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電気自動車「フォルクスワーゲン ID.4」は市民権を得られるのか?

2025年1月21日

過去にルポ、UP!、ゴルフⅣGTIを所有し、今は同グループのアウディA4クアトロに乗る大林晃平が、応援の気持ちを込めて今のフォルクスワーゲンに乗ってみることにした。今回はまずID4.である。

フィール グリュック!フォルクスワーゲン

2024年、ドイツにおけるフォルクスワーゲンのニュースがたびたび報道された。会社としてのフォルクスワーゲングループの問題も重要だが、今のフォルクスワーゲンの自動車とはいったいどんなものなのだろう?フォルクスワーゲンブランド初の電動SUV「ID.4」を1週間ほど日常使いして検証した。

フォルクスワーゲンID.4にはエンジン……ではなくパワーユニットのオンオフのスイッチやパーキングブレーキが見当たらない。車に乗り込みブレーキペダルを踏むとスイッチオン、あとはメーターの右に設えられたスイッチを向こう側にひねると車は走る。降りるときはそのスイッチの先っぽのPボタンを押し、車からそのまま降りてしまえばスイッチが自動的に切れる。サイドブレーキは、どこにも見当たらない。

ID.4のシフトスイッチ。
Photo:フォルクスワーゲン ジャパン

実はスタート・ストップのスイッチは、ステアリングコラムの右側にひっそりとついてはいるのだが、明らかにそれは非常時などに使うためのもので、普段は使うことがないような位置と形状なのは一目瞭然である。乗ると自動的に出発準備完了となり、降りると自動的にスイッチオフという仕組みはボルボEX30と同じような考えといえるが、これを「自動的にやってくれて実に便利」と思うか「乗って何もしないでスイッチが入ったり、サイドブレーキもひかないまま降りるのは不安」と考えるかで「ID.4」と馴染めるかどうかが決まるようにも思える。

サイドからリアにかけて無塗装の樹脂部分が多いので、長く乗るならコーティングしたい。

今回フォルクスワーゲンから借用した「ID.4」は深いレッドメタリックで、ピラー部分がシルバーに塗られたバッテリー容量の大きい「Pro」の方であった。価格はこの32,000円のカラーオプションを加えて6,488,000円であった。ちなみに「Lite」というバッテリー容量をプラスの77kwhから52kwhに減らした廉価版もあるがモーターの出力トルクはどちらも同じ310Nm、最大出力のみプラスの方が若干大きく204psとなる。そしてどちらも後輪駆動である。

残念ながらあまり使い勝手の良くない大きなセンターコンソールが邪魔をし、運転手の左足のスペースがやや窮屈な感じがすることがある。

どことなくシルバーのピラーが初代のアウディA1を彷彿とさせるし、白いフォルクスワーゲンのエンブレムと相まってなかなか洒落た雰囲気を醸し出してるものの、ID.4は決して小さい車ではなく、4,585mmの全長と1,850㎜の全幅を持ち、全高も1,640mmもあるためゴルフのBEV版という芸風のクルマではなく、一回り大きなSUVのようなパッケージを持つ自動車である。実際に室内に乗り込んでみるとそのスペースはかなり広く、「Pro」は大きなガラスルーフを持つこともあり大人4人には必要以上の広さと明るさを持っている。

身長170cmのドライバーのシートポジションでの後席スペースは充分に広い。「ID.4」にはセンタートンネルがないのでリラックスできる。

2,140㎏という車重ほどには重厚な乗り心地ではないし、荒れた路面では20インチのスタッドレスタイヤが悪影響を及ぼすのかドタつき荒れた感じの時やフロアからの振動を感じることもあるが、日常の使用範囲内ではハンドリングともどもケチをつけることはなにもない。フォルクスワーゲン、というよりもゴルフのような乗り味を期待すると、重厚さも軽快さもゴルフとは違うものではあるが、不快さや不安感を抱くことはなかった。

ただし、メーターに表示される航続距離に関しては不安を抱くことがあった。当初84%のバッテリー残量で航続距離が340㎞と表示されていた時には、今回お借りしたID.4は「Pro」ではない「Lite」の方かと思ってしまったが、間違えなく乗っているのは満充電での航続距離が612㎞を誇る「Pro」の方である。

残量76%で航続距離296km?「ID.4 Pro」の最大航続距離は612kmとあるのに・・・

であるならば暗算でざっと計算しても500㎞弱の走行可能距離があってしかるべきである。もし寒いシーズンで暖房を使っているから、とか今までの乗り方が電池には良くないシチュエーションであったとしても、せめて400㎞は走ると表示して欲しかった。

結局144㎞走行してバッテリー残量は43%。寒い日が続いたので容赦なくエアコンを入れたことも悪影響を及ぼしたのかもしれないが、エアコンを消して、寒さに耐えながら実用の自動車に乗るなんて個人的には絶対にイヤだ。

フォルクスワーゲンジャパンへ返却に向う日が来た。残量は40%で、現地までの距離は10㎞ほどだから楽勝!ところが、渋滞にはまってしまった。すると、あっという間に30%を切り、結構な勢いで残量が減っていく。仕方なくエアコンを切って、さらにオートライトを強制的にオフにして電費を稼ごうとしたら、オートライトは解除できないことがわかった。一旦オフにはできるのだが、すぐにオートライトオンに切り替わってしまうのである。

オートライトは「OFF」にしてもしばらくすると自動的に「ON」に切り替わってしまう。

あれよあれよと25%まで減ってしまう。走行可能距離は104kmとあるが、もはや気が気ではない。自分ではどうすることもできないもどかしさと不安感に苛まれる。ここで、目に入ったのがメルセデス・ベンツ世田谷桜丘。お付き合いがあることもあり、居ても立っても居られず救援を求めてしまったのである。

30分で84%まで充電することができた。メルセデス・ベンツ世田谷桜丘の営業マンに丁重にお礼を言って目的地へと急いだのであった。

なお今回お借りした「ID.4」は19,792㎞ほどを走行した個体であり、バッテリーが劣化するような走行距離ではない。

また、パワーに関しては踏んだ直後のトルクの立ち上がりと滑らかさにはBEVらしいものがあるが、他のBEVのような驚くほどなめらかで力強い加速感などはない。ICEからの乗り換えなら違和感はまったくないと言える。フォルクスワーゲンがあえてこのようなチューニングをしたと思われるし、共感できる。

「PRO」はどういう意味なんだろうか?

そんな印象の「ID.4」であるが、高速道路上で遭遇した45分ほどの渋滞時間は本当に快適で楽ちんだった。アクティブクルーズコントロールの精度も高く、ほぼ車に全幅の信頼を寄せたまま自動追尾状態を任せられる。こういうストップアンドゴーのような状況では内燃機関よりもはるかに細かい制御が可能なようで、静かで滑らかというBEV本来の魅力をあらためて実感させていただいた。もっとも低速でも無音というわけではなく、モーターからなのかインバーターなどからなのか、グオーンという音がしていたことも事実ではある。

それでもアクティブクルーズコントロールの制御自体は十分以上に巧みなものといえるので、「ID.4」に乗るときは、アクティブクルーズコントロールを躊躇なく使用してクルマに任せてしまったほうが快適だし、そういう場面でこそ生きてくる自動車なのではないだろうか。

「ID.4」のアクセルには再生ボタン「▶」、ブレーキには「⏸」が見えて面白い。ただ、ペダルが左にオフセットしている上に右足フットレストが違和感を感じる。ペダルを踏まなくなる日は近い!?

もう一つ文句を言わせてもらうと、ID.4をバックでパーキングさせる時に、225/50R20という高価な大径ホイールやタイヤを傷つけてしまわないようにと、ウインドーを開けてタイヤのあたりを目視すると、自動的に電源が落ち緊急停止してしまうことがわかった。ドライバーの頭が車より外部に出ているということを検知してこのような制御を行っているのだろうが、バックモニターとアラウンドビューモニターだけの映像だけではどうにも不安な古いドライバーにとっては、やはり目視してタイヤ周辺の障害物を確認したい。それが発端となっていちいち緊急停止し、セレクターを入れなおす、というのは過剰反応なのではないか、と思う。アラウンドビューモニターだけを使って車庫入れをしたり、パーキングアシストを使用して自動車に駐車行為を任せてしまえるドライバーにはこれでいいのかもしれないが、昭和40年男にはやや全体的に先進的すぎるID.4の操作系であった。

文句が多いインプレッションになってしまったが、BEVをマイカーとして購入したら、慣れるまで相当の時間を要するであろう。ガラケーからスマホに切り替えた時と同じだ。さらに、計画的な充電も必要である。ただ、慣れてきたころに返却日が来てしまったので、もう少し乗ってみたいと思っている。

Text:大林晃平
Photo:アウトビルトジャパン