【レトロな車】さらば愛しきパジェロ!

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バブル時代、パジェロに乗っているだけでモテた時代があったことをどれだけの人が記憶しているだろうか?いまでは日本ではすっかり見かけなくなったパジェロだが、東南アジアをはじめまだまだ海外では健在だった。ところが昨年2019年、国内外に向けたすべての生産がついに2021年に終了するとのニュースが駆け巡った。このニュースを悲しむ人が、ドイツにもいたというお話…。

三世代にわたるパジェロモデル(左から): 3.2 DI-Dトップ(2018)、2.5 TDクラシック(2003)、2.5 TD(1988)、3.2 DI-Dファイナルエディション(2018)、3.0 V6(1990)、2.5 TD GL(1991)、3.2 DI-Dトップ(2017)

くったくのない笑顔のこの初老の紳士(失礼)はヴィルフリート・マイヤー氏(69)。すでに定年退職している彼が、いざ愛車の91年製パジェロ・コンバーチブルで走り出すと、いたずら好きな小さな男の子に変身する。ご想像のとおり、これは他でもないパジェロのおかげなのだ。学校時代から「三菱マイヤー」とあだ名されるほどの「三菱フリーク」で、このパジェロを今もこよなく愛していらっしゃる。

 彼は1984年からドイツのリューネブルガーハイデという街で三菱車のディーラーを経営しており、全盛期は年間約70~80台のパジェロを販売したという。ちなみにいまは息子のマーカスがこのディーラーを引き継いでいる。

 冒頭にも述べたように、三菱はこのSUVブームのさなか、パジェロを廃止することを発表。来年2021年、岐阜県坂祝町にある1200人の従業員の働く工場は完全に閉鎖され、この伝説のオフロード車の生産がついに終了する。

 ドイツでは、2年も前になる2018年から「ファイナルエディション」が1000台限定で販売され、最後の1台は89,990ユーロ(約1,124万円)以上の価格で販売されたそうだ。ちなみにこの車は通常価格は52,000ユーロ(約650万円)前後なのにである。なお、2020年現在では、南アフリカ、インド、ブラジルなどの国ではまだ新車として販売中だ。

日本と違い、労働者の友だったパジェロ

 ドイツの「BILD am SONNTAG」誌が、82年にデビューした初代パジェロをこう評している。

「パジェロはレンジローバーやメルセデスGタイプのサラブレッドオフロード車である。その解釈は、一方では正しいが、一方では、間違っている。なぜなら、パジェロにはレンジローバーやゲレンデヴァーゲンのような魅力がないからで、それを買う人は労働者階級に属す。」

「畑を耕すのに使うお客さんもいました」
 マイヤー氏はそう回顧する。実際、彼の所有した88年式にもトレーラーヒッチが通常のものと農機具用のものの2つが付いていたという。

 たとえ農耕馬といわれても、輝かしい記録もある。1984年のロサンゼルス・オリンピックの聖火を、ドゥブロヴニク〜ボスニア間の5,000km運んだし、モナコ公国のアルバート王子(当時26歳)も、パジェロでパリ・ダカールラリーに参戦している。

外見よりも存在感。パジェロは明らかにSUVとしてではなく、ワークホースとして設計されていた。

ドイツでは2001年に女性初の砂漠のラリー挑戦者となった、ユッタ・クラインシュミットが駆った愛車もパジェロだった。ともかく、日本同様1980年代半ば、パジェロはドイツで三菱のベストセラーモデルとなった。

過激なコンバージョン。事故に遭った1990年式L040がこの鮮やかな黄色のパジェロカブリオレに変身した。ワンオフパジェロだ。

パジェロの生産中止は残念なことだが、「三菱マイヤー」もその息子たちも変わらず、信念を持って三菱ブランドに忠誠を誓っている。

「時々、お客から、プライベートでは何に乗っているの?」
と聞かれることがありますが、愚問ですよね?マイヤー氏は言う。

「パジェロよ、永遠なれ。長い間楽しませてくれてありがとう。」
ドイツ人の「パジェロ愛」は非常に強いものがある。

長いモデルサイクル。ほぼ40年の生産期間で、パジェロには4世代しか存在しない。

パジェロが世の中からなくなってしまう日が来るとは、かつて街に海に苗場にあふれていたあの姿を覚えている身としては、なんとも寂しく複雑な気持ちになってしまう。
なんとも世の流行り廃りとは無情なものだが、こういう本格的なSUV(昔はRVって呼ばれてましたねぇ)はもはや少数派で、普通の乗用車とパジェロの中間くらいの、柔らかく背が高いだけでスポーツカーのように走れるSUVこそが今の世の中の中心的存在なのだろう。
パジェロのような車種も世界的にはまだまだ必要とされたり、人気を博したりしている状況ではあるが、世界中の多くの都会ではもはや時代遅れの存在なのかもしれない。
メルセデスベンツ ゲレンデヴァーゲンや、ランドローバー ディフェンダー、あるいはJEEPやジムニーのように、思い切り硬派な(本当はそれほど硬派ではないのだが)に振ることや、トヨタ ランドクルーザーのように、世界中でひとつの地位を確立してしまえば存続できたのかもしれないが、そこまであと一歩のところでパジェロは引退せざるをえなくなってしまったことは本当に残念でならない。
世界中には今回のユーザーのように熱狂的なパジェロファンもいるし、ランエボのファンも言うまでもないし、それ以外の三菱のファンだって多く存在している。どうかその人たちが三菱を愛しているということを忘れずに、少しでもフォローできるような車種を供給してほしいと願うばかりだ。
パリダカでの大活躍シーンを使ったCMが、お茶の間のTVに毎日のように流されていた日々が懐かしい。

以下、フォトギャラリーでゆっくりとお楽しみください。

Text: Holger Karkheck
加筆:大林晃平
Photo: Holger Karkheck / AUTO BILD