約50年を経てオペル伝説のレーシングモデル オペル マンタ A イルムシャーに試乗
2020年11月13日
オペル マンタ A イルムシャー(1974): ドライビングレポート
このイルムシャーのレーシングマンタには小さな劣化があるだけだ。今年はこのオペル マンタが生まれてから50年。その50周年を記念して、「オペル クラシック」は倉庫から、特別なマンタAを運び出す。イルムシャー マンタで工場ツアー&ドライビングインプレッション!
オペル マンタが50周年を迎えた。
この記念すべき年を記念して、「オペルクラシック」は特別なAシリーズのマンタを発表し、我々はこのマンタをリュッセルスハイムの工場に見学に行ってきた。そして、イルムシャーのレーシングマンタAを試乗させてもらった。
GRP製のフェンダーフレア、助手席ドア下のエキゾースト、13インチの3ピースホイール、イエローとブラックのスポーツドレスを身にまとったマンタは、見た目にはそれほどワイルドでも派手でもない。
ワイドでフラットなこの1974年モデルは、トゲのあるシリーズ生産モデルの兄弟車とは全く違う。
そして46年の歳月を経ているにもかかわらず、どの角度から見てもフォトジェニックで、スポイラーレスのシルエットと、前後左右に2個の4灯ライトで時代を超越してモダンに見える。
レーシングマンタは複雑ではない – 1つの例外を除いて
さて、さっそくハーネスを装着してみよう。
レカロシートに深く身を沈めて座り、身体をしっかり固定する。
むろんそのレカロはオリジナルではないがレーシング用のものだ。
ギアを入れ、クラッチを切って、キーを2時方向に回す。
2リッター4気筒エンジンは始動し、荒い音がコックピットとホールの間の路地に溢れ出す。
クラッチをローギアに入れて、アクセルを踏むと、イルムシャーは、まるでストリートカーに乗っているかのように、スムーズにスタートし、淡々と前進していく。
しかし、その後、不安が襲ってきた。
その理由は2500回転時にマンタのエンジンは、まるで誰かがハンドブレーキを引いたかのように、喘ぎ声とともに挙動が乱れるからだ。
スロットルオフ時の激しいバックファイアー
しかし、その低い速度域の難所さえ乗り越えれば、4気筒エンジンは健全に回転し、200馬力を発揮するようになる。
そして4500rpmになるとさらに圧力が加わる。
右からは激しい燃焼トランペット、フロントからはウェバー製デュアルキャブレターの喉の渇き。
マンタの音は、プログラミングやサウンドエンジニアリングなしで、スロットルを解放したときの心のこもったミスファイヤ音によって完成する。
ギアチェンジは機械的なクラックで報われる
マンタのシャシーは確かに張りがあるが、決して不快ではない。
70年代にはレーシングカーでさえも、もう少し柔らかくてもいいとされていた。
スポーティな運転をしていると、ワイドなボディが縦軸と横軸を中心に著しく傾斜する。
それ以外には、マンタには驚くほど遊びがない。
飾り気のないアルミ製のギアノブを備えたギアシフトは、実質的に抵抗なしで必要に応じて電光石火の速度で路地から路地を移動する。
マンタAの長いギアスティックのギアチェンジ時の機械的なカチッというクリック音は、やみつきになる。
70年代のツーリングカーがこんなにも市販車に近かったとは驚きだ。
イルムシャーのコックピットはほぼスタンダードなものだ
シート、イルムシャーのステアリング、ロールバー、助手席側の後付けのトリップコンピューターがロードバージョンのマンタのインテリアとは異なる。
それだけである。
あとはクラシックなブラックのコックピットの風景で、螺旋状の薄いAピラーに縁取られていて、ドライバーにやる気を起こさせてくれる。
当時のモータースポーツ同様、イルムシャーマンタはカリスマ的な存在であったが、70年代の安全基準は、今にして思えば理解しがたいものである。
記憶に残っているものは何か。
それは、このイルムシャーレーサーのシンプルさだ。
壮大なパワーを持つ4本のシリンダー、3つのペダルとギアスティック、後輪駆動、そしてわずか940キロ。
あとは塗装と金型だけ。
50年近く経った今でも、マンタの素直なキャラクターは、抑えきれないほどの魅力を秘めている。
至福の時を過ごした。
ありがとうマンタ。
このころの自動車はシンプルで格好いいなあ、懐かしいなあ、と思ったそこのあなた。
あなたはもう立派なおじさんエンスージャストであることは確かである。
だがこのオペル マンタは純粋に「昔の車はシンプル&軽量でいいなあ」と、私たちにストレートにアピールする、そんな一台だ。
940kgという軽量さがまずは素晴らしいし、内装も簡潔でありながら質感も高く、そして走るために必要なものだけが備わったこの凛とした雰囲気が本当にヨロシイ。
もちろん今の路上には合致しない部分もあることも、快適さや安全性では50年の時を感じさせることはあるだろう。
だが、クルマの本質である「走ること」に主眼を置いた時には、このマンタの中にはすでに大切なものすべてが用意されているのではないだろうか。
この50年は環境と安全と快適さという厚化粧を施すだけの時間だったのだろうか、とは考えすぎかもしれないが、レカロシートとかボッシュの懐かしいロゴを見ながら、50年前から自動車少年だったオジサンは、新車のように美しいマンタをしみじみ眺めて、なんだかいいなあ、とつぶやいてしまうのである。
Text: Peter R. Fischer
加筆:大林晃平
Photo: AUTO BILD / Christian Bittmann