メルセデス・ベンツ独自の安全なドアロックとグリップ形状のドアハンドル
2025年5月26日

「事故で衝撃を受けても開かないドア」と「救出時には開くドア」この相反する問題を解決したメルセデス・ベンツ独自の安全なドアロックシステムとグリップ形状のドアハンドルについて、今回は前回をバージョンアップして紹介しよう。
画期的な安全構造ボディとドアロック/ドアハンドルの歴史
1958年7月にメルセデス・ベンツは、ドアロックをしていない状態で衝撃を受けてもドアが開かないウェッジ(くさび型)・ピンロックの特許を取得した(セーフティコーンタイプの安全ドアロック)。

次いで、翌1959年8月に生産を開始した220Sb/W111(通称;羽根ベン)で衝撃吸収式ボディ構造と頑丈な客室を採用し、世界の乗用車の安全構造に大きな改革をもたらした(モノコック)。

1958年7月にメルセデス・ベンツは、ウェッジ(くさび型)・ピンロックの特許を取得(セーフティコーンタイプの安全ドアロック)。

このウェッジ(くさび型)・ピンロックには、くさび型の太いピンがドア側に、一方ポスト側にはこれを受ける頑丈なボックスが付けられている。ピンは先が細くなっているくさび型なので、左右上下から掛かる力にも強い構造。ドアを閉めた時には雄と雌がガッチリと交わる型になっており、あの「ドスッ」と安心で重量感あふれる音がする。

更に、普通のカギ状ロックが掛かる2重の安全ドアロックシステムを採用(1991年のSクラス/W126迄)。事故の際、一刻も早く乗員を救出する時には外からグリップ形状のドアハンドルを引っ張るとドアが開く構造だ。
カウンター・バランス・ウェイト付き安全ドアロック
1980年代のメルセデス・ベンツのドアロックには、もうひとつの仕掛けがあった。ドアの内側に独特の「カウンター・バランス・ウェイト(錘)」が付けられていたのだ。外側からドアハンドルを押したり、橫から車がぶつかってきた場合、「梃子の応用」でこのカウンター・バランス・ウェイトがドアを開かない[歯止めの役目を果す]ように反対側に傾く。

そして、このカウンター・バランス・ウェイトは一度傾いたら、どんな衝撃をドアの外側から与えてもドアは頑として開こうとはしないシステム。即ち、ドアハンドルを外側から引っ張った時にだけ、カウンター・バランス・ウェイトも元に戻りドアが開くことが可能というわけだ。
大型カギ状ロックと大型キャッチの安全ドアロック
1991年のSクラス/W140から現在のメルセデス・ベンツは、ドアをリモコン・キー操作で簡単に開閉が出来、ずいぶんと便利になった。材質と技術革新でドアロックの形状は以前より「大型カギ状ロック」と「大型キャッチ」になり、しっかりとドアが閉まる。さらに車速が10km/h位になると、セントラル・ロッキング・システムが作動し、ドアとトランクが自動的にロックされ、しかも「カシャ」という音がして、盗難・暴漢防止対策も兼ねている。

室内には開閉スイッチがあり、この自動ドアロックを必要に応じて、室内でも開閉できる。しかも、事故が起った時には、このセントラル・ロッキング・システムはSRSエアバッグコントロール・ユニットに「クラッシュ・センサー」が内蔵され、車内のCANバスを介して瞬時にすべてのドアのコントロール・ユニットに「緊急開放信号」が送信され、ドアロックが解除される。従って、外部からドアを瞬時に開くことが出来、いち早く客室の乗員を救出できるシステムになっている。

ドア内側には開閉スイッチがあり、この自動ドアロックを必要に応じて、室内でも開閉できる。
シームレスドアハンドル
最近のドアハンドルの形状は、2020年9月2日に世界初公開となり、7年振りにモデルチェンジしたSクラス/W223で一段とスタイリッシュになった(日本での発表は翌2021年1月28日)。特筆は、モダンなエレクトリックキーを持って車両に近づくと、ドアハンドルがすっと自動的にせり出すポップアップタイプの「シームレスドアハンドル」を採用している事だ。

この格納式ドアハンドルを引っ張るだけでドアが開けられ、走り出すと自動で格納される。しかも、万が一の事故の際は自動でせり出し、外部から引っ張って開ける事ができる。この格納式ドアハンドルは優れた空力特性と静粛性を確保し、ドアミラーやボディ各部の徹底したシーリング等と相まって、省燃費にも大いに貢献している(CD値はシリーズ最小の0.22=欧州仕様参考)。メルセデス・ベンツは、メルセデスMaybachシリーズ、メルセデスAMG SLシリーズ、EQシリーズにもこの「シームレスドアハンドル」を積極的に採用している。
筆者は先日、ソフトトップを装備した最新のメルセデスAMG SL 43でこの「シームレスドアハンドル」を試してみた。ボディカラーは艶やかなハイパーブルー、内張はナッパレザーのシエナブラウンでお洒落な組み合わせだ。

硬質で滑らかな手触りのエレクトリックキーを身に付けて車両に近づくと、ドアハンドルが確かに自動的にポップアップした(逆に手で軽く押すだけで格納)。そして、ドアハンドルを手で引くだけでドアが開いた。ブレーキを踏み、スターターボタンを押しエンジンをかけ走り出すと自動的に格納され、優れた空力性能と静粛性に貢献している事を体感した。

先述の通り、ドア内側には開閉スイッチがあり、この自動ドアロックを必要に応じて、室内でも開閉できる。ソフトトップも以前と違って、大型の11.9インチディスプレイのタッチ画面で開閉でき、その様子が画面に映し出されれる。車両から降りてドアをロックする時には、「シームレスドアハンドル」の下側にある菱形のボタンを押せばOKである。もちろん、エレクトリックキーのロックボタンを押せばドアロック可能である事は周知の通り。緊急時には、エレクトリックキーに格納されているエマジェンシーキーを引き出し、「シームレスハンドル」のセンター部にある穴に差し込み回すとドアロックは解除される。

エレクトリックキーが動作しない場合は、格納されているエマジェンシーキーを引き出して開錠する。
もちろん、メルセデスAMG SL 43のドアロック形状は、「大型カギ状ロック」と「大型キャッチ」になり、しっかりとドアが閉まるシステムだが、改めて最新のメルセデスにも気配り安全設計が継承されていた事を実感することができた。
重要な事は、メルセデス・ベンツ独自の安全なドアロックとドアハンドル構造を常にその時代に合わせて革新しているということだ。ドアハンドルは上から掴み握り易く、力が入り易い「グリップ形状」を採用して、大きな力をかけ易く引っ張るだけでドアが開き、車外からの救出が容易にできるシステムを継承採用している。つまり、指先だけを軽く引っ掛けて開く「はね上げ式」のシステムとは、発想が全く違うという事である(最近、このシステムは少なくなったが・・・)。
お洒落で安全なドアハンドルを操作する秘訣とは
このドアハンドルをお洒落で安全に操作する秘訣は、ドアハンドルの付け根当たりに親指をあてがい、残りの指全体でグリップ形状のドアハンドルを握る。その上で親指をグッと押し込みながらドアハンドルを引っ張るようにする。逆に、ドアを閉める時は勢いに任せて「バタン」と閉めるのではなく、ドアハンドルをしっかりと握ってグッと押し込むように閉めると上品に見える。

内側からドアを開ける時は、降りるのに必要な角度まで開き切るまで、ドアハンドルから手を離さない様にする。何故なら、強風の時には手を離した途端にドアがあおられて大変危険だからだ。また、隣のクルマに傷をつけてしまう恐れがあるので、ドアハンドルから手を離してはいけないのである。
この様なコツでドアを開閉して乗るようになれば、自然とお洒落で安全なメルセデス・ベンツの乗り方が身につくので、メルセデス乗りでなくとも実践してほしい。ただ、最近では半ドア状態でも自動でドアを閉める機能を有したクルマもある。
現在では、最適な移動を提供する「MaaS(Mobility as a Service)」の概念が広まってきている。さらにコネクテッド(C)、自動運転(A)、シェアリング(S)、電動化(E)の動きと共に、インフォテイメントにAIが搭載されて、言葉や動作でクルマを操作したり、自分の好みをクルマが学習したりするようになり進化しているが、いつの時代も「安全設計哲学」が重要であることを忘れてはならない。
TEXT:妻谷裕二
PHOTO:メルセデス・ベンツAG、妻谷裕二。
【筆者の紹介】
妻谷裕二(Hiroji Tsumatani)
1949年生まれ。幼少の頃から車に興味を持ち、1972年ヤナセに入社以来、40年間に亘り販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特に輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版カタログや販売教育資料等を制作。また、メルセデス・ベンツよもやま話全88話の執筆と安全性の独自講演会も実施。趣味はクラシックカーとプラモデル。現在は大阪日独協会会員。