【新型車インプレッション】クルマ選びで後悔したくない人に「VW ゴルフ TDI」
2025年2月23日

フォルクスワーゲンの最重要にして直球勝負モデルのゴルフが8から8.5へと進化した。豊洲を舞台にして開催された試乗会から大林晃平がレポートする。
新型ゴルフに試乗する数日前に親友が乗っている10年10万キロを経過した1.2リッターのゴルフ7に乗った。ブルーメタリックのそれはトレンドライン、ということは最廉価版でADASも必要最小限度だしエアコンはマニュアル。カーナビもないシンプルな仕様で、霞み始めて茶色くなりつつあるヘッドライトがいやがおうでも時の経過を感じさせる。
最新のアルピナB3と最新の911GTSを所有している彼なのに、どこに行くにもこのゴルフ7のキーを選び、乗るたびに感心しているのだという。またぁ、そんなにこの汚い(失礼)ゴルフがいいの?そんな風に訝りながら走り始めた瞬間、僕は目からうろこが落ちた。なんだこりゃ……。
滑らかにどこまでもすべるようなフリクションの少なさでありながらものすごい安定感、どんな悪路でも音を上げないサスペンション、アイドリングの無音・無振動さはセンチュリーのV12のようである。こりゃすごい、土間のように地味で贅沢装備のない室内で、僕はこれぞゴルフではないか、と一人感動していた。そしてこれはゴルフの完成形なのだと自分なりに結論付けた。これ以上のゴルフなど要らないんじゃないか、とさえ思いながら。
ゴルフ7のすばらしさに感動を覚えて臨む試乗会の日がやってきた。ゴルフ8のビックマイナーチェンジ、通称ゴルフ8.5の試乗会の会場に赴くとスタッフが開口一番「台数の少ないGTIは他の媒体の方におさえられてしまいました」と申し訳なさそうにしていたが、とんでもないとんでもない、僕が今回乗りたかったのは大幅に改良を受けた普通のゴルフ8なのだからかえって好都合である。選んだのは、用意されていた中で一番ベーシックなグレードで、ディーゼルエンジン搭載のTDI アクティブアドバンスである。もう1台は、ガソリンエンジンモデルであるeTSIのスタイルというグレードのヴァリアントを試乗させてもらうことにした。

今回のゴルフにはかなり多くのグレードが存在し、最もベーシックな「Active Basic(アクティブベーシック)」(ガソリン・ディーゼルエンジン両方、今回は試乗車なし)を出発点とし、「Active(アクティブ)」(eTSIのみ)、「Active Advance(アクティブアドバンス)」(TDIのみ)、「Style(スタイル)」(ガソリン・ディーゼル両方)、「R-Line(Rライン)」(ガソリン・ディーゼル両方)、「GTI」さらには「R」とフルラインナップ状態である。どこが違うかは一言では言いにくいが、「普通の」がアクティブとアクティブアドバンス。ちょっとそれをスポーティにしたのがスタイルで、かなりスポーティ風味にしたのがR-Lineである。アクティブベーシックは廉価版、という感じだと思う。

今回は一番廉価版のアクティブベーシックがなかったのは残念だが、次に廉価版のアクティブアドバンスが確保できただけでも幸い、と思いながら渋いシルバーに塗られた車輛に近づく。もういたって地味だがこれぞゴルフ、というかネクセンの225/45/R17 (ディーゼルでは一番サイズの小さいタイヤとなる。ガソリンではアクティブベーシックのみ16インチも設定がある)も、マトリックスヘッドライトも、3ゾーンフルオートエアコンも装備されているし、ADASに関しては全グレードとも標準で満載なものとなる。
そればかりかライトアップされるフォルクスワーゲンのエンブレム、Bピラーに刻まれたフォルクスワーゲンのロゴ、プジョー308のように立体的に光るLEDリヤランプ、さらにはフロントシートの背部に設定されたカンガルーのようなスマートフォンポケットなどなど、ゴルフもなんだか色気づいちゃったなぁ、と思いながら車に乗り込んだ。

エンジンをかけると明らかにディーゼルらしい音と振動でエンジンは目覚め、力強い走りをDSGらしいキレのある変速を伴って走り出す。無論ディーゼルらしいといっても重々しいということはまったくなく、かえって心地よい感じのするディーゼルエンジンである。まだ1600㎞ほどしか走っていなかったため、まだ硬さの残る部分も、特に乗り心地などの面で感じられたがそれでも十分以上に快適だし荒れた路面でもしっかりと対応していく骨太さにゴルフらしさを感じる。
ゴルフ8の発表当時には批判の矛先になりがちだったタッチスイッチ類は、ステアリングホイールのスイッチ類も含めメカニカルなものに退化しながらもしっかり改良されたし、これまた評価の低かったディスプレイ下のタッチスイッチ類も大きく改善された。また、輸入車が本革シート全盛の中、ファブリックシートのままであることも個人的には好感度が高いし、その調節がフォルクスワーゲンらしく超使いやすい手動式の上下のリフターや無段階式のダイヤルリクライニングなど、ゴルフはこうでなくっちゃ、と思う部分が多い。

個人的にはもっとエアコンなどもメカニカルなスイッチに退化してもいいと思うし(シート・ステアリングヒーターなどもスイッチにしてほしい)、毎回デフォルトに戻ってしまうアイドリングストップなどもまだ改善の余地はあると思う。だが着実にディーゼルエンジンの改良も、各部のブラッシュアップも、ゴルフ8が登場した時と比べ大きく洗練されたと思う。
正直なところゴルフ8が出た時の評価に関してはあまり芳しくないメディア記事が多く、扱いずらいタッチスイッチ類もさることながら、全体の完成度が7に追いついていないのではないか、という意見が多かった。今思えば7があまりにも進化しすぎて完成度が高かったことも問題だったし、BEVも同時進行で開発中でエネルギーを8に注ぎきれなかった感もあった。それに7とまったく同じものを8で作っても意味がないわけで、フォルクスワーゲンにとっても苦しい状況であったとは思う。そう考えれば今回の8.5は正常進化しているし、7とは若干方向性が違うけれどもまごうかたなくゴルフではある。

そして繰り返しになるが実用車として考えた場合、このディーゼルエンジンはやはり力強い働き者のような存在で、僕には大きな魅力に感じられた。オプションなしで4,508,000円と聞くとゴルフも高くなったと思わざるを得ないが、軽自動車でも200万円を超え、ちょっとした国産車を新車で購入する場合にも300万円では足りない昨今、この値段はまあ仕方ないと思う。というわけで、ガソリンエンジンモデルのヴァリアントに乗り換えてみる時間となった(続く)。
Text:大林晃平
Photo:アウトビルトジャパン