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【第44回JAIA輸入車試乗会】メルセデスAMG GT43クーペ 総合力の高い正統派

2025年2月18日

モータースポーツで活躍するAMGの実力が発揮された一台、それがGT43。

自動車の歴史の始まりは諸説あるものの、最も一般的なストーリーは、1886年にカール・ベンツがガソリンエンジンを三輪車に搭載した「パテント・モトールヴァーゲン」を完成させた時に遡るというものである。それゆえ、我こそが自動車を発明した会社である、というプライドのためだろうか、メルセデス・ベンツのクルマ作りは、自動車の正道を自ら定義し世間に敷衍しようという権威主義的なものになった。

ネオクラシックカーとして未だに人気の高いW201(190E)やW124は、そんな「正しい自動車」作りに勤しんでいた時代の作品である。

しかし、1999年にAMGを買収してからのメルセデスは、これまで世間に説いてきた正論を自ら破壊するような「間違った自動車」を続々と登場させ始めた。NAの6.2リッターV8を搭載するスーパースポーツのSLS、そして同じエンジンを小さなセダンに詰め込んだモンスターのC63 AMGはその代表作であり、英国Top Gearでジェレミー・クラークソンが白煙をあげながらドリフトする映像を見せつけられたマニアは、AMGのエンブレムを付けたスポーツモデルを熱狂的に崇拝したのだった。

乗用車に常識外れのパワフルなエンジンを搭載した戦前のグロッサー、1960〜70年代の300SEL 6.3や450SEL 6.9、1990年代の500E。そして高性能車の歴史を大きく変えたガルウィングの300SL。真面目くさった正論の裏に見え隠れしていたメルセデスのスピードへの狂気が、AMGブランドという免罪符を得て爆発的に開花したのである。

リアに屹立するウィングは「正しい自動車」には付かないだろう。

山坂道が楽しいメルセデス

今回試乗したメルセデスAMG GT43クーペは、そんなAMGの最新スポーツカーである。

GTは2ドアと4ドアの2種類が用意されるが、試乗車の2ドアは、性能や価格帯こそ微妙に異なるものの、SLSから先代GTへと連なるAMG専用のスポーツクーペの系譜と考えて良いだろう。クーペのパワートレーンは3種類あり、43が2.0リッター直列4気筒にモーター(スタータとジェネレータ兼用の小型。通称BSG)、63が4.0リッターV8(モーターなし)、63 S Eパフォーマンスが4.0リッターV8にモーター(駆動用の大型)である。43は後輪駆動、63の2台はAWDとなる。

ジェレミー・クラークソンのファンとしては、V8に乗ってPOWERRRと叫んで大笑いしたかったというのが本音だが、4気筒のGT43は1790kgの車重をものともせず力強い走りを見せてくれた。

持て余すほどのパワーではないが、日本の狭い田舎道やワインディングでは明らかに過剰な性能であり、アクセルを踏むと欲しいスピードは瞬時に手に入る。4気筒ターボエンジンの最高出力は421馬力であり、2.0リッターとしては驚異的なレベルだが、何よりも素晴らしいのはターボラグを感じないことである。GT43のエンジンには、排気用タービンと吸気用コンプレッサーの間に電動モーターが仕込まれており、タービン/コンプレッサーの回転をモーターで補助することにより、ラグを上手く消しているのだ。さらに、最高出力が10kWとはいえ、BSG用モーターの駆動力アシストも加勢するため、アクセルを踏んだ瞬間のトラクションのレスポンスが良く、諸元表の数値以上にパワフルに感じるのである。

2.0リッター4気筒にも関わらず421馬力を誇るモンスター。

車内で聞く限りは派手なサウンドを響かせることもあり、直線だけで乗ると、とても4気筒とは思えない。

しかし山坂道に差し掛かると、良い意味で4気筒であることを実感できる。鼻先の重さがなく、とにかく素直に回頭していくのだ。1985mmというスーパーカー級の車幅にも関わらず、道幅が狭く、曲率が小さく、おまけに舗装も荒れている典型的な日本のワインディングをまったく苦手としない。ステアリングを切れば気持ちよくターンインし、アクセルを踏めば即座にトラクションが掛かって颯爽とコーナーから立ち上がっていく。コーナーの連続が実に楽しいクルマである。ボディの剛性感の高さはメルセデスの名を裏切らないし、ステアリングやブレーキも乗用車と異なるわずかに骨太感を残したタッチで好ましい。

これは正統派のスポーツカーである。白煙と共にドリフトするよりも、もっとシリアスなスポーツドライブが似合うクルマだ。

他のメルセデスと共通するデザインの運転席だが、着座位置は低い。

911カレラのような総合力

正直に言えば、第2世代となる最新のGTにはあまり期待していなかった。SLSや先代GTではリア側に搭載されていたギアボックス(トランスアクスル方式)が、最新のGTでは一般的なFR車と同様にフロント側に搭載されているからだ。さらに、先代よりもホイールベースが延長され(2630mmから2700mmへ)、小さなリアシートが付いたのもスポーツ性を犠牲にした措置に思えた。

しかし実際に乗ってみると、これらの設計変更がスポーツ性を損なっているとは思えなかった。GT43のパワーではトランスアクスルでなくとも十分なトラクションを得られるし、GT63以上は今回から新たにAWDが採用されているため、トラクションは先代よりも向上しているだろう。やはり実際のクルマの仕上がりは、机上の諸元からは想像できないものがある。

V8に未試乗なので確定的なことは言えないが、GT43は日本の道路環境にぴったりのベストバイではないかと思った。

迫力満点のリアビュー。1985mmの車幅はフェラーリF40より広い。

ポルシェ911で例えれば、ターボでなく、カレラの魅力を持つのがGT43である。街中、ワインディング、高速道路の別を問わず、あらゆるシチュエーションでスポーツドライブを楽しめるトータルバランスの高いクルマにGT43は仕上がっている。V8しかなかった先代とは異なる魅力をGT43は提供しているのだ。911カレラのような使い方をするならば、リアシートも大きなメリットになるだろう。室内にちょっとした荷物置き場があるのは本当に便利である。

かつて「正しい自動車」を作って自動車業界の頂点に君臨したメルセデスは、その後にAMGの免罪符のもとジェレミー・クラークソンに愛されるほどの「間違った自動車」でマニアを喜ばせた。それからF1で何度もチャンピオンを獲得したり、先代GTをベースにしたGT3レーシングカーで世界のサーキットを転戦したりした経験を活かし、トータルバランスに優れた実力派のスポーツカーさえ手の内に入れてみせた。

モータースポーツ活動で培ったメルセデスAMGの実力がいかんなく発揮された正統派スポーツカー、それがGT43である。

マイスターが組むエンジンには、担当職人のサインが入る。
ワインメタリックのボディに、黄色の差し色。ドイツ車らしからぬ色気。
イギリスのブラックリーにあるF1ファクトリー。シルバーストーン・サーキットから車で15分。

Text: AUTO BILD JAPAN
Photo: 池淵宏、河村東真、AUTO BILD JAPAN