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知る人ぞ知るカルト的な存在「VW T3シンクロ」物語

2025年6月3日

VW T3シンクロ(Syncro):VWのオールラウンダー、T3シンクロ。1980年代末、四輪駆動はオフローダーだけのものではなかった。VWのT3シンクロは今やカルト的な存在だ。

ワーゲンバスは長年にわたって多くの愛好家から愛され続けるアイコンモデルだ。そんなワーゲンバスにはバリエーションが多い。批判すべき点があるとすれば、XXLサイズのサンルーフを開けるのは重労働が伴うことと、オールプラスチックのダッシュボードがチープに見えることだろう。これでは魅力がない。とはいえ、総合的には、「T3シンクロ」が最も理想に近いだろう。

4×4は後発となるフォルクスワーゲン

戦前の生産を除くと、フォルクスワーゲンが標準的な全輪駆動を持つようになったのは1984年以来で、「パサートB32」がシンクロの指定を受けた最初のVWだった。「T3」では、開発者がシュタイアー プフを参加させた。1985年からは全輪駆動の「VWブリ」がグラーツの生産ラインから出荷され、1990年には同様の設計の「VWゴルフ カントリー」が追加された。

カルダンシャフトは、リヤにあるエンジンと4+Gギアボックスを備えたドライブからフロントへとつながっている。最も重要な部品は、フロントディファレンシャルのビスカスカップリングである。スリップが発生した場合、このシステムによって最大100%の駆動力を前輪に流すことができる。さらに、これだけでは不十分な場合は – まるで伝統的なスポーツギアボックスのように、左下にオフロードギア「G」が待機しており、これは6.03でリバースギアと同じレシオを持つ。

直線的なライン、たくさんのプラスチック、長いギアレバー、これらすべてが典型的なT3だ。

深くて緩い砂地や普通の斜面では、ブリは十分に挑戦できないので、急勾配のオフロードを走る。トヨタが上り坂の終わりで道を譲らなければならないところ、16インチの強化されたサスペンションを持つ「T3」は、がれきや岩を乗り越えて頂上まで冷静に突き進む。バウンスやバックをすることなく、独立サスペンションとロングスプリングトラベルの利点を自信たっぷりに活用する。Gギアやデフロックはほとんど必要ない。ビスカスカップリングと6気筒エンジンは、どんな状況でも後輪に十分なパワーを供給する。

余談:エッティンガー(Oettinger)

フォルクスワーゲンは2.1リッター4気筒エンジンをベースにこのプロジェクトをスタートさせたが、予想された生産台数があまりにも少なかったため、終了直前にオクラサ創業者のゲルハルト エッティンガーに引き継いだ。彼は自らの責任で開発を完了させ、「wbx 6」を少量生産に持ち込んだ。排気量3.2リッターエンジンのNバージョンは140馬力、よりパワフルなSバージョンは165馬力を発揮した。2年後、排気量3.7リッター、最高出力180馬力の最終拡張型が登場した。最高速度は181km/h。最適化されたブレーキシステムとオプションの3段オートマチックトランスミッションを装備した3.7リッターエンジンの価格は48,000マルク(約425万円)で、標準の「T3シンクロ ドカ」は1989年当時37,000マルク(約327万円)弱だった。エッティンガーが1990年までに700台しか6気筒エンジンを販売しなかったのも不思議ではない。

標準装備のエクストラグラウンドクリアランスとオプションのケーブルウィンチにより、このT3は本格的なオフロードバンとなっている。

「wbx 6」は高回転型エンジンではないが、より深みのある低音が響くものの、それでも明らかに「T3」らしく、最大出力は5000rpmで発揮される。ハイエンドボクサーの大きな強みは、3600rpmで230Nmという豊かなトルクだ。この6気筒エンジンは140馬力をスムーズかつクリーミーに発揮するため、角張ったT3シンクロは田舎道を走るアッパーミッドレンジのクルマのように感じられる。全輪駆動の恩恵を受けて直進安定性も高い。エッティンガーのシンクロは平均燃費約6.2km/Lと健闘している。

プラス/マイナス

「T3シンクロ」は、先代の「T2」で量産化されなかったアイデアを論理的に発展させたものである。1970年代後半の公式な全輪駆動の開発オーダーは、1985年にグラーツのシュタイアー プフ社で製造された「T3シンクロ」となった。

決定的な違いは、シートメタルとシャーシにあった。ノーマルのシンクロとは対照的に、2,138台が製造された16インチバージョンは、ホイールのカットアウトが変更され、Bピラー、ショックアブソーバーマウントなど、多くの箇所でボディが補強され、アンダーライドプロテクションが装備された。多くの補強はオプションの「T3バッドロードパッケージ」の一部であり、その他の補強は16インチシンクロにのみ装備された。

16インチホイールのシンクロは、T3のコンフィギュレーションレベルの最高峰とされる。これにVWチューナーのエッティンガー製6気筒エンジンが加われば、ファンは涙を流すだろう。

最も印象的な変更点は、素人でもすぐにわかるように、フューエルフィラーネックがフロントホイールハウジングからリヤホイールハウジングに移動したことだ。長いリヤアクスルスイングアーム、ドライブシャフト、大型ブレーキ、リヤディファレンシャルロック、ギア比の変更が16インチシンクロの標準装備となっている。そのため、”ビッグ”シンクロは、単に車高が高いT3ではない。その非の打ちどころのないオフロード特性は絶賛された。

他の「T3」と同様、シンクロは主にボディワーク、ウィンドスクリーンのフレーム、スライドドア周辺で錆びる。水冷2.1リッターボクサーエンジンは、ウォータージャケットシールとシリンダーヘッドの錆に悩まされている。自然吸気エンジンやターボディーゼルエンジンはパワー不足が悩みの種だが、エッティンガーの6気筒エンジンは別格だ。シンクロは本当に必要な人だけが買うべきだ。

市場の状況

「シンクロ」は「T3」の最上位モデルである。その価格が、後輪駆動の「T3」よりも約25%高いとすれば、16インチバスはさらに高価になる。生産台数が少ないため、流通している台数も少ない。良質の16インチ車両は30,000ユーロ(約510万円)からで、エッティンガーエンジンも装着されていれば、その価格はコレクターズアイテムクラスの金額となる。全輪駆動の後継モデルである「T4」は、もっと簡単に安く手に入るがT3シンクロの代わりにはならない。

スペアパーツ

「T3シンクロ」のオーナーであるヤン ペーターゼンによれば、今のところ16インチホイールはないが、少なくともブレーキディスクはある。ホイールアーチエクステンションはアメリカ製で、「南アフリカ」ラジエーターグリルはVWクラシックで再生産されている。リヤセミトレーリングアーム、等速ジョイント、シンクロステッカーもある。水冷ボクサーエンジン用のエキゾーストブラケットとエキゾーストマニホールドも購入できる。

Text: Jan-Henrik Muche
Photo: Roman Raetzke / AUTO BILD