シーケンシャル e-gearシステム |
駆動方式 | フルタイム4WD(ミッドシップ) |
パワーウェイトレシオ(kg/ps) | 2.68 |
日本国内新車価格(2008年3月発表) | ¥25,331,250 |
ポルシェ 911 ターボS

Photo:autobild.de
ターボと同様に新開発の3.8Lの水平対向6気筒ツインターボを搭載。バルブコントロールシステムに変更が加えられた他、可変タービンジオメトリーなどの各所に専用チューニングが施されているのが特徴で、非常に優れた加速性能とパフォーマンスを誇る。トランスミッションは7速PDK(ポルシェ・ドッペル・クップルンク)。駆動方式は、ポルシェ・トラクション・マネージメントシステム(PTM)が導入されたフルタイム4WD。
全長/全幅/全高(mm) | 4450/1850/1300 |
ホイールベース(mm) | 2350 |
車両重量(kg) | 1585 |
乗車定員(名) | 4 |
エンジン | 水平対向6気筒ツインターボ |
排気量(cc) | 3799 |
最高出力(PS)最大トルク(kgm) | 530/6250-6750rpm 71.4/2100-4250rpm |
ミッション形式 | 7速PDK |
駆動方式 | フルタイム4WD(リアエンジン) |
パワーウェイトレシオ(kg/ps) | 2.99 |
日本国内新車価格(2010年2月発表) | ¥23,650,000 |
アウディ R8 5.2 FSI クワトロ

Photo:autobild.de
かつてルマン24時間耐久レースで5勝を挙げ、世界各国の耐久レースにおいて62戦勝を飾ったレーシングカーの遺伝子を受け継ぐモデル。高回転型FSI直噴、V型10気筒5.2Lエンジンの最高回転数はレーシングエンジンと同等の8.700rpm。クローム処理が施されたフロントシングルフレームグリル。パワーアップしたエンジンに対処するために大型化されたフロントエアインテークなど、スタイリングはアグレッシブに進化。
全長/全幅/全高(mm) | 4445/1930/1250 |
ホイールベース(mm) | 2650 |
車両重量(kg) | 1620 |
乗車定員(名) | 2 |
エンジン | V型10気筒DOHC |
排気量(cc) | 5204 |
最高出力(PS)最大トルク(kgm) | 525/8.000rpm 54.0/6.500rpm |
ミッション形式 | 6速Rトロニック |
駆動方式 | フルタイム4WD(ミッドシップ) |
パワーウェイトレシオ(kg/ps) | 3.09 |
日本国内新車価格(2009年4月発表) | ¥19,940,000 |
伝説のメルセデス・ベンツ300SLを彷彿とさせるこのSLS AMGは、当時の競合車と比較しても比類のないスーパースポーツカーであることがわかると思う。
SLS AMGはガルウィングクーペだけでなく、ロードスター、SLS AMG GT3、SLS AMG E-Cell(電気自動車!)、SLS AMG GT、ブラックシリーズ(限定車)、ファイナルエディション(限定車)と多くのバリエーションが生まれた。そして、2014年に生産を終了し、同年秋に発表されたメルセデスAMG GTが後継車として誕生し、進化を続けている。
TEXT:妻谷裕二
PHOTO:メルセデス・ベンツAG、メルセデス・ベンツミュージアム、妻谷コレクション。
【筆者の紹介】
妻谷裕二(Hiroji Tsumatani)
1949年生まれ。幼少の頃から車に興味を持ち、1972年ヤナセに入社以来、40年間に亘り販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特に輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版カタログや販売教育資料等を制作。また、メルセデス・ベンツよもやま話全88話の執筆と安全性の独自講演会も実施。趣味はクラシックカーとプラモデル。現在は大阪日独協会会員。