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VIPを乗せた高級車を運転するショーファーの役割とは?

2025年5月25日

ドライバーとショーファーの大きな違い

ショーファー(Chauffeur)とは「お抱え運転手」の意味。使用人として屋敷に住み込みで働き、馬車や自動車の運転、馬の世話、車の整備といった仕事を全て引き受け、時には秘書の仕事をし、「専門職」の名前でもあった。

現代の有能なショーファーの条件とは、運転技術のレベルが高く、クルマに関する知識が豊富であることを前提に、外国語に精通している事。次に地元はもちろん地理に詳しい事。更に、礼儀正しく、手入れが行き届いた身なりをしている事。最後に非の打ちどころのない推薦書を持っている事。この「運転席の執事」が持つべき全ての知識やノウハウは、紳士の国・英国ロンドンのブリティッシュ・ショーファー・ギルド(英国ショーファー協会)のコースで習得する事が出来るといわれている。

British Chauffeurs Guild(英国ショーファー組合)ではトレーニングプログラムを用意している。
Photo:British Chauffeurs Guild

単なるドライバーと違って、真のショーファーはクライアントをA地点からB地点に運ぶというだけではなく、思慮深く行動し、執事のように丁寧で礼儀正しく、信頼できる人なのだ。

あらゆる事態を想定して行動する

ショーファーの服装を語らずに、その役割は語れない。通常はネイビーブルー、結婚式には灰色、葬式には黒のスーツを着用。ネクタイ、ソックス、手袋、靴にも黒が最適。常に白の長袖ワイシャツを着用し、皺はアイロンで完全に伸ばす。シャツの袖は非常に暑い夏だけ、例外的にたくし上げても良い。もちろん、タトゥーは問題外、イヤリングなどの個人的な装飾品はタブー。唯一の例外は結婚指輪と腕時計。何故なら、アポイント時間の厳守は必須だからだ。停電という事もあり、時計は絶対に忘れてはならない。帽子は、曲げた親指で帽子のつばと鼻先の正しい距離を測り、正しく帽子を被る。また、ショーファーが帽子を被ったまま入れる建物は空港内である。なぜなら、クライアントが簡単にドライバーを見つけやすいからだ。

時間厳守のために、ショーファーは常に目的地への代替えルートを把握していなければならない。目的地がVIP会議場や劇場、オペラ・シアターである場合、非常に重要だ。特に上演開始後は入場禁止となる!

ショーファーの仕事は多岐にわたる。
Photo:British Chauffeurs Guild

優秀なショーファーは常に先を見越し、確認を怠らない。「旦那様、チケットはお持ちですか」と尋ねる。そして、彼はいつも主人のお気に入りの新聞や雑誌を持っている。また、ショーファーのカバンの中には懐中電灯、運転手と主人の着替え等、予想できるものは揃えている。それだけではない。靴紐、アスピリン・アレルギー患者用の頭痛薬、CDまでも揃えている。このCDは長い待ち時間に自分用ではなく主人の為に用意する。正に「備えあれば憂いなし」だ!

安全こそすべて

ショーファーは安全について万全な知識を持ち、用意周到に対応し慎重に行動する。見知らぬ人には決して窓を開けない。そして、緊急事態の際は、常に警察の指示に従い最寄りの警察署に行く。また、誘拐の98%はクルマから乗り降りする時に起こると言われている。

では、ショーファーはクルマから降りた後、車外のどの位置に移動すべきなのか。それは、クライアントが降車する際に立つ位置と同じ。つまり、ショーファーは「足のかかとを後輪のそばに置いて」立つ事である。そうすれば、開閉をチェックし、ドアに邪魔される事なく、クライアントが安全にクルマから降りるのを補助する事ができる。もし、何か危険な兆候があれば、ただちに対応する事ができる。有事の際には、即座にクライアントを社内に押し戻せるのだ。

クルマを降りたら、前を回ってクルマがしっかり停止しているか確認して、後席ドアを開けて後ろ向きに立って後方から迫る交通に注意を払う。ドアを閉める時は必ず最後まで手を添える。

また、頻繁にルートを変えて危険性を排除するなど安全法則を一貫して尊守している。当然、施錠せずにクルマを離れるなどもってのほかである。

仕事内容はクライアント次第で多岐に亘る

真のショーファーは多彩な才能の持ち主でなくてはならない。彼は、タクシー運転手、メッセンジャー、観光ガイド、守衛、エンターテイナー、ガーディアンなのだ。そして、もちろん鋭い方向感覚を備えていなければならない。住み込みのショーファーは、主人の邸宅の鍵はもちろん、主人の会社について詳細な情報を持つが守秘義務を尊守する。

世界最高峰のショーファー
Photo:autobild.de

有能なショーファーは、抜群の判断力を持ち臨機応変に行動する。そして、主人から質問された時のみに口を開く。ショーファーは、主人の移動中の完璧な従者であり、長時間待たされている時でも車内で居眠り等しない。クルマの手入れは余念なく次の出発に備えて、ピカピカに磨いておく。携帯で呼び出されれば、即、動く用意が出来ている。

ショーファーは誇りを持っている

爵位を持つ貴族の家族専用ショーファーはもちろん大変である。主人だけでなく、他の家族のニーズにも応えなければならない。例えば、女主人をフットネス・クラブに、また子供を学校へ送り迎えする。ベテラン・ショーファーともなれば「クライアントを選ぶ権利はある」と言える程、誇りを持っているものだ。もし、クライアントがスピード違反をする様にそそのかしたら、すかさずクライアントの依頼を絶つ。彼は免許証を失いかねない様な危険な行為はしない。免許証が無くては、自分の人生でなりたかった職業に就くことができないからだ。つまり、「ショーファーという職業に」!

TEXT:妻谷裕二
PHOTO&参考文献:British Chauffeurs Guild

【筆者の紹介】
妻谷裕二(Hiroji Tsumatani)
1949年生まれ。幼少の頃から車に興味を持ち、1972年ヤナセに入社以来、40年間に亘り販売促進・営業管理・教育訓練に従事。特に輸入販売促進企画やセールスの経験を生かし、メーカーに基づいた日本版カタログや販売教育資料等を制作。また、メルセデス・ベンツよもやま話全88話の執筆と安全性の独自講演会も実施。趣味はクラシックカーとプラモデル。現在は大阪日独協会会員。